六本の鉄脚が支える大正の給水塔

旧朝日町浄水場配水塔は、兵庫県高砂市高砂町朝日町にある大正12年(1923年)完成の鉄骨造配水塔で、平成15年(2003年)に登録有形文化財(建造物)となった。高さは26メートル。山陽電鉄高砂駅から徒歩5分ほどの、市の文化会館の敷地脇に立っている。

リベットで接合された6本の鉄脚が、円筒形の水槽を屋根の上まで持ち上げている。水槽の上には八角錐の屋根がかかり、頂部には小さな棟飾りが載る。高砂市の観光案内はこの輪郭を「異人館風のトンガリ屋根」と呼んでいる。

足元まで近づくと、工法がそのまま目に飛び込んでくる。継手という継手が打鋲の列で埋まっている。一つひとつの頭は親指の爪ほどの浅いドームで、フランジに沿って整然と並ぶ。この手仕事は二十年ほどのうちに溶接に置き換わっていった。ここでは、それが屋外に、実寸のまま残っている。

この塔は、加古川の水を取り入れて旧加古郡高砂町に給水した浄水場の設備だった。竣工は大正12年10月、給水開始は翌13年1月1日。昭和41年(1966年)7月に現役を退き、浄水場の機能は米田へ移った。撤去せずに残したのは、町に水道が通った日の記憶を留めるためである。

登録の理由と技術的な背景

登録年月日は平成15年3月18日、官報告示は同年4月8日。登録番号は28-0121で、登録基準は「造形の規範となっているもの」にあたる。

素材と施工には二つの名前が関わっている。鋼材は官営八幡製鉄所製。切断・穿孔・鋲打ちなどの組立加工は川崎造船所が担った。造船所が組んだ塔という出自は、見た目の説明にもなる。鉄脚の細さ、脚どうしを結ぶ筋交いの入れ方、水槽が架構に載る取り合い。いずれも当時の土木構造物というより、船体構造の作法に近い。

文化庁は本件を「我が国初期の鉄骨造配水塔の好例」と評価している。全国で残る戦前の配水塔は鉄筋コンクリート造が多数を占める。RCが配水塔の標準的な材料になるのは昭和に入ってからで、本塔はその手前の短い時期を示す資料といえる。高さと容量を求めた自治体が、大型のリベット構造物を日常的に扱っていた産業に発注した、という選択の記録でもある。

高砂に水道が必要だった事情もある。加古川の河口、播磨灘に面した港町で、製紙やマッチの工場が立ち、町家が密に建ち並ぶ。井戸は塩水の影響を受けやすい。高い位置の水槽があれば、連続してポンプを回さなくても管網に圧力を送れる。

近づいて見たい三か所

屋外の工作物で、門も窓口も開館時間もない。時間を気にせず周囲を一周できる。

ゆっくり見て報われる箇所を三つ挙げたい。まず鉄脚。垂直ではなく、わずかに外へ開いている。基部を広げて風荷重に対する剛性を稼ぐためで、真下から一本を見上げるとすぼまりがよくわかる。次に水槽が架構に載る取り合い。ブラケットとガセットが環状に集まり、全体でもっとも鋲が密な部分になっている。三つ目は屋根。八つの面が一点に集まる形で、ドームではない。水槽の覆いならドームが素直な解であるところを、あえて多面体の錐にし、棟に飾りまで付けている。インフラに対する意匠の意志がここに出ている。

光の条件で表情が変わる。真昼の順光では鋲が灰色に沈み、午後遅くの斜光になると板面を舐めるように列が浮かび上がる。

周囲の公道からの撮影に制限はない。内部は非公開で、水槽に見えるはしごと足場は点検用の設備であって展望台ではない。もう少し歩くなら、南に広がる旧高砂町の町割を辿るとよい。格子戸の続く町家、今も薪を焚く銭湯のレンガ煙突、昭和7年に高砂銀行として建てられた商工会議所。水道が敷かれた当時の町の姿が、断片として残っている。

Q&A

Q旧朝日町浄水場配水塔は見学できますか。料金はかかりますか。
A見学できます。高砂市文化会館に隣接する屋外に立っており、周囲の公道からいつでも眺められます。料金は不要で、予約もいりません。
Q旧朝日町浄水場配水塔へのアクセスと最寄り駅を教えてください。
A山陽電鉄本線の高砂駅が最寄りで、徒歩約5分です。所在地は兵庫県高砂市高砂町朝日町1-2-1。塔自体が高いため、駅を出てからの目印になります。
Q旧朝日町浄水場配水塔の内部に入ることはできますか。
A内部は非公開です。昭和41年に給水を終えて以降、水槽が使われたことはありません。外から見えるはしごや足場は保守点検用の設備です。
Q旧朝日町浄水場配水塔は撮影してもよいですか。
A公道からの撮影に制限はありません。三脚を立てる場合は、文化会館の駐車場や通路をふさがないようご配慮ください。
Q旧朝日町浄水場配水塔の高さはどれくらいですか。
A文化庁の登録データでは26メートルで、高砂市の観光案内も同じ数値を示しています。市の別ページには「約33メートル」との記載もありますが、登録上の値は26メートルです。
Q旧朝日町浄水場配水塔はなぜ文化財に登録されたのですか。
A我が国初期の鉄骨造配水塔の好例と評価されたためです。官営八幡製鉄所の鋼材を川崎造船所が組み上げており、造船技術が都市インフラに用いられた実例として価値が認められています。

基本情報

名称旧朝日町浄水場配水塔(きゅうあさひまちじょうすいじょうはいすいとう)
所在地兵庫県高砂市高砂町朝日町1-2-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0121
指定年平成15年(2003年)3月18日登録/同年4月8日告示
員数1基
寸法鉄骨造、高さ26メートル(大正12年10月竣工)
所有者高砂市
公開状況屋外・常時外観見学可(無料)。内部は非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)― 旧朝日町浄水場配水塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003296
文化遺産オンライン ― 旧朝日町浄水場配水塔
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/179516
高砂市 ― 高砂市内の名所
https://www.city.takasago.lg.jp/soshikikarasagasu/citypromotionshitsu/kanko_tokusan/3357.html
高砂市 ― 市内の文化財
https://www.city.takasago.lg.jp/soshikikarasagasu/shogaigakushuka/bunkazai/3298.html

最終更新日: 2026.08.26