キャンパスの一角に建つ35平方メートルの茶室

旧岩本家住宅茶室(大手前大学茶室竹立庵)は、兵庫県西宮市郷免町の大手前大学構内にある昭和前期の木造茶室で、令和7年(2025年)8月6日に登録有形文化財(建造物)に登録された。夙川に近い阪神間の住宅地、大学の敷地の一隅に立つ。

規模は小さい。木造平屋建、建築面積は35平方メートル。屋根は瓦葺で、軒先の一部に銅板を用いる。切妻造桟瓦葺の棟が北と南に並び、北辺には銅板葺の庇が差し出されている。この庇が効いている。ひと連なりになるはずの屋根面に段差が生まれ、客が近づく北面に奥行きが出る。平面図だけでは出ない効果である。

内部は南半分に水屋と待合、北半分に茶室を配する。水屋は道具を洗い、整える場。客はまず待合に入り、そこから茶室へ向かう。

西宮は阪神間に属する。大正から昭和初期にかけて、私鉄で大阪へ通う実業家の邸宅が次々と建った一帯である。茶の湯はその暮らしの一部だった。ここにある茶室も、施主にとっては鑑賞の対象ではなく、人を迎えるための実用の座敷だったはずだ。

岩本家と「半床庵の写し」

この茶室は、大阪北浜で相場師として活動した岩本房吉・信一郎親子が昭和初期に整えた邸宅の一部と考えられている。所有者である大手前学園は、この一族が大阪市中央公会堂(中之島)の建設費を寄贈した岩本栄之助にゆかりがあると伝えられる、と記している。系譜については伝承として扱うのが妥当で、確定した記録ではない。

建物が写したとされる対象は、より具体的である。竹立庵は、京都の茶家・久田家の三代宗全(1647-1707)にゆかりの茶室「半床庵」の写しと伝わる。名席を写すことは茶の湯の世界で認められた作法で、楽譜から演奏を起こす行為に近い。大学の説明によれば、間取りの基本構成が半床庵に倣うほか、上下で高さをずらした明かり窓、一枚板を用いた中板といった半床庵の特徴が踏襲されている。

邸宅そのものは、地味な形で生き延びた。戦前から戦後にかけて大阪商船株式会社をはじめとする企業の社員寮として使われ、のちに大手前大学の前身である大手前女子大学の学生寮となる。1990年前後、安藤忠雄の設計によるアートセンターの建設にあたり、敷地に残っていた木造家屋は解体された。竹立庵だけが残され、構内に移築された。当時の学園理事長と設計者の意向によるものと大学は説明している。文化庁の登録データは移築を平成4年(1992年)と記録する。

登録は、令和7年3月21日の文化審議会答申を経て同年8月6日に行われた。登録番号は28-0842、登録基準は「造形の規範となっているもの」。

この一棟が伝えていること

登録有形文化財の茶室は各地にあるが、この履歴を持つものはそう多くない。相場師が建て、企業の社員寮に取り込まれ、女子大の学生寮となり、解体現場から一棟だけ引き上げられて建て直された。

屋根をまず見たい。構内から視認できるのは主にそこである。二つの切妻に桟瓦、軒先に銅板、北辺に銅板葺の庇。銅板と桟瓦の組み合わせは派手さのない選択で、その控えめさこそが眼目になる。声高に自己主張する茶室は、そもそも茶室としての勝負に負けている。

見学については明記しておきたい。竹立庵は稼働中の大学キャンパス内にあり、常時の一般公開は行われていない。拝観料も公開時間も見学ルートも設定されていない。見たい場合は事前に大学へ問い合わせる必要があり、許可が得られない可能性も織り込んでおくべきである。内部の見学はとくに前提にしないほうがよい。構内での撮影も大学の定めに従うことになる。

キャンパスへは、JRさくら夙川駅・阪急夙川駅・阪神香櫨園駅のいずれからも徒歩約7分。周辺は歩くだけで報われる地区で、桜並木で知られる夙川の堤が数分の距離にあり、美術館や資料館も近い。

Q&A

Q旧岩本家住宅茶室(竹立庵)は一般公開されていますか。
A常時の一般公開は行われていません。大手前大学の構内にあり、公開時間や拝観の受付は設けられていません。見学を希望される場合は大学へお問い合わせください。許可が得られるとは限りません。
Q旧岩本家住宅茶室(竹立庵)の所在地と最寄り駅を教えてください。
A兵庫県西宮市郷免町1-1、大手前大学の夙川のキャンパス内です。JRさくら夙川駅、阪急夙川駅、阪神香櫨園駅のいずれからも徒歩約7分です。
Q旧岩本家住宅茶室はなぜ「竹立庵」と呼ばれるのですか。
A竹立庵(ちくりゅうあん)は大手前大学でこの建物に用いられている呼称です。文化庁の登録名称も「旧岩本家住宅茶室(大手前大学茶室竹立庵)」と、両方を併記する形になっています。
Q旧岩本家住宅茶室(竹立庵)は本当に半床庵の写しなのですか。
A「写しと伝わる」という扱いで、文化庁の解説も伝承として記しています。根拠として挙げられているのは間取りの基本構成のほか、上下違いの明かり窓と一枚板の中板という半床庵の特徴です。
Q旧岩本家住宅茶室(竹立庵)はいつ現在地へ移築されたのですか。
A文化庁の登録データは平成4年(1992年)移築としています。大学側は1990年前後のアートセンター建設に伴う移築と説明しており、この二つの年次には差があります。
Q旧岩本家住宅茶室(竹立庵)の登録はいつですか。
A令和7年(2025年)8月6日の登録です。同年3月21日の文化審議会答申を受けたもので、国の登録有形文化財としてはごく新しい部類に入ります。

基本情報

名称旧岩本家住宅茶室(大手前大学茶室竹立庵)/きゅういわもとけじゅうたくちゃしつ
所在地兵庫県西宮市郷免町1-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0842
指定年令和7年(2025年)8月6日登録・告示
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺一部銅板葺、建築面積35平方メートル(昭和前期/平成4年移築)
所有者学校法人大手前学園
公開状況大学構内につき常時の一般公開なし。見学は事前問い合わせが必要

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)― 旧岩本家住宅茶室(大手前大学茶室竹立庵)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015493
大手前大学 ― 文化審議会答申に関するお知らせ(竹立庵)
https://www.otemae.ac.jp/news/2025/65097/
文化庁 ― 令和7年3月21日 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)PDF
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94187801_01.pdf
大手前大学 ― アクセス
https://www.otemae.ac.jp/about/access/

最終更新日: 2026.08.26