旧岡田家住宅 延宝2年の年号をもつ町家と、建築年がわかる日本最古の酒蔵

屋根の小屋組のなかに、一枚の棟札が残っている。そこに記された年号が延宝2年(1674)。建てた年と施主を木札に書き留めるのは大工の習いで、この一枚があるために、旧岡田家住宅の店舗は「17世紀後半のどこか」ではなく、はっきりと建築年を特定できる。年代が確実な17世紀の町家は全国でも数えるほどしかなく、この建物はその一つに数えられる。

場所は大阪の北、酒づくりで栄えた伊丹の旧商家町。通りに面して店舗が建ち、その背後に二階建ての大きな酒蔵が奥へ続く。二棟のあいだには、のちに加わった釜屋と洗い場が並ぶ。店舗・洗い場・釜屋・酒蔵がひとつながりに残る例は珍しく、江戸時代の酒造家がどう働き、暮らしていたかを建物の配置そのものから読み取れる。

松屋与兵衛から岡田家へ

最初の所有者は、松屋与兵衛という酒造家である。寛文5年(1665)の史料にその名が見え、古文書と在銘の礎石から、延宝2年に建った店舗の建立者と考えられている。正徳5年(1715)ごろには店舗の北側に酒蔵を建て、酒造業を広げた。

家屋は何度も持ち主を替えた。享保7年(1722)から家運が傾き、同14年(1729)に大坂の出造り酒造家・鹿島屋清右衛門が店舗と酒蔵を買い取る。清右衛門は東側に酒蔵を増築し、伊丹の酒造が最盛期を迎えた文化・文政期(1804〜30年)には千石蔵まで建て増して生産を拡大した。

その後も酒造は続く。明治33年(1900)に岡田正造の所有となり、翌年に大きな改造が加えられた。住宅の名はこの岡田家にちなむ。酒づくりは近代に入っても止まらず、後年は大手柄酒造の北蔵として使われ、昭和59年(1984)にようやく醸造を終えた。建物はその後、伊丹市の所有となっている。ここで醸された酒には、江戸時代の松緑、岡田家の代の富貴長・大手柄などの銘がある。

なぜ重要文化財に指定されたのか

店舗と酒蔵は、平成4年(1992)に国の重要文化財に指定された。店舗は、早くから町場として開けた伊丹の町家のなかで最も古く、年代の確実な17世紀の町家として全国的にも貴重である。酒蔵はさらに希少で、建築年代が判明している現存の酒蔵としては国内最古にあたる。

この指定が特徴的なのは、酒蔵が単独で守られたのではない点にある。店舗・酒蔵・釜屋・洗い場が一連の構えとして残るため、切り取られた一棟ではなく、酒造の現場全体を一つの単位として見ることができる。解体修理にともなう発掘調査では、店舗の創建当初からこの地で酒造がおこなわれていたことが確かめられた。建物と、その建物が支えた稼業とのつながりが、地面の下からも裏づけられたわけである。

見どころ

店舗の東半分、土間に立って上を見上げてほしい。ここでは小屋組がむき出しになっている。桁行方向に太い大梁を二段に架け渡し、その上に梁行の梁を渡して束を立て、貫で固めて棟まで組み上げる。見せるためではなく、荷を負わせるための構造で、だからこそ手の込みようがそのまま伝わってくる。立ち止まってしばらく眺めたい場所である。

西半分は居室で、軒近くの天井が低くなったつし二階が屋根裏に組み込まれている。正面には塗りごめのむしこ窓と、漆喰で塗り固めた壁。火を恐れた商家らしい構えだ。東西で開口部の作りが違うのに気づくはずで、その左右非対称は、住宅から店舗へ、さらに明治期へと繰り返された改造の記録でもある。

酒蔵はほぼ正方形の平面をもち、中央の身舎屋根を一段高くして、三方に庇屋根を葺きおろす。内部には桁行三列・梁行二列、計六本の独立した通し柱が立ち、二階の床と高い屋根を支える。窓は壁の高い位置に小さく開く。作業に足りるだけの光と風を入れ、蔵のなかの温度を大きく動かさないための工夫である。いまは講演会やコンサートの会場になっているが、酒づくりに適した空間をかたちづくっていた骨組みは、そのまま見て取れる。

周辺の見どころ

旧岡田家住宅は、市立伊丹ミュージアム(I/M)の一部で、住宅の見学は無料。隣には県指定文化財の旧石橋家住宅が建つ。江戸後期の町家で、摺り上げ大戸や出格子を備え、同じ商家町の別の表情を見せてくれる。

伊丹は酒の町としての来歴が深い。地元の清酒「伊丹諸白」は江戸で「丹醸」と呼ばれて好まれ、文化元年(1804)の一年だけで27万7704樽(10万石)もの酒が江戸へ積み出された。旧岡田家住宅と旧石橋家住宅は、伊丹と灘五郷を結ぶ日本遺産「『伊丹諸白』と『灘の生一本』下り酒が生んだ銘醸地」の構成文化財でもある。近くの旧い酒蔵通りを少し歩けば、その続きが見えてくるし、ミュージアムの歴史常設展示では、伊丹の酒が馬借と樽廻船で江戸まで運ばれた道のりをたどることができる。

Q&A

Q見学に料金はかかりますか。
A住宅の見学は無料です。ミュージアムの展示室でおこなう特別展などは有料の場合がありますが、旧岡田家住宅・旧石橋家住宅そのものは無料で見ることができます。
Qいつ建てられた建物ですか。
A店舗は延宝2年(1674)の建築で、小屋組に残る棟札から年代が判明しています。背後の酒蔵は正徳5年(1715)ごろの増築です。あいだの釜屋・洗い場はそれより遅れて江戸時代に建てられ、のちに改造されています。
Q本当に日本最古の酒蔵なのですか。
A建築年代が判明している現存の酒蔵としては国内最古とされ、正徳5年(1715)ごろの建築です。これより古い酒蔵がかつて存在した可能性はありますが、年代を確実に裏づけられる例が少なく、その点でこの酒蔵の価値が際立ちます。
Q駅からの行き方を教えてください。
AJR伊丹駅から北西へ徒歩約6分、阪急伊丹駅から北東へ徒歩約9分です。専用駐車場はないため、近くの宮ノ前地下駐車場(有料)をご利用ください。
Q建物が頑丈に補強されているのはなぜですか。
A平成7年(1995)の阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたためです。解体・調査のうえ耐震補強を加えて修理し、平成13年(2001)に一般公開を再開しました。この修理にともなう調査で、創建当初からの酒造の痕跡も確かめられました。

基本データ

名称旧岡田家住宅(店舗・酒蔵)
所在地兵庫県伊丹市宮ノ前2-5-20(市立伊丹ミュージアム内)
指定区分重要文化財(建造物) 平成4年(1992)指定
店舗延宝2年(1674)建築/桁行15.4メートル・梁間15.9メートル/切妻造、本瓦葺
酒蔵正徳5年(1715)ごろ建築/桁行15.7メートル・梁間14.8メートル/身舎2階、三面庇付
所有者伊丹市
観覧料無料(住宅見学)
開館時間10:00〜18:00(入館は17:30まで)/休館:月曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)、年末年始、メンテナンス期間
アクセスJR伊丹駅から徒歩約6分、阪急伊丹駅から徒歩約9分

参考文献

旧岡田家住宅|伊丹市
https://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/TOSHIKATSURYOKU/BUNKA/bunnkazai/SINAI_BUNKAZAI/KUNI_SITEI/1386841790741.html
旧岡田家・旧石橋家住宅|市立伊丹ミュージアム
https://itami-im.jp/about/okada-ishibashi/
旧岡田家住宅(兵庫県伊丹市宮ノ前) 酒蔵|文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/201289

最終更新日: 2026.06.04

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