屋敷の奥に建つ27平方メートル
舞子公園旧木下家住宅納屋は、兵庫県神戸市垂水区東舞子町の県立舞子公園内にある木造2階建の納屋で、平成13年(2001年)11月20日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。建築面積27平方メートル、屋根は桟瓦葺である。
27平方メートルは小さい。同じ敷地の主屋が275平方メートル、土蔵が25平方メートルであることを思えば、規模としては土蔵と並ぶ脇役だ。位置も敷地の奥で、土蔵の北方、山陽電鉄の線路寄りにあたる。整えられた屋敷構えが整えるのをやめ、暮らしの実務に切り替わる場所である。
それでも文化庁の解説文は、この建物を「邸宅の主要構成要素のひとつ」と記す。理由は同じ解説文の一行前にある。南面全面にわたって、1間幅の2階建ベランダが添えられているのだ。納屋にベランダは付かない。階下は1室だが、階上は4畳と4畳半の2室に分かれる。日陰のあるベランダから入る4畳半は、物を置く場所というより人が寝起きする場所の寸法である。使用人の居所を兼ねていた可能性が読み取れる。
私邸から県立公園の建物へ
この屋敷を建てたのは、名前に残る木下家ではない。県立舞子公園の記録によれば、又野良助が私邸として昭和16年(1941年)に竣工させた数寄屋造の近代和風住宅で、昭和18年に増築が加えられている。昭和27年(1952年)に木下吉左衛門の所有となり、平成12年(2000年)、故木下吉治郎の遺族から兵庫県へ寄贈された。登録は翌平成13年12月。主屋が28-0073、土蔵が28-0074、この納屋が28-0075で、第31回の登録にあたる。
ここで年代についてひとつ断っておきたい。公園側の記録は昭和16年竣工とするが、国のデータベースは三棟いずれも昭和14年頃としている。差はわずかだが実在する食い違いで、昭和18年の増築がさらに話をややこしくしている。現地の解説とデータベースを見比べた人は、両方の数字に出会うことになる。
肝心なのは、何が残ったかである。阪神・淡路大震災は、神戸から明石にかけての海岸沿いに20世紀前半を通じて積み上がった住宅群の多くを失わせた。旧木下家住宅は、敷地の構えをほぼ創建時のまま通り抜けた。敷地面積2,209平方メートル、総建築面積343平方メートル、延べ床面積432平方メートル。主屋、土蔵、納屋、前庭、中庭が揃っている。登録が評価したのはこの全体であり、納屋はその全体を読み解けるものにしている一棟である。
外から読む納屋の造り
東西棟の切妻造、桟瓦葺。桁行3間、梁間2間だから、およそ5.5メートル×3.6メートルの小さな矩形になる。その南面に1間幅のベランダが2階分積み上がる。小屋のはずの建物が、主屋に背を向けず、こちらを向いた表構えを持つことになる。
この敷地では、そうした配慮が全体に及んでいる。主屋は数寄屋造で、平面はH字型。東西棟の大棟には町家建築から借りた虫籠窓が付き、中心の棟を軸に、東面に玄関、北東に台所、西北に茶室、南東に応接室、南西に仏間を配する。国のデータベースはこれを「昭和初期における阪神間の数寄屋造による和風邸宅の一事例」と位置づける。土蔵は茶室の北方に建つ南北棟、切妻造本瓦葺の妻入2階建で、外壁は白漆喰塗。2階の東面と南面に窓を設け、その窓庇の持送りに丁寧な仕事が見える。格の高い座敷から水回り、そして納屋まで、仕事の質が途切れない。
見学 ― 何が見られて、何が見られないか
最初に実際的な事実を書いておく。納屋は非公開エリアにある。県立舞子公園は、女中部屋、使用人室、外便所、納屋を非公開エリアとしている旨を明記している。土蔵は外から眺められ、中庭は部屋の中から見られるが、納屋は見学経路に入っていない。
主屋のほうはしっかり公開されており、それだけで訪ねる値打ちがある。入館料は大人100円、シルバー(70歳以上)50円、高校生・中学生以下は無料。20人以上の団体は大人50円、シルバー40円になる。開館は通年10時から17時、最終入館は閉館の30分前。休館日は月曜日で、月曜が祝日にあたる場合は開館し翌火曜が休館となる。340円の3邸共通入場券を使えば、旧武藤山治邸と孫文記念館(移情閣、平成13年に国の重要文化財指定)も回れる。館内の撮影は基本的に可能だが、その時々の条件は受付で確認してほしい。
行き方はJR神戸線の舞子駅、山陽電鉄の舞子公園駅、高速舞子バスのりばのいずれからも徒歩5分。旧木下家住宅に駐車場はなく、車の場合は舞子公園南地区の駐車場を使う。その南地区が明石海峡大橋の陸側の取り付き部で、橋桁の中には海面から約47メートルの高さを行く舞子海上プロムナードが通っている。近年は旧木下家住宅の敷地内にカフェが開き、館内で月ごとの茶会が催されたこともある。訪問を組み立てる前に、公園の公式ページで現在の運用を確認するのが確実である。
Q&A
- 舞子公園旧木下家住宅納屋は見学できますか。
- 見学できません。県立舞子公園は、女中部屋・使用人室・外便所・納屋を非公開エリアとしています。見学は主屋が中心で、土蔵は外から、中庭は部屋の中から眺められますが、納屋は経路に含まれていません。
- 旧木下家住宅の開館時間と入館料を教えてください。
- 通年で10時から17時、最終入館は16時30分です。休館日は月曜日(祝日の場合は開館し、翌火曜が休館)。入館料は大人100円、シルバー(70歳以上)50円、高校生・中学生以下は無料。旧武藤山治邸・孫文記念館との3邸共通入場券は大人340円です。
- 舞子公園旧木下家住宅へのアクセスは。駐車場はありますか。
- JR神戸線の舞子駅、山陽電鉄本線の舞子公園駅、高速舞子バスのりばのいずれからも徒歩5分です。旧木下家住宅には駐車場がないため、車で来られる場合は舞子公園南地区の駐車場をご利用ください。
- 舞子公園旧木下家住宅納屋はいつ登録有形文化財になりましたか。
- 平成13年(2001年)11月20日の登録、告示は同年12月4日で、第31回にあたります。登録番号は28-0075。主屋が28-0073、土蔵が28-0074で、三棟とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の基準で登録され、所有者は兵庫県です。
- 舞子公園で旧木下家住宅と一緒に回るなら、どこがおすすめですか。
- 明治40年建築の旧武藤山治邸と、孫文記念館(移情閣)が公園の南地区にあり、3邸共通入場券で回れます。移情閣は平成13年に国の重要文化財に指定された木骨コンクリートブロック造の建物です。橋桁の中を通る舞子海上プロムナードも近く、3邸をめぐる所要時間は1〜2時間ほどを見ておくとよいでしょう。
基本データ
| 名称 | 舞子公園旧木下家住宅納屋(まいここうえんきゅうきのしたけじゅうたくなや) |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県神戸市垂水区東舞子町(県立舞子公園内) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0075 |
| 指定年 | 登録 平成13年(2001年)11月20日/告示 同年12月4日(第31回) |
| 員数 | 1棟(主屋・土蔵と合わせて3棟) |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積27平方メートル、桁行3間・梁間2間 |
| 所有者 | 兵庫県 |
| 公開状況 | 納屋は非公開エリア。主屋は10時〜17時公開(月曜休館、大人100円) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 舞子公園旧木下家住宅納屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002565
- 兵庫県立舞子公園 — 旧木下家住宅
- https://hyogo-maikopark.jp/facility/f02/
- 文化遺産オンライン — 舞子公園旧木下家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/182473
- 兵庫県立舞子公園 — 旧武藤山治邸
- https://hyogo-maikopark.jp/facility/f03/
- Feel KOBE 神戸公式観光サイト — 旧木下家住宅の季節行事
- https://www.feel-kobe.jp/event/30532/
最終更新日: 2026.08.26