西正寺本堂|旧上坂部村に三百年佇む、享保期の真宗本堂

JR塚口駅から南東へ歩いてしばらく、住宅と古い町並みの境目のような尼崎市上坂部の一角に、三百年を超える歴史を刻む真宗寺院の本堂が静かに建っています。浄土真宗本願寺派 西正寺の本堂です。享保7年(1722年)に建立されたこの本堂は、令和6年(2024年)3月6日付で国の登録有形文化財(建造物)に登録され、旧上坂部村の中心寺院として地域の歴史的景観を伝える貴重な建築として、改めて注目を集めています。

西正寺とは

西正寺は浄土真宗本願寺派(西本願寺)に属する寺院です。昭和54年(1979年)に当地の庄屋であった橋本家から発見された古文書によると、寛永10年(1633年)4月15日に西本願寺第十三代宗主・良如上人より木像と寺号御免の印判を授かったとされ、また享保6年(1721年)には上坂部村領主・船越左衛門の家臣 田中五兵衛の奥印を得て、再興願書が御奉行所に提出されています。現在の本堂は、その願書が出された翌年、享保7年(1722年)に完成しました。

境内は東西約38メートル、南北約42メートルを占め、東側の街路に面して山門が開かれています。本堂は敷地中央のやや西寄りに東面して建ち、その北側に大玄関を介して庫裏が続きます。山門から本堂へと続く参道の右手には池があり、錦鯉が泳ぐ穏やかな佇まいが訪れる人を迎えます。

登録有形文化財に登録された理由

令和6年3月6日、文化庁は西正寺本堂を登録有形文化財(建造物)に登録しました。同庁の解説によれば、本堂は外陣の正側面に縁を廻し、奥に内陣を構え、その両脇に余間をとるという、中規模真宗本堂の典型的な平面構成を備えています。なかでも一間ごとに角柱を配する古式な手法は、後の真宗本堂で主流となる丸柱造りに先立つ古い形式を残すものとして高く評価されました。さらに集落の中心寺院として周囲の町並みと一体となって歴史的景観を形成している点も、登録の重要な根拠とされています。

三百年にわたって地域の信仰の場として使われ続け、なおかつ江戸中期の真宗本堂建築の特徴を読み取れる状態で残されていること——この両方が成り立っている点こそ、登録有形文化財としての本堂の価値といえます。

建築の見どころ

本堂は木造平屋建、瓦葺、建築面積203㎡。桁行七間・梁行七間という大柄な平面に、本瓦葺の入母屋造の屋根が伸びやかに架けられ、東面正面には一間の向拝が突き出しています。外観だけでも、地方の真宗寺院本堂としては堂々たる規模であることが感じられます。

近づいて目を凝らすと、いくつもの古い意匠が見えてきます。本堂には、上部に水平の蝶番を備えて上方に跳ね上げる古風な「蔀戸(しとみど)」が現存しており、江戸中期以前の建築の趣を色濃く残しています。内部は外陣・内陣・余間の伝統的な真宗本堂の構成を備え、内陣には来迎柱が立ち、本尊を奉安する空間が整えられています。本堂前方の内拝部分は、建物の形式から江戸後期に新たに設けられたものと推考されています。

境内には、本堂とともに歩んできた歴史を物語る痕跡もあります。山門は平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災で倒壊したのち再建されました。江戸時代には鐘楼や太鼓楼が境内にあり、釣鐘堂は大正8年(1919年)に建立、戦時供出を経て二度の再鋳を重ねたものの、震災で倒壊し現存しません。失われたものが少なくないなかで、享保期の本堂が今に伝わっていることの意味は決して小さくありません。

参拝の手引き

西正寺は、地域の檀信徒に支えられた現役の浄土真宗寺院です。観光施設ではないため、入場料はなく、定まった拝観時間も設けられていません。本堂外観や境内は通常、日中に静かに参拝することができますが、あくまで信仰の場であり個人の所有地でもあるため、訪れる際は静かに、節度を持って歩くようお願いします。建物内部の拝観や写真撮影、人物の撮影については、必ず事前に寺院に確認・許可を得てください。

少し特別な時期に訪れたい方には、毎年4月の第一土曜日に行われる花まつり(仏誕会)が知られています。花御堂を載せた像を稚児行列が引いて境内をめぐる、地域に長く受け継がれてきた行事です。

アクセスはJR塚口駅(JR東海道本線/神戸線)から南東へ徒歩約10分。阪急神戸線・園田駅からも徒歩圏です。住宅街の中の細い道を進むため、地図を確認しながらゆっくりと向かうのがおすすめです。

あわせて訪ねたい周辺スポット

西正寺の建つ上坂部は、旧上坂部村の中心にあたる地区で、現代の尼崎市の中にも古い町並みの記憶がそこかしこに残っています。すぐ近くには、延喜式神名帳にも記される旧上坂部村の鎮守・伊佐具神社が鎮座しており、寺と神社をあわせて巡ると、近世から続く村落の信仰景観を感じ取ることができます。路地のあちこちにはお地蔵さんが祀られ、土地の歴史をそっと物語っています。

時間に余裕があれば、尼崎市中心部の尼崎城(再建天守)や、江戸期の寺院が集中する寺町、さらに西正寺本堂と同じく令和5年・6年に登録された旧尼崎市立高等女学校の校舎・校門なども見どころです。尼崎の文化財をひと通り知るには、尼崎市立歴史博物館を起点にするのが便利です。

Q&A

Q本堂の中を拝観することはできますか?
A西正寺は観光寺院ではなく、地域の檀信徒に支えられた現役の浄土真宗寺院です。法要時には参拝できますが、本堂外観・境内も含め、訪問の際は静かにお参りください。建物内部の拝観をご希望の場合は、必ず事前に寺院へお問い合わせいただくようお願いします。
Q本堂はいつ建てられた建物ですか?
A現在の本堂は享保7年(1722年)に建立された建物で、すでに三百年を超える歴史を持ちます。寺院そのものの起源は寛永10年(1633年)まで遡るとされていますが、現存する本堂は江戸中期の再建にあたります。
Q「登録有形文化財」とはどういう文化財ですか?
A文化財保護法に基づく国の文化財制度の一つで、おおむね築50年以上の建造物などのうち、歴史的・芸術的・景観的に価値のあるものを国の登録簿に登録する制度です。日常的に使用しながら保存と活用を図ることが目的とされています。
Qどの宗派のお寺ですか?
A西正寺は浄土真宗本願寺派(西本願寺)に属する寺院です。本山は京都の西本願寺で、親鸞聖人の教えを受け継ぐ真宗の有力な一派です。
Q大阪・神戸からのアクセスは?
A大阪駅からJR東海道本線(神戸線)で塚口駅まで約10分、塚口駅から南東へ徒歩約10分です。神戸三宮駅からは同じ路線を東へ約25分で塚口駅に着きます。阪急神戸線をご利用の場合は、園田駅からも徒歩でアクセスできます。

基本情報

名称 西正寺本堂(さいしょうじほんどう)
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和6年(2024年)3月6日
建立年代 享保7年(1722年)/江戸時代
構造 木造平屋建、瓦葺、建築面積約203㎡。桁行七間・梁行七間、本瓦葺の入母屋造、正面に一間の向拝を備える
宗派 浄土真宗本願寺派(本山:西本願寺)
所有者 西正寺
所在地 〒661-0979 兵庫県尼崎市上坂部三丁目85
最寄駅 JR塚口駅(JR東海道本線/神戸線)/阪急園田駅(阪急神戸線)
拝観料 境内は自由(信仰の場として静かにお参りください)

参考文献

西正寺本堂|文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/583462
国指定文化財等データベース|西正寺本堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014882
西正寺(さいしょうじ)|尼崎市公式ホームページ
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/manabu/bunkazai_0/1028308/1028313/1035994.html
町内の寺・神社など(西正寺)|Piazza 上坂部
https://www.piazza-kamisakabe.jp/tiiki/saishoji.html

最終更新日: 2026.05.07