豪雪の山あいに開けた養蚕の集落

白峰は、石川県の南東端、手取川の左岸に細長く伸びる河岸段丘の上にある。冬の積雪は二メートルを優に超え、年によってはさらに深く積もる。この厳しい気候に応えて生まれたのが、背の高い厚壁の家々である。平成24年(2012年)7月、文化庁は集落の約10.7ヘクタールを重要伝統的建造物群保存地区に選定した。

訪れてまず目を引くのは、通りそのものだ。段丘の上は敷地が限られていたため、二階建・三階建の主屋が道に沿ってびっしりと軒を連ねる。古い家には道に面した下屋や軒庇がなく、土蔵を思わせる角ばった姿をしている。山あいの集落というより、山深くにそのまま町が現れたような、独特の景観である。

牛首から養蚕の町へ

この地はかつて牛首と呼ばれた。成立の時期は定かでないが、史料の上では16世紀にはすでに集落があったことが確認できる。言い伝えでは、養老元年(717年)に白山を開いたとされる泰澄大師が、村のはじまりに関わったと語られている。

白峰では稲がほとんど育たなかった。山に囲まれ、寒暖の差が激しいこの土地で、人々は製炭や焼畑、そして何より養蚕に生計を求めた。養蚕の歴史は古く、少なくとも16世紀半ばまでさかのぼると考えられている。この生業が、暮らしと建物の姿を決めた。江戸時代にはすでに、上層階で蚕を飼うための多層階の主屋が広まっていた。

明治中期の紀行文は、牛首を、警察分署や登記所、宿、料理店、雑貨店などが並ぶにぎやかな場所として記している。山に閉ざされた村にしては驚くほどの活気であり、それは絹がもたらしたものだった。

町並みが選定された理由

保存地区は東西約230メートル、南北約960メートルにおよぶ。選定の基準は、伝統的建造物群およびその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの、というものである。

白峰がこの基準にかなうのは、家々が豪雪と養蚕という二つの条件に深く結びついているからだ。価値は、ひときわ立派な一棟にあるのではなく、厳しい環境に応じて形づくられた山村が、集落全体として今に残っている点にある。地区の中央には社寺や有力な家が居を構え、それらを囲む石垣が長く連なって、中心部に独特の表情を与えている。

家々を読み解く

白峰の家は、細部のひとつひとつに理由がある。そしてその多くは、雪に行き着く。

屋根は切妻造である。上層階は半間ごとに柱を立てるため、その間に取られる窓は縦長で細い。壁は驚くほど厚い。下地には直径2、3センチほどのナルと呼ばれる木の枝を組み、その上を塗り込める。上層の仕上げは温かみのある黄土色で、一階は板壁、二階以上は土壁とすることが多い。黄土色の壁と縦長の窓が連なる眺めが、この通りの調子を生んでいる。

とりわけ二つの造りに注目したい。ひとつは大背戸。玄関の二階部分などに設けられた一間幅の開口で、一階が雪に埋もれたとき、薪などを出し入れするために使われた。もうひとつは仏壇出し。妻側の側面に張り出した小さな造りで、その内側に仏壇を据える。仏壇の上を人が歩かないようにし、火事の際には仏壇をそのまま外へ運び出せるようにした工夫である。屋根には、雪下ろしのための大梯子を一年じゅう立てかけておく家も多かった。

集落でもっとも大きな家は、山岸家のものだ。山岸家は大庄屋として、白山麓十八ヶ村と為政者との間の取次を代々務めた。その黄土色の大壁と縦長窓の連なりは、白峰の様式を大きな規模で見せてくれる。建物は現在、地元の自然学校の活動拠点として使われている。

集落のまわりを歩く

白峰は、半日をゆっくりかけて歩きたい土地である。集落の中心から少し歩いたところに、地区で最も古く大きな寺院、林西寺がある。明治7年(1874年)の神仏分離により、白山山頂の仏像は廃棄の危機にさらされた。山麓の村々の人々がその下山を願い出て、いくつかがこの寺に守られることになった。本堂横の堂には、重要文化財の銅造十一面観音菩薩像をはじめとする「白山下山仏」と、泰澄大師の坐像が安置されている。

絹の手仕事は、近くの織りの工房で今も続いている。二匹の蚕がともに作る玉繭から挽いた糸で織られるのが牛首紬で、その技法は石川県の無形文化財に指定されている。少し足を延ばせば、白山ろく民俗資料館が、移築・保存された江戸から明治の民家6棟とともに、山の暮らしを紹介している。

はるかな時間に触れたいなら、白山恐竜パーク白峰がある。この地域で見つかった化石をもとにした施設で、化石発掘の体験もできる。一日の終わりには、集落の総湯、白峰温泉総湯へ。ナトリウム炭酸水素塩泉の湯は「絹肌の湯」と呼ばれる。冬に訪れる人は、2月の雪だるままつりに出会えるかもしれない。約千体の雪だるまが通りに並び、日が暮れると灯がともされる。

Q&A

Q訪れるのに良い季節は?
A季節ごとに表情が変わります。町並みを歩くなら晩春から秋が歩きやすく、2月の雪だるままつりは冬の見どころです。ただし冬は雪が深く、施設の運営も限られるため、準備を整えて訪れてください。
Q白峰へのアクセスは?
A車では、中部縦貫自動車道の勝山インターチェンジから約30分です。金沢方面からは、鶴来へ鉄道で向かい、そこからバスで白山麓に入る経路があります。山間部のため便数は多くないので、出発前に時刻表の確認をおすすめします。
Q家の中に入れますか?
A保存地区は人が暮らす集落で、多くは個人の住宅です。山岸家やいくつかの資料館は見学できますが、それ以外の建物は通りから眺め、住民の暮らしに配慮してください。
Qガイドを頼めますか?
A町並みのガイド付き散策は、地元の観光協会を通じて手配できます。事前の予約をおすすめします。歴史を知るガイドとともに歩くと、見え方が変わります。
Q名物の食べ物は?
A白峰の名物に堅豆腐があります。縄で縛れるほど固く締まった豆腐で、山里の料理によく合います。地元の店で求めることができます。

基本データ

名称白山市白峰(はくさんし しらみね)
所在地石川県白山市白峰
種別重要伝統的建造物群保存地区
選定年月日平成24年(2012年)7月9日
地区の種別山村集落/養蚕町・集落
面積約10.7ヘクタール(東西約230メートル、南北約960メートル)
選定基準基準(三)伝統的建造物群およびその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの
アクセス中部縦貫自動車道・勝山ICから車で約30分ほか
見学町並みの散策は自由。各資料館は個別に開館時間・料金あり

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/103/00000100
文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206601
白山市公式ホームページ「白峰伝統的建造物群保存地区」
https://www.city.hakusan.lg.jp/bunka/bunkazai/1006458/1006453/1002403.html
白山市公式ホームページ「林西寺 白山下山仏」
https://www.city.hakusan.lg.jp/bunka/bunkazai/1002474/1002484.html
白峰観光協会
https://shiramine.info/

最終更新日: 2026.05.26