妙成寺五重塔 — 北陸唯一の木造五重塔がそびえる能登の名刹
石川県羽咋市、のどかな里山の一角に、高さ34.18メートルの優美な五重塔がそびえ立っています。妙成寺(みょうじょうじ)の五重塔は、北陸地方で唯一現存する木造の五重塔として知られ、江戸時代初期の建築技術と美意識を今に伝える貴重な文化財です。元和4年(1618年)の完成以来、日本海から吹きつける厳しい潮風や雪、そして平成19年(2007年)の能登半島地震にも耐え抜き、四百年以上にわたって人々に親しまれてきました。
妙成寺は日蓮宗の北陸本山であり、境内には五重塔をはじめ十棟もの建造物が国の重要文化財に指定されています。これほど多くの重要文化財が一つの境内にまとまって残されている例は全国でも珍しく、訪れる人を江戸時代初期の世界へと誘ってくれます。
歴史的背景
妙成寺の創建は永仁2年(1294年)にさかのぼります。寺伝によれば、日蓮の孫弟子にあたる日像上人が法華経布教のために佐渡から七尾へと船で渡る途中、真言宗の僧・満蔵法印と船中で法論を交わしました。論破された満蔵は日像の弟子となって日乗と名を改め、能登の地に新たな寺を開くこととなります。これが妙成寺の始まりとされ、以来、日蓮宗の北陸における中心寺院として発展してきました。
江戸時代になると、妙成寺は加賀藩前田家の篤い庇護を受けるようになります。三代藩主前田利常(としつね)は、生母である寿福院(じゅふくいん)の菩提を弔うため、妙成寺に七堂伽藍を寄進する大規模な造営事業を行いました。五重塔もその中核を成すもので、元和元年(1615年)に着工、元和4年(1618年)に完成したことが棟札に記されています。
建立の中心となったのは、越前北庄(現在の福井県)に住む建仁寺流の名工、坂上越後守嘉紹(さかがみえちごのかみよしあき)でした。坂上家は加賀藩前田家の御用大工として三代にわたり腕を振るい、本堂・祖師堂・五重塔をはじめとする妙成寺の主要な建造物を手がけたことで知られています。
重要文化財に指定された理由
妙成寺五重塔は明治39年(1906年)4月14日に古社寺保存法に基づき特別保護建造物に指定され、戦後の文化財保護法のもとで国の重要文化財として継承されました。100年以上前に保存対象とされたことからも、その文化的価値の高さがうかがえます。
第一に、本塔は江戸時代初期の宗教建築として極めて高い水準を示しています。桃山時代の華やかさを残しつつ、江戸初期の落ち着いた意匠へと移行する過渡期の特徴を備え、建築史上の重要な作例とされています。日本国内に現存する木造五重塔は数えるほどしかなく、その中でも北陸地方では唯一の存在です。
第二に、棟札によって建立年代と施工大工が明確に特定できる点が挙げられます。建仁寺流の越前坂上一門の手による作品であることが文書で裏付けられており、建築史的に貴重な情報を保存している建造物です。
第三に、妙成寺境内には五重塔を含む十棟もの建造物が重要文化財に指定されており、本堂・祖師堂・五重塔という主要伽藍が横一線に並ぶ独特の配置は、全国の寺院でも他に例を見ません。五重塔はこの壮大な伽藍群の中心的存在として、その価値を一層高めています。
建築の見どころ
本塔は方三間(ほうさんげん)の五重塔で、底辺は約4.85メートル四方、相輪を含めた総高は34.18メートルに及びます。塔の中心を貫く心柱(しんばしら)は直径約1メートルあり、礎石の上に建てられて塔全体に柔軟性を与えています。この構造が、四百年にわたる地震や台風から塔を守ってきた知恵といえます。
屋根は「栩葺(とちぶき)」と呼ばれる厚みのある木の薄板を重ね葺きにした珍しい仕様で、銅板や瓦を用いることが多い五重塔の中では大変稀少です。雪深い能登の気候にも適しており、塔の優美なシルエットに独特の柔らかさを添えています。
初層の各面中央には桟唐戸(さんからど)が設けられ、人物・鳥獣・植物・柘榴(ざくろ)などの浮き彫りが施されています。これらの彫刻には桃山時代の豪壮華麗な気風が色濃く残されており、近寄って鑑賞すると、彫師の卓越した技を間近に味わうことができます。初層には擬宝珠高欄(ぎぼしこうらん)を付けた切目縁(きりめえん)が巡らされ、二層以上にも組高欄が設けられています。
組物は各層とも和様の三手先組(みてさきぐみ)で統一され、外観は端正な和様を基調としていますが、初層内部には和様と唐様(禅宗様)の折衷が見られ、両様式の調和した意匠が楽しめます。よく観察すると、部材には朱色や緑青(ろくしょう)で彩色されていた跡が今も残っており、創建当初は鮮やかな色彩で人々の目を楽しませていたことがわかります。
拝観の楽しみ方
妙成寺は通年で拝観可能です。五重塔のほかにも、十棟の重要文化財建造物が広い境内に点在し、書院に隣接する庭園は五重塔を借景とした美しい池泉観賞式庭園として知られています。樹間越しに塔を望む景観は、特に夕暮れ時の柔らかな光のなかで一層印象深いものとなります。
修行の場でもある寺院ですので、静かな心持ちで巡られるとよいでしょう。一部の堂宇や宝物は常時公開されているわけではありませんので、特別な見学を希望される場合は事前に問い合わせることをおすすめします。拝観料は、これらの貴重な建造物を後世に伝えるための保存活動に役立てられています。
周辺情報
妙成寺の周辺には、能登半島ならではの観光名所が点在しています。羽咋市の千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイは、世界でも数少ない車で砂浜を走れる海岸として知られ、爽快なドライブが楽しめます。また、羽咋市の特色ある施設として、宇宙やUFOをテーマにした「コスモアイル羽咋」も人気を集めています。
さらに足を延ばせば、能登半島の雄大な海岸線、輪島の朝市、外浦の塩田、千枚田の棚田風景など、能登ならではの文化や自然に出会えます。七尾の和倉温泉を拠点にすれば、ゆったりと数日かけて能登の名所を巡る旅もおすすめです。
Q&A
- 妙成寺五重塔はいつ建てられたのですか?
- 元和4年(1618年)に完成しました。加賀藩三代藩主・前田利常の命により、その3年前の元和元年(1615年)に着工されています。
- この五重塔の特に珍しい点は何ですか?
- 北陸地方で唯一現存する木造五重塔である点です。また、屋根が銅板や瓦ではなく「栩葺(とちぶき)」という木の薄板を重ねた珍しい仕様になっていることも大きな特徴です。
- 塔の高さはどのくらいですか?
- 相輪を含めた総高は34.18メートルあります。底辺は約4.85メートル四方で、心柱の直径は約1メートルにも達します。
- 妙成寺へのアクセス方法を教えてください。
- JR羽咋駅から「北鉄能登バス富来・高浜方面行き」に乗車して約20分、「妙成寺口」バス停で下車し、徒歩約10分です。
- 境内の他の建物も見学できますか?
- はい、境内には五重塔のほか、本堂・祖師堂・経堂・鐘楼・書院・寿福院霊屋など十棟の重要文化財建造物があります。書院前から樹間越しに五重塔を望む庭園も大変美しく、合わせて鑑賞される方が多いです。
基本情報
| 名称 | 妙成寺五重塔(みょうじょうじごじゅうのとう) |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定重要文化財(明治39年4月14日指定) |
| 建立年代 | 元和4年(1618年)完成/元和元年(1615年)着工 |
| 願主 | 加賀藩三代藩主・前田利常(生母・寿福院の菩提のため建立) |
| 大工棟梁 | 越前北庄住・坂上越後守嘉紹(建仁寺流) |
| 構造 | 三間五重塔婆、栩葺(とちぶき) |
| 規模 | 総高34.18メートル(底辺約4.85メートル四方) |
| 所有者 | 妙成寺 |
| 所在地 | 石川県羽咋市滝谷町 |
| アクセス | JR羽咋駅から北鉄能登バスで約20分、「妙成寺口」下車徒歩約10分 |
参考文献
- 妙成寺公式ホームページ「五重塔」
- http://myojoji-noto.jp/property/01.html
- 石川県「妙成寺本堂・祖師堂・五重塔」
- https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/kenzoubutu/3.html
- 文化遺産オンライン「妙成寺五重塔」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/144498
- 羽咋市公式ホームページ「能登の至宝 五重塔を含む重要文化財10棟!妙成寺」
- https://www.city.hakui.lg.jp/soshiki/sangyoukensetsubu/syoukoukankouka/12/1/2500.html
- ほっと石川旅ねっと「本山妙成寺」
- https://www.hot-ishikawa.jp/spot/detail_6477.html
最終更新日: 2026.04.19