五つの丘に残る六十二基の古墳
石川県能美市の平野に、ぽつりぽつりと五つの低い丘が並んでいる。そのいずれの頂にも古墳が築かれており、これまでに確認された墳丘は六十二基にのぼる。前方後円墳が二基、前方後方墳が三基、方墳が三基、円墳が三十九基、そして墳形を読み取れなくなったものが十五基。これらをひとまとめにして「能美古墳群」と呼ぶ。
この古墳群が特別なのは、墳丘の数ではなく時間の長さにある。各地の古墳群の多くは、ある一時期に築かれて役目を終える。ここでは弥生時代の終わりから古墳時代後期まで、同じ五つの丘の上で墓づくりが途切れずに続いた。丘から丘へと歩くことは、そのまま三世紀ほどの移り変わりをたどることになる。
五つの丘は、石川県最大の河川である手取川がつくった扇状地の南の縁に位置する。いずれも平野からの比高がおよそ二十メートルの独立した小丘で、互いに少し離れて立っている。西から順に寺井山・末寺山・和田山・秋常山・西山と名づけられ、それぞれの丘がひとつの古墳群を抱える。
三世紀にわたる墓づくり
その始まりは、もっとも西の寺井山にある。低い区画の中に掘られた二基の土坑墓からは、鉄刀と鉄鏃が出土した。墓のかたちは、墳丘をもつ古墳が一般化する前、弥生時代の終末期にまでさかのぼる可能性が高い。寺井山は、古墳の伝統が始まる直前の時期をとどめている。
墓づくりはやがて中央の丘へと移る。和田山と末寺山では、古墳時代前期前半に築造が始まり、大きな中断をはさまずに後期後半まで続いた。この二つの丘には現在も三十四基の墳丘が残り、そのうち九基が発掘調査されている。和田山一号墳・二号墳から出土した鈴鏡・鈴釧・馬具は質が高く、国の所有となって京都国立博物館に収められている。
もっとも劇的な一章は秋常山にある。昭和五十九年(一九八四年)、地域史編纂のための現地踏査の際、石川考古学研究会の会員がこの丘に並外れて大きな前方後円墳があることを見抜いた。石川県内で初めて確認された全長百メートル級の前方後円墳である。ほどなく同じ丘で、もう一基の方墳も確認された。
最後の段階は、ふたたび小さな規模に戻る。もっとも東の西山には、古墳時代後期の後半にかけて十三基の円墳が築かれた。直径はいずれも十五~二十メートルほどで、一部には切石を積み上げた横穴式石室がそなわる。これは、横から入る石室の技術がこの地域に届いていたことを示す。五つの丘を順に見ていくと、墳形が前方後方墳・前方後円墳から小型の円墳へと移り、埋葬施設が土の中の主体から横穴式石室へと変わっていく流れがはっきり読み取れる。
なぜ史跡に指定されたのか
国の史跡としての指定は、段階を踏んで進んだ。まず和田山・末寺山古墳群が昭和五十年(一九七五年)に指定された。秋常山古墳群は、十年にわたる調査でその規模が確かめられたのち、平成十一年(一九九九年)に指定を受けた。そして平成二十五年(二〇一三年)、文化庁は既存の二件を統合し、新たに寺井山古墳群と西山古墳群を追加指定して、保護区域全体を「能美古墳群」と改称した。
二〇一三年の判断の根拠は、その連続性にある。墳丘のかたちの移り変わり、横穴式石室の登場、副葬品の種類のゆるやかな入れ替わり——古墳時代をひとつながりの流れとして同じ景観の上で追える場所は、全国を見渡しても多くない。五つの古墳群は、近くにたまたま並んだ別々の墓地ではなく、内的なまとまりをもった一体の史跡として評価された。指定地の面積はおよそ十三万四千九百平方メートルにのぼる。
丘の上で見ておきたいもの
古墳群の中心は秋常山一号墳である。北陸地方で最大の前方後円墳であり、その大きさは実際に登ってみて初めて実感できる。一般に挙げられる全長は約百四十メートル、後円部の直径はおよそ百八メートル、高さは十九メートル近い。ただし墳丘を三段築成と見るか二段築成と見るかについては、研究者のあいだでも見解が分かれている。最下段を墳丘の一部とみるか、墳丘外の基壇とみるかの違いで、二段ととれば全長は約百二十メートルとなる。整備にあたっては、調査データで墳丘形を確定できた上・中段を復元し、最下段は今後の検討にゆだねられた。
墳丘の斜面には葺石が施されていたが、全面ではなく限られた範囲にとどまる。その石材を分析すると二十七種類の岩石が識別され、その多くが現在の白山市にあたる下流域の河原から運ばれたものだった。埴輪は確認されていない。埋葬施設はこれまで発掘されておらず、内部に何が眠るのかはわかっていない。築造時期は古墳時代前期の末から四世紀後半と考えられている。
秋常山二号墳は、一号墳のすぐ西に位置する。古い報告では前方後方墳とされていたが、平成十三年(二〇〇一年)の調査で、くびれ部と思われていた箇所に溝が見つかり、方墳と確認された。東西の辺はおよそ三十二メートルである。能美古墳群のなかで埴輪が出土したのはこの二号墳だけで、円筒埴輪と朝顔形埴輪の破片が約三百点見つかっている。埋葬施設は組み合わせ式の木棺を粘土で覆った粘土槨で、棺の中からは滑石製の臼玉、竪櫛、鉄刀二点、そして柄の先が巻き込む鉄製の蕨手刀子が二点出土した。蕨手刀子は石川県内で初めての発見例である。埋葬施設の上には展示室が設けられ、棺と槨のようすを間近で見ることができる。二号墳の築造は五世紀の中ごろとされる。
公園整備のときに頂上の樹木が伐採されたため、秋常山の墳頂からの眺めは開けている。晴れた日には日本海、手取川の扇状地一帯、そして南に小松の市街地までを一望できる。
訪れるにあたって
秋常山の古墳は、整備された史跡公園のなかにある。一号墳・二号墳の墳丘は推定される本来の姿に復元されて芝が張られ、一号墳では葺石の一部が復元されている。二号墳の埋葬施設は覆屋に守られて公開されている。両方の墳丘に登る道がつけられており、公園を歩くのに料金はかからない。
古墳群の全体像をつかむなら、和田山のふもとに二〇二〇年に開館した能美ふるさとミュージアムを起点にするとよい。展示室には能美古墳群から出土した約三百点の資料が並び、そのなかには日本で最も古い時期の文字資料のひとつとされる刻書須恵器も含まれる。五つのテーマ展示室では、模型や映像、体験型の展示を通して、古墳を二万年を超える地域の歴史のなかに位置づけている。観覧料は一般三百円で、無料の貸出自転車があるため、離れた丘をめぐる足としても便利である。
開館時間は九時から十七時まで(最終入場は十六時三十分)、休館日は毎週月曜日と毎月第三火曜日、および年末年始である。ミュージアムに近い和田山・末寺山の古墳群は見学できるよう整備されているが、西山古墳群は調査こそ行われたものの公園として整備されてはおらず、館内の展示で味わうのがよい。
鉄道では、金沢駅からIRいしかわ鉄道で能美根上駅まで約三十分、そこから「のみバス」に乗り換えて約十五分、バス停からミュージアムまでは徒歩約二分である。車の場合は、北陸自動車道の能美根上スマートインターチェンジから二十分ほどで到着する。
能美のまわりを歩く
能美市は、色絵磁器・九谷焼の産地のひとつである。市内には窯やギャラリー、陶芸村があり、焼物の世界にふれることができる。能美ふるさとミュージアムのすぐ近くには能美市立歴史民俗資料館が建つ。南隣の小松市まで足をのばせば、航空機を集めた石川県立航空プラザもあり、家族連れの旅と相性がよい。古墳めぐりは、半日ほどで充実した行程の一部に組み込める。
Q&A
- 古墳に登ることはできますか。
- できます。秋常山の古墳は史跡公園として整備されており、一号墳・二号墳のどちらにも登る道がつけられています。一号墳の墳頂からは手取川の扇状地や日本海を見渡せます。
- いちばん大きな古墳はどれですか。
- 秋常山一号墳です。全長約百四十メートルとされる前方後円墳で、北陸地方では最大の前方後円墳にあたります。四世紀後半の築造と考えられています。
- 出土した品はどこで見られますか。
- 和田山のふもとの能美ふるさとミュージアムで、約三百点の出土資料を展示しています。和田山古墳群から出土した鈴鏡や馬具などは、京都国立博物館に収められています。
- この古墳群はどれくらいの期間にわたりますか。
- 寺井山での墓づくりは弥生時代の終末期に始まり、古墳時代後期まで続きました。五つの丘は、ひとつながりの三世紀ほどの墓づくりを記録しています。
- 車がなくても行けますか。
- 行けます。金沢駅からIRいしかわ鉄道で能美根上駅まで約三十分、そこから「のみバス」で約十五分です。起点となる能美ふるさとミュージアムはバス停から徒歩約二分で、無料の貸出自転車もあります。
基本データ
| 名称 | 能美古墳群(寺井山古墳群・和田山古墳群・末寺山古墳群・秋常山古墳群・西山古墳群) |
|---|---|
| 所在地 | 石川県能美市 |
| 指定区分 | 国指定史跡(和田山・末寺山古墳群を昭和50年〈1975年〉指定、秋常山古墳群を平成11年〈1999年〉指定、平成25年〈2013年〉10月17日に統合・追加指定・名称変更) |
| 時代 | 古墳時代前期~後期(寺井山は弥生時代終末期にさかのぼる) |
| 規模 | 五つの丘に確認された古墳62基/指定面積 約134,900平方メートル |
| 最大の古墳 | 秋常山1号墳(前方後円墳、全長約140メートル、4世紀後半) |
| アクセス | 金沢駅からIRいしかわ鉄道で能美根上駅まで約30分、のみバスで約15分/能美根上スマートICから車で約20分 |
| 関連施設 | 能美ふるさとミュージアム(開館9:00~17:00、最終入場16:30/月曜・第3火曜・年末年始休館/一般観覧料300円) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 能美古墳群
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/1007
- 文化遺産オンライン 能美古墳群
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/162601
- 能美ふるさとミュージアム
- https://www.city.nomi.ishikawa.jp/museum/
- ほっと石川旅ねっと 能美古墳群
- https://www.hot-ishikawa.jp/spot/5863
最終更新日: 2026.05.26