旧盛岡天主堂:東北に息づくロマネスク様式の木造教会
岩手県盛岡市の盛岡大学附属高等学校の敷地内に、ひっそりと佇む旧盛岡天主堂。大正元年(1912年)に建てられたこの木造教会は、ロマネスク様式の繊細な意匠を日本の木造建築技術で実現した、東北地方でも類まれな洋風宗教建築です。令和6年(2024年)12月に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、現在は「盛岡大学細川泰子記念礼拝堂」として、祈りと教育の場であり続けています。
歴史的背景
旧盛岡天主堂の歴史は、明治7年(1874年)にパリ外国宣教会の司祭たちが盛岡の民家で伝道を開始したことに遡ります。明治政府がキリスト教禁制の高札を撤去してからわずか数年後のことでした。明治11年(1878年)には鍛冶町に授産所兼仮聖堂が設けられ、明治13年(1880年)には四ツ家町(現在の本町通)に初代の天主堂が建立され、聖母のけがれなきみ心に献堂されました。
その後、大正元年(1912年)に初代天主堂に代わり、ロマネスク様式を基調とした現在の天主堂が新築献堂されました。以降60年以上にわたり盛岡のカトリック信者の信仰の拠点として親しまれましたが、昭和53年(1978年)に四ツ家教会が新築されることとなり、歴史ある天主堂は解体・移築の道をたどることになります。
この移築を実現したのが、盛岡大学の創設者・細川泰子でした。昭和24年(1949年)に盛岡の大沢川原教会で受洗したクリスチャンであった細川は、天主堂の建築的・精神的価値を深く理解し、学園の礼拝堂として活用するため、盛岡大学附属高等学校の敷地内への移築を決断しました。平成13年(2001年)、学校法人盛岡大学の創立50周年を機に「盛岡大学細川泰子記念礼拝堂」と命名され、現在に至っています。
文化財指定の理由
令和6年(2024年)7月19日、国の文化審議会は旧盛岡天主堂を国の登録有形文化財(建造物)に登録するよう文部科学大臣に答申しました。同年12月3日に正式に登録され、岩手県内の登録有形文化財は108件となりました。
登録の理由として、ロマネスクを基調とした繊細な意匠が木造で実現されている点が高く評価されました。ヨーロッパの石造教会建築の様式を、日本の伝統的な木造建築の技術と素材で忠実に再現したこの建物は、明治末期から大正初期にかけての洋風建築の受容と発展の歴史を知る上で貴重な存在とされています。
建築の見どころ
旧盛岡天主堂は、木造平屋建、切妻造鉄板葺の建物で、建築面積は226平方メートルです。正面にはスレート葺の鐘楼がそびえ、ヨーロッパの教会を思わせる端正なシルエットを岩手の空に描いています。
内部は三廊式の平面構成を採用しています。これはヨーロッパの教会建築に多く見られる形式ですが、日本の木造建築としては珍しいものです。正面に玄関を設け、背面には半円形平面の祭壇を配置。身廊には柱頭飾りを施した円柱が並び、アーチを架けてヴォールト天井を支えています。
柱頭の彫刻、アーチの連続するリズミカルな空間構成、そして木造ならではの温かみのある質感は、石造教会とはまた異なる独特の美しさを生み出しています。ロマネスク様式の荘厳さと、木の持つ柔らかさが見事に調和した空間は、訪れる人の心に静かな感動をもたらします。
見学のご案内
旧盛岡天主堂は盛岡大学附属高等学校の敷地内にあり、学生・生徒・園児をはじめ関係者が日常的に往来する教育施設内に位置しています。そのため、見学には事前の申し込みが必要です。
見学は無料ですが、原則として見学希望日の30日前までに、学校法人盛岡大学法人本部宗務課に施設見学申込書を提出し、許可を受ける必要があります。天主堂は祈りの場所であるため、見学中は心静かにお過ごしください。建物内および敷地内での飲食はご遠慮いただいています。
なお、建物内にトイレや手洗い場はありません。お手洗いは学生会館内の施設をご利用いただけます(受付にお声がけください)。自家用車やバスでお越しの際は、到着時間を事前にお知らせいただければ、駐車場への誘導が行われます。
盛岡の周辺観光情報
盛岡市は、ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「2023年に行くべき52カ所」に日本から唯一選ばれた街として世界的に注目を集めています。旧盛岡天主堂のある厨川地区から市中心部へはバスで約20分と近く、歴史と文化に彩られた見どころが点在しています。
辰野金吾の設計による明治時代の洋風建築「岩手銀行赤レンガ館」は国の重要文化財に指定され、現在は一般公開されています。盛岡地方裁判所の構内には、巨大な花崗岩の割れ目から育った樹齢約360年の「石割桜」があり、国の天然記念物として毎年多くの花見客を魅了しています。盛岡城跡公園(不来方城跡)では、春の桜や秋の紅葉を楽しむことができます。
文学に関心のある方には、石川啄木と宮沢賢治の青春時代を紹介する「もりおか啄木・賢治青春館」がおすすめです。また、盛岡の三大麺として知られる「わんこそば」「盛岡冷麺」「盛岡じゃじゃ麺」もぜひお試しください。
Q&A
- 旧盛岡天主堂はいつ建てられ、いつ文化財に登録されましたか?
- 大正元年(1912年)に盛岡市四ツ家町(現本町通)に建てられました。昭和53年(1978年)に現在の盛岡大学附属高等学校敷地内に移築され、令和6年(2024年)12月3日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。
- 予約なしで見学できますか?
- いいえ、事前予約が必要です。見学希望日の30日前までに、学校法人盛岡大学法人本部宗務課に施設見学申込書を提出し、許可を受けてください。見学は無料です。
- 建築的にどのような特徴がありますか?
- ロマネスク様式を基調としながら全体が木造で建てられた珍しい教会です。三廊式の平面構成、柱頭飾り付きの円柱、アーチ、ヴォールト天井など、ヨーロッパの石造教会に見られる要素を日本の木造建築技術で実現しています。
- 盛岡駅からのアクセス方法を教えてください。
- JR盛岡駅から盛岡大学方面行きのバスに乗車し、「盛岡大学前」で下車してください。車の場合は、東北自動車道盛岡ICから約15分です。
- 細川泰子とはどのような人物ですか?
- 細川泰子(1917年〜1990年)は盛岡大学の創設者です。敬虔なクリスチャンであった細川は、1978年に歴史ある天主堂を大学附属高校の敷地内に移築し、学園の礼拝堂として活用しました。2001年に天主堂は「盛岡大学細川泰子記念礼拝堂」と命名されました。
基本情報
| 名称 | 旧盛岡天主堂(盛岡大学細川泰子記念礼拝堂) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和6年(2024年)12月3日 |
| 建築年 | 大正元年(1912年) |
| 移築年 | 昭和53年(1978年) |
| 構造 | 木造平屋建、切妻造鉄板葺一部スレート葺、建築面積226㎡ |
| 建築様式 | ロマネスクを基調とした三廊式木造天主堂 |
| 所在地 | 岩手県盛岡市厨川五丁目54-1 |
| 所有者 | 学校法人盛岡大学 |
| 見学 | 無料(要事前予約・見学希望日の30日前までに申込み) |
| アクセス | JR盛岡駅から盛岡大学方面行きバス「盛岡大学前」下車/東北自動車道盛岡ICから車で約15分 |
参考文献
- 旧盛岡天主堂 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/565318
- 国指定文化財等 旧盛岡天主堂|盛岡市公式ホームページ
- https://www.city.morioka.iwate.jp/kankou/kankou/1037106/rekishi/1009335/1009340/1050039.html
- 旧盛岡天主堂(盛岡大学細川泰子記念礼拝堂)有形文化財登録について(お知らせ) - 盛岡大学
- https://morioka-u.ac.jp/information/info-1309/
- 旧盛岡天主堂施設見学のご案内 - 盛岡大学
- https://morioka-u.ac.jp/about/corporation/cathedral-tour/
- カトリック四ツ家教会 - 仙台教区
- http://www.sendai.catholic.jp/yostuyachurch.html
- 旧盛岡天主堂と奥州・愛宕神社本殿が国の文化財に|岩手日報
- https://www.iwate-np.co.jp/article/2024/7/20/166735
最終更新日: 2026.04.05