葉煙草のための役所建築

旧専売局千厩葉煙草専売所は、岩手県一関市千厩町にある明治30年(1897年)建築の木造平屋建事務所で、平成17年(2005年)11月10日に国の登録有形文化財となった。

建つのは、役場と商店街を結ぶ道路の角地である。この立地には理由がある。千厩の近代を支えた基幹産業は葉煙草であり、収穫物の等級を検査し買い上げる役所は、耕作者が迷わずたどり着ける場所になければ機能しなかった。

規模は桁行10間、梁間6間。建築面積は199平方メートル。屋根は寄棟造の瓦葺で、外壁は下見板張である。四周には縦長の窓が並び、この垂直の反復が外観のリズムをつくっている。

南側の正面入口で、設計はようやく表情を見せる。入口の上に破風を掛け、その軒板を波形に切り出した。登録原簿の記述でいう波形軒板付破風である。装飾は事実上ここだけに集中しており、標準設計の中でどこに意匠を許すかという判断が読み取れる。

登録の理由と、残存例の少なさ

大蔵省の臨時葉煙草取扱所建築部が標準設計を作成し、それに基づく専売所が全国およそ61か所に建てられた。岩手県内では千厩と稗貫郡大迫(現在の花巻市大迫町)の2か所である。

本所事務所建物として現存するのは全国でここだけ、と施設側は説明している。ただしこれは運営者による報告であって、文化庁の登録原簿がそう記しているわけではない。原簿の記述は「残存例少ない煙草専売所の事務所建築」にとどまる。強い地元の主張として受け止めるのが適切だろう。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。登録番号は03-0058、第47回登録で、登録告示は平成17年12月5日に出ている。

ここで区分を確認しておきたい。本件は登録有形文化財であり、重要文化財でも国宝でもない。登録制度は指定制度よりも規制がゆるやかで、外観を大きく変えなければ活用の幅が広い。役目を終えた専売所が資料館として使われ続けている背景には、この制度設計がある。

移築、そして二度の転用

建物は最初からこの角地にあったわけではない。昭和9年(1934年)、仙台地方専売局が千厩出張所を新築したことにともなって明治30年建築のこの建物は払い下げられ、現在地へ移された。その後は東山煙草耕作組合連合会の事務所として使われたと地元では伝えられている。移築の事実は文化庁データベースにも明記されているが、移築後の使用者については二次資料に依拠した情報である。

平成16年(2004年)に当時の千厩町が土地を取得し、翌平成17年3月25日、せんまや街角資料館として開館した。登録はその8か月後になる。

内部の改修はかなり進んでいる。それでも天井や扉などに建築当初の部材が残り、一室は事務所らしい構えをとどめている。展示は葉煙草の栽培と流通、千厩を中心とした地域史、そして生活文化資料。地元にあった映画館テアトル東都から引き取られた35ミリ映写機が置かれ、当地出身の力士高田山恵助の写真もある。

収蔵写真のなかには、煙草神社の建立にかかわる一枚がある。写り込んだ旗が、撮影年代を否応なく特定してしまう。

訪ねるための情報

建物は「せんまや街角資料館」として公開されている。開館時間は9時から16時30分。休館日は毎週月曜日、毎月最終金曜日、および年末年始。入館料は無料である。

JR大船渡線千厩駅から徒歩約20分。岩手県交通の気仙沼千厩線を利用する場合、千厩本町バス停から徒歩約5分。

外観は公道に面しているため撮影に制約はない。館内での撮影は受付でひとこと確認してほしい。受付を務めるのは地元の方々で、葉煙草の盛衰を家族の記憶として語れる世代が多い。関心を示せば話は長くなる。時間には余裕を見ておきたい。

徒歩圏内にもう一件、登録有形文化財がある。一関市千厩酒のくら交流施設(旧横屋酒造・佐藤家住宅)で、コンサートや撮影にも使われている。隣には千厩図書館。半日あれば無理なく歩ける範囲に収まる。

Q&A

Q旧専売局千厩葉煙草専売所は内部を見学できますか。料金と開館時間は。
Aせんまや街角資料館として公開されており、見学できます。開館は9時から16時30分、入館料は無料です。休館日は毎週月曜日、毎月最終金曜日、年末年始です。
Q旧専売局千厩葉煙草専売所へは公共交通でどう行けばよいですか。
AJR大船渡線千厩駅から徒歩約20分です。岩手県交通のバスを使う場合は千厩本町バス停で降り、徒歩約5分になります。
Q旧専売局千厩葉煙草専売所の文化財区分と登録年はいつですか。
A登録有形文化財(建造物)で、登録年月日は平成17年11月10日、登録番号は03-0058です。重要文化財や国宝ではありません。
Q旧専売局千厩葉煙草専売所はいつ建てられ、移築されているのですか。
A明治30年(1897年)の建築です。昭和9年(1934年)に払い下げを受けて現在地へ移築されました。
Q旧専売局千厩葉煙草専売所で最初に見るべき箇所はどこですか。
A南側正面入口の波形軒板付破風です。この建物で意匠が集中する唯一の箇所になります。続いて四周をめぐる縦長窓の並びをご覧ください。

基本情報

名称旧専売局千厩葉煙草専売所(きゅうせんばいきょくせんまやはたばこせんばいしょ)
所在地岩手県一関市千厩町千厩字北方129-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 03-0058
指定年平成17年(2005年)11月10日登録、同年12月5日告示
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、寄棟造。桁行10間、梁間6間。建築面積199平方メートル
所有者一関市
公開状況せんまや街角資料館として公開。9時から16時30分、入館無料。月曜・毎月最終金曜・年末年始休館

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004896
文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/181116
せんまや街角資料館(千厩まちづくり株式会社)
https://sakenokura.com/wp/machikado/
いちのせき観光NAVI(一関市公式観光サイト)
https://www.ichitabi.jp/spot/data.php?p=80

最終更新日: 2026.08.06