気仙沼湾を挟んで対をなす、日本最古の学術記録をもつ鳴砂の浜

明治27年(1894年)、『地学雑誌』が国内の鳴砂の浜について初めての学術報告を掲載した。報告された浜は、宮城県気仙沼湾に浮かぶ大島の北東岸にある十八鳴浜(くぐなりはま)である。長さ約200メートル、幅およそ20メートルの細長い砂浜で、乾いた砂を踏むと「クックッ」あるいは「キュッキュッ」と短い摩擦音が立つ。その対岸、わずか2キロメートル離れた唐桑半島の西舞根には、もう一つの鳴砂の浜、九九鳴き浜(くくなきはま)が広がる。同じ海峡に向かい合うこの一対は、平成23年(2011年)9月21日、揃って国の天然記念物に指定された。

鳴砂の浜は全国でおよそ二十か所しか確認されていない。海岸開発や海洋汚染の進行のなかで、過去一世紀の間に多くの浜が音を失った。気仙沼の二つの浜が天然記念物となった背景には、明治期の学術記録時とほぼ同じ自然状態が今もなお保たれているという、全国的に見ても希有な事実がある。

砂が鳴く仕組み

音の正体は、よく分級され清浄に保たれた石英粒同士の摩擦である。乾いた砂の表層を足で押すと、隣り合う粒は互いに位置をずらして圧力を逃がす。粒の形と大きさが揃い、表面に有機物や微細な汚染物質が付着していないとき、その滑りはスティックスリップ振動を起こし、人間の耳に届く音として現れる。逆に言えば、油膜・海鳥の糞・大気由来の微粒子などがわずかでも砂に乗ると、鳴砂は容易に沈黙する。鳴砂の浜が「美しい海岸の指標」と呼ばれるのは、このためである。

十八鳴浜の砂粒は粒径0.2〜0.3ミリメートル。全国の鳴砂と比較しても石英の含有率が突出して高く、粒の形は角張りつつ細長い。九九鳴き浜の砂はやや粗く、粒径0.2〜0.4ミリメートル前後で、黒色の鉱物粒を含むため明るい光の下では灰白色がかって見える。両浜の砂は、いずれも後背地に露出する中生代後期ジュラ紀の舞根層と小々汐層に由来する。およそ1億5千万年前に堆積した花崗岩質砂岩と泥岩の互層が、長い時間をかけて石英粒を周辺の浜に供給してきた。

2011年指定の理由

文化庁が示した指定基準は二つある。一つは基準(一)「岩石、鉱物及び化石の産出状態」、もう一つは基準(九)「風化及び侵蝕に関する現象」である。解説文は、海峡を挟んでわずか2キロメートルの距離に、同じ砂供給源を持つ鳴砂の浜が対をなして残っていることを、我が国を代表する鳴砂の浜の例として特筆している。

両浜の保存状態は良好である。十八鳴浜は背後地のほとんどが山林で、土砂の流出が少なく、地形改変もほぼ見られない。前面海域の海底は水深10メートル付近までは緩やかに傾斜し、その先は20メートルまで急勾配で深くなり、30メートル前後で底に達する。九九鳴き浜の後背地は落葉広葉樹とアカマツの混交二次林で、耕作放棄地の一部にスギの植林が見られる。海底は岸から50〜60メートルまで遠浅で、その先で急激に深くなる。地域住民や気仙沼市による継続的な清掃活動、学校教育や生涯学習との連携が、砂の清浄さを今日まで支えてきた。

砂を鳴らしてみる

実際の音は、ロマンティックな響きとは少し違う。革のきしむ音、あるいは新しい運動靴が床を擦るときの一瞬の音に近い。足を上から踏みつけるよりも、母趾球で軽く押しながら砂を擦るように動かすと、最も鮮明に音が出る。子どもたちが指先で砂をなでて小さな音を確かめる光景も、この浜ではよく見られる。

条件が揃わなければ砂は鳴らない。湿った状態では完全に無音となるため、雨や霧の翌日は数時間〜半日待つ必要がある。最良の機会は、晴天が二日ほど続いた春から初秋の午後である。汀線近くではなく、波の届かない後背側で踏むと音を確かめやすい。

地名の由来

「十八鳴」という表記は、砂が立てる「クックッ」という音に由来する。九を「ク」と読み、九と九を足して十八。「キュッキュッ」あるいは「クックッ」と二度繰り返される音を「9+9=18」と表現した言葉遊びが、やがて「くぐなり」と音転して定着したと考えられている。九九鳴き浜の名前も、同じ「クックッ」の音から来ており、こちらは数字をそのまま重ねた表記である。同じ音を聞き取った人々が、海峡の両岸で別々の漢字を当てたという経緯が窺える。

十八鳴浜の鳴砂は、『地学雑誌』明治27年号に発表された報告が、日本国内の鳴砂についての最古の学術記録である。同浜が地質学の対象として注目されてから、既に130年以上が経過していることになる。

アクセスと周辺

気仙沼大島は長い間フェリーでしか渡れない島だった。これが大きく変わったのは平成31年(2019年)4月7日、気仙沼大島大橋(愛称「鶴亀大橋」)の開通である。アーチ支間長297メートルはアーチ橋として東日本最大級で、大島瀬戸を一気に跨ぐ。三陸自動車道の浦島大島ICまたは気仙沼鹿折ICから橋まで5〜10分、橋を渡って島へ入ったあとは、休暇村気仙沼大島近くの駐車場から徒歩でおよそ20分の遊歩道を経て十八鳴浜に至る。車両は天然記念物の指定区域内には入れない。

九九鳴き浜は、気仙沼市唐桑町西舞根にある。専用の駐車場はなく、入口付近にやや広くなった路肩があるため、通行の妨げにならぬよう停めて、整備された遊歩道を10〜20分ほど下りる。標識はあえて控えめにとどめられている。雨天や曇天で砂が湿っている場合は、唐桑半島ビジターセンターを訪ねるとよい。九九鳴き浜の砂の標本が常設展示されており、実際に手で擦って音を確かめることができる。

両浜とも三陸復興国立公園の区域内にある。大島側では、標高235メートルの亀山山頂展望台から気仙沼湾を一望でき、山頂付近には希少な緑色の花を咲かせる桜「御衣黄(ぎょいこう)」が自生する。太平洋側の小田の浜海水浴場は環境省「快水浴場百選」全国2位の評価を受け、2023年にはブルーフラッグ認証ビーチとなった。唐桑半島側では、巨釜(おがま)半造(はんぞう)の奇岩群や折石(おりいし)の柱状節理など、鳴砂と同じジュラ紀の地層が削り出した海岸地形が連続して見られる。

Q&A

Q「十八鳴浜」と書いて、なぜ「くぐなりはま」と読むのですか。
A浜を歩くときの「クックッ」という音に由来する地名です。九を「ク」と読み、九+九=十八という言葉遊びで漢字を当てたあと、「くぐなり」と音転したと考えられています。九九鳴き浜の名前も同じ音から来ており、こちらは数字をそのまま重ねて表記しています。
Qいつ訪れれば音を聞ける可能性が高いですか。
A乾燥した晴天が続いた日の午後、できれば春から初秋の風の少ない時間帯がおすすめです。雨や霧の直後は砂が湿って完全に無音になります。波打ち際ではなく、海から少し離れた後背側で砂を擦るように足を動かすと音を確認しやすくなります。
Q砂を持ち帰ってもよいですか。
Aいいえ。両浜とも国の天然記念物に指定されており、文化財保護法により現状変更行為(砂の採取を含む)が禁じられています。多くの訪問者が少量ずつ持ち帰るだけでも、堆積量と音の質に影響します。手元で観察したい場合は、唐桑半島ビジターセンターに展示されている九九鳴き浜の砂サンプルで音を確かめることができます。
Q二つの浜の砂は同じものですか。
A由来は同じ地層ですが、性状は微妙に異なります。十八鳴浜は粒径0.2〜0.3ミリで石英含有率が非常に高く、粒の形が角張って細長いという特徴があります。九九鳴き浜は粒径0.2〜0.4ミリとやや粗く、黒色鉱物を含むため見た目はわずかに灰白色寄りです。耳で聞き分けるのは難しい程度の違いですが、組成と外観には差があります。
Q国内の他の鳴砂の浜と比べて何が特別なのですか。
A第一に、明治27年に『地学雑誌』に報告された日本最古の学術記録をもつ浜であること。第二に、同じ砂供給源(舞根層・小々汐層)から生まれた鳴砂の浜が、海峡を挟んで2キロメートルの距離で対をなすという地質学的な希少性。第三に、両浜とも明治期の自然状態をほぼそのまま維持している保存度の高さ。この三点が指定理由の中核です。

基本情報

名称十八鳴浜及び九九鳴き浜(くぐなりはまおよびくくなきはま)
種別天然記念物
指定年月日2011年(平成23年)9月21日
指定基準(一)岩石、鉱物及び化石の産出状態/(九)風化及び侵蝕に関する現象
所在地宮城県気仙沼市
十八鳴浜:気仙沼市大島・北東部(大初平地区)
九九鳴き浜:気仙沼市唐桑町西舞根地区
規模十八鳴浜:長さ約200m、幅約20m
九九鳴き浜:長さ約230m、幅10〜15m
砂の特徴十八鳴浜:粒径0.2〜0.3mm、石英含有率が高く角張った細長い形状
九九鳴き浜:粒径0.2〜0.4mm、黒色鉱物粒を含み灰白色を呈する
地質中生代後期ジュラ紀の舞根層・小々汐層(花崗岩質砂岩と泥岩の互層)
アクセス三陸自動車道→気仙沼大島大橋(2019年開通)経由で大島へ。十八鳴浜は遊歩道を徒歩約20分。九九鳴き浜は西舞根の遊歩道を徒歩10〜20分
関連施設唐桑半島ビジターセンター(九九鳴き浜の砂を展示・体験可)
所在公園三陸復興国立公園

参考文献

国指定文化財等データベース 十八鳴浜及び九九鳴き浜(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/00003726
十八鳴浜|気仙沼観光コンベンション協会
https://kesennuma-kanko.jp/kugunarihama/
九九鳴き浜|気仙沼観光コンベンション協会
https://kesennuma-kanko.jp/九九鳴き浜/
三陸ジオパーク 108.九九鳴き浜
https://sanriku-geo.com/geosite/108/
気仙沼大島大橋|気仙沼観光コンベンション協会
https://kesennuma-kanko.jp/oshimaohashi/

最終更新日: 2026.05.19