似鳥のサイトギ — 火の粉が告げる、その年の作柄

旧暦1月6日の夜、岩手県北端の二戸市似鳥地区にある似鳥八幡神社の境内で、高さ9尺を超える木の櫓に火が放たれる。井桁に組まれた櫓が燃え上がり、そこから舞い上がる火の粉がどちらへ流れるか。本殿に供えられた五穀の供物がどう変化しているか。その二つを読み取って、来たる一年の天候と作柄を占う。これが似鳥のサイトギである。

サイトギは「年占(としうら)」と呼ばれる行事の系譜に連なる。豊作を祈願するのではなく、これから始まる一年がどんな年になるのかを前もって知ろうとする占いだ。神社の春の例大祭に合わせて営まれ、新暦ではおおむね2月初旬、北東北の冬の最も厳しい時期にあたる。地元では四百年以上続いてきたと伝わる。

「サイトギ」という名と、井桁の櫓

サイトギの表記は一様でない。「柴燈木」と書けば柴と灯火を、「祭齊」と書けば祭祀の清浄を思わせる。漢字の揺れそのものが、この行事の古さをうかがわせる。境内に立つのは、丸太を井桁に積み上げた角形の櫓である。一段ごとに直角に交差させて組み、毎年1月3日に氏子たちの手で築かれる。

櫓の高さは9尺を超える。例大祭の夜、これに火が入る。太鼓の音が暗い境内に響くなか、冷水で身を清めた男衆が、ふんどし一つの姿で燃え盛る櫓に取りつき、声を上げながら揺さぶる。

占いの判断は、火の粉が向かう方角で決まる。石段の側へ流れれば豊作、神社の側へ戻れば凶作とされる。風を一種の使者として扱い、集まった人々はその動きを見つめる。

オコモリ — 凍らせた供物が語ること

もう一つの占いは静かで、見落としやすい。本殿の前に据えられるのが「オコモリ」と呼ばれる炊いた穀物の供物である。米、麦、ヒエ、アワ、キビ。この五穀を混ぜて炊き、剣のような柱状に形づくり、冬の一夜をかけて凍らせる。

翌朝、供物の状態が判定の材料となる。形をきれいに保っていれば豊作、崩れていたり虫がたかっていれば凶作とされる。五穀は無作為に選ばれたわけではない。北岩手の山あいの集落がかつて頼りとした主要な作物を一通り含んでおり、一つの供物で田畑全体の吉凶を読む仕掛けになっている。

なぜ守られているのか

平成22年(2010年)3月11日、国は似鳥のサイトギを「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択した。いわゆる選択無形民俗文化財で、まだ行われているうちに丁寧な記録を残しておくべきと判断された習俗がこれにあたる。

評価の理由は二つある。火と風による占い、穀物と霜による占い。性質の異なる二つの占法が一つの行事のなかに併存している点は珍しい。そして、平凡な農村の共同体によって長い年月にわたり、その形が代々受け継がれてきた。行事を毎年とりまとめているのは、似鳥八幡神社の氏子総代会である。

訪れた人が目にするもの

実際に足を運ぶなら、まず目を奪われるのはサイトギだろう。雪に覆われた境内で、あれだけの規模の火が燃え、太鼓が打たれ、ふんどし姿の男衆の声が飛ぶ。氷点下の2月の夜、その光景は強く印象に残る。点火前に少し早めに着いて、井桁の構造がはっきり見えるうちに櫓を眺めておきたい。そして石段と社殿の両方が視野に入る位置を選ぶとよい。火の粉がどちらへ流れるかが、作柄占いのすべてだからである。

オコモリは、落ち着いて間近に見たい。火の華やかさに比べれば、凍った穀物の柱は地味だ。それでも吉凶の判定では同じだけの重みを持つ。近年は二戸市観光協会が、冷水を浴びる行列に外部からの参加者を人数を限って募ることがある。ただし年ごとの調整であり、見るのではなく加わりたい人は早めに協会へ問い合わせるとよい。神事のみとして公開行事を伴わずに営まれた年もあるため、訪問前にその年の予定を確認しておくと安心だ。

似鳥のまわりを歩く

二戸市は岩手県の最北、青森県との境に位置し、馬淵川がかたちづくった土地である。神社へは、八戸自動車道の浄法寺ICから車で約15分、一戸ICからは約20分。鉄道なら東北新幹線の二戸駅が最寄りとなる。

周辺は、滞在を長くするほど見どころが増える。浄法寺地区の天台寺は東北でも古い天台の霊場の一つで、本尊の聖観音立像は桂の一木造、国の重要文化財に指定されている。馬仙峡は馬淵川沿いの渓谷で、男神岩と女神岩が川面の上で向かい合う。昭和37年(1962年)以来の県立自然公園である。九戸城跡の土塁が残るのは、天正19年(1591年)、豊臣秀吉による天下統一の最後の合戦が行われた場所である。宿をとるなら、寛永3年(1626年)に記録が見える金田一温泉が車で近い。座敷わらしの言い伝えで知られる温泉地である。

Q&A

Q似鳥のサイトギはいつ行われますか。
A旧暦1月6日、似鳥八幡神社の春の例大祭に合わせて行われます。新暦ではおおむね2月初旬にあたります。年によって日付が動くため、計画の前に二戸市観光協会へご確認ください。
Q見学はできますか。参加もできますか。
A公開行事を伴う年は見学が可能です。観光協会が冷水を浴びる行列の参加者を人数を限って募ることもありますが、年ごとの調整で定員もあります。神事のみとして営まれる年もあるため、その年の対応を事前にご確認ください。
Qサイトギとオコモリは何を占うのですか。
Aどちらも来たる一年の作柄と天候を占います。サイトギは、火の粉が石段側へ流れれば豊作、神社側へ流れれば凶作とされます。オコモリは、凍った供物が形を保てば豊作、崩れたり虫がつけば凶作とされます。
Qどのくらい寒く、何を着ていけばよいですか。
A2月初旬の北岩手は夜間は確実に氷点下で、足元に雪が積もっていることも多いです。厚手の冬着、防水で保温性のある靴、手袋をおすすめします。火の近くは暖かいものの、夜の大半は寒さのなかで立って過ごすことになります。
Q神社へはどう行けばよいですか。
A似鳥八幡神社は二戸市似鳥字林ノ下37にあります。車では八戸自動車道の浄法寺ICから約15分、一戸ICから約20分です。鉄道の最寄りは東北新幹線の二戸駅です。

基本情報

名称似鳥のサイトギ
所在地岩手県二戸市似鳥字林ノ下37 似鳥八幡神社
指定区分記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財(選択無形民俗文化財)
選択年月日平成22年(2010年)3月11日
保護団体似鳥八幡神社氏子総代会
開催時期旧暦1月6日、似鳥八幡神社の春の例大祭にあわせて(新暦ではおおむね2月初旬)
分類風俗慣習・年占行事
アクセス八戸自動車道 浄法寺ICから車で約15分、一戸ICから約20分/東北新幹線 二戸駅が最寄り
問い合わせ二戸市観光協会 電話 0195-23-3641

参考文献

文化遺産オンライン(文化庁) 似鳥のサイトギ
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/208756
文化遺産オンライン(文化庁) 詳細ページ
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/208756
旅東北(東北観光推進機構) サイトギ
https://www.tohokukanko.jp/attractions/detail_1002330.html
二戸市観光協会 サイトギ(似鳥八幡神社)
https://www.ninohe-kanko.com/event/3565

最終更新日: 2026.05.22