城跡に建てられた、大正の御殿
披雲閣(旧松平家高松別邸)は、香川県高松市玉藻町2番1号、史跡高松城跡の三の丸に建つ大正6年(1917年)竣工の大規模和風住宅で、平成24年(2012年)7月9日に国の重要文化財(建造物)に指定された。指定は本館・本館付倉庫・倉庫の三棟に及ぶ。
高松城は堀に瀬戸内海の海水を引き込む海城で、松平家は寛永19年(1642年)の入封から廃藩まで讃岐高松を治めた。その第12代当主・松平頼壽が、三之丸にあった江戸時代の御殿跡地に別邸の建設を始めたのが大正3年(1914年)。翌4年に上棟し、同6年に竣工した。披雲閣という名称は新たに考えられたものではなく、江戸時代の御殿の呼称をそのまま受け継いでいる。
施工は清水組、現在の清水建設である。設計と施工を一括して請け負う形が取られ、棟札と設計図が残る。ここが重要文化財としての評価の核心のひとつになっている。棟梁の経験と勘だけで建てられた御殿ではなく、近代的な組織が図面を引き、工程と品質を管理して建てた住宅だという点である。
それでいて配置は江戸の作法を踏襲する。南面の桜御門跡を正門として敷地中央に本館を置き、海に面した北側に庭園を開く。庭園は住宅の建設と同時期に、東京から招いた庭師・大胡勘蔵が作庭したもので、築山や石組の一部に江戸時代の庭の造形が残されている。
畳の上のトラス構造
本館の建築面積は1,916.51平方メートル。槇の間の二階にあたる波の間を除いてほぼ平屋建で、入母屋造と寄棟造の桟瓦葺、玄関の正面西端には入母屋造の車寄が突き出す。平面は廊下を含めて一間を六尺五寸(約1.97メートル)とする柱割で統一されている。これだけ広がりのある建物を一つのモジュールで割り付けきるのは、大工の手仕事の伝統というより製図の規律に属する仕事である。
中心は大書院だ。二八畳の座敷が三室、東西に並ぶ。南東北の三方に入側を廻し、さらにその外を廊下が囲む。入側を含めた座敷の規模は142畳に達する。西面には幅二間半・奥行一間のトコを構え、框を黒漆塗で仕上げ、脇に天袋と鳥居棚形式の違棚を置く。天井は室内も入側も棹縁天井で、和風のシャンデリアが下がる。
隣の蘇鉄の間は、東18畳・西21畳の二室からなり、四周に入側、南西北の三方にさらに濡縁が廻る。外廻りのガラス障子は桟を縦長に細かく割り付けた独特の意匠で、室内も入側も拭板張、室内の天井は吹寄格天井とする。名の由来である蘇鉄は、大書院との間に植えられている。
この二室だけは、小屋組がトラス構造である。梁間が広く、和小屋では架け渡せないためだ。ほかの部屋はすべて和小屋で組まれている。洋式の構造を必要な場所だけに用い、仕上がった座敷にはその痕跡を一切見せない。指定基準として挙げられた「技術的に優秀なもの」「歴史的価値の高いもの」は、この判断に集約されるといってよい。
座敷は大書院と蘇鉄の間だけではない。玄関の北には杉の間、桐の間、松の間、藤の間が連なり、居住と宿泊にあてられた。杉の間は幅一間の中廊下の南北に三部屋ずつを配し、北列の六畳三室にはそれぞれトコを構える。規模と格式を段階的に変えた座敷を並べることで、来客の性格に応じた使い分けができた。
残る二棟は控えめである。本館付倉庫は浴室の南に建つ木造二階建の蔵で、東西7.9メートル・南北4.9メートル、切妻造桟瓦葺、外壁は下見板張。倉庫はその東南に建つ木造二階建、東西4.9メートル・南北9.8メートル、寄棟造桟瓦葺で、外壁は擬石塗、小屋組はトラス構造とし、大正末年の建築とみられる。裏門1棟、袖塀2棟、井戸屋形1棟、四阿2棟が附として指定されている。
中に入れる日は年に二度
訪問前に知っておくべき最重要事項がこれである。披雲閣は資料館として運営されていない。所有者である高松市は貸館として運用しており、茶会やコンサート、撮影会などに使われている。貸館を除く通常の一般公開は、原則として行われていない。
例外は年に二度ある。1月1日から3日までの年始無料開放期間と、5月5日の玉藻公園一般開放記念無料開放日。この二つの機会に披雲閣が一般公開され、内部の見学ができる。大書院を借りずに見たいなら、この日程に合わせて行くのが確実である。
外観と庭園は別で、こちらは通年見られる。披雲閣は高松城跡を整備した玉藻公園の中にあり、入園料は300円、18歳未満は無料。開園時間は月ごとに変わる。JR高松駅とことでん高松築港駅に近い西門は、4月から9月は午前5時30分開門、12月と1月は午前7時開門で、閉門は季節により午後5時から午後7時のあいだ。香川県立ミュージアム側の東門は開門が遅く、午前7時から午前8時30分の開門となる。12月29日から31日は休園。園内からは本館の外周を歩き、車寄や大書院の屋根、北庭を見ることができる。
貸館の申込は玉藻公園管理事務所(087-851-1521)へ。使用時間は4月から9月が午前8時30分から午後6時、10月から3月は午後5時まで。使用料は大書院の全日が12,000円、玄関の午前が670円といった設定で、営利目的の場合は倍額となる。なお令和2年(2020年)以降、部屋ごとに順次耐震補強工事が進められており、工事中の部屋は利用できない。申込時に確認しておきたい。
JR高松駅からは徒歩約5分。高松城跡は昭和30年(1955年)3月2日付で国の史跡に指定され、披雲閣の建物は平成17年(2005年)10月6日付で高松市指定有形文化財となっていた。国の重要文化財指定はその7年後にあたる。
Q&A
- 披雲閣(旧松平家高松別邸)の内部は見学できますか。
- 通常は見学できません。高松市は披雲閣を貸館として運用しており、貸館を除く一般公開は原則行っていません。ただし1月1日から3日までの年始無料開放期間と5月5日の無料開放日には一般公開され、見学が可能です。
- 披雲閣がある玉藻公園の開園時間と入園料は。
- 入園料は300円、18歳未満は無料です。開園時間は月ごとに変わり、西門は4月から9月が午前5時30分開門、12月と1月は午前7時開門。閉門は季節により午後5時から午後7時です。12月29日から31日は休園します。
- 披雲閣はいつ、誰によって建てられたのですか。
- 高松松平家12代当主・松平頼壽の別邸として、大正3年(1914年)着工、大正6年(1917年)竣工。設計と施工は清水組(現・清水建設)が一括して請け負いました。平成24年(2012年)7月9日に国の重要文化財に指定されています。
- 披雲閣の大書院はどのくらいの広さですか。
- 二八畳の座敷が三室東西に並び、入側を含めた座敷の規模は142畳に及びます。この梁間を架けるために小屋組にはトラス構造が用いられており、同じ手法は蘇鉄の間にも使われています。
- 披雲閣を茶会やコンサートに借りることはできますか。
- できます。申込は玉藻公園管理事務所(087-851-1521)へ。使用時間は4月から9月が午前8時30分から午後6時、10月から3月は午後5時までで、大書院の全日使用料は12,000円です。耐震補強工事中の部屋は利用できないため、事前確認が必要です。
基本情報
| 名称 | 披雲閣(旧松平家高松別邸)(ひうんかく きゅうまつだいらけたかまつべってい) |
|---|---|
| 所在地 | 香川県高松市玉藻町2番1号 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 指定番号 02586 |
| 指定年 | 平成24年(2012年)7月9日 |
| 員数 | 3棟(本館・本館付倉庫・倉庫) 附:裏門1棟、袖塀2棟、井戸屋形1棟、四阿2棟 |
| 寸法 | 本館:木造、建築面積1,916.51平方メートル、一部2階建、入母屋造及び寄棟造、南面車寄附属、桟瓦葺 |
| 所有者 | 高松市 |
| 公開状況 | 内部公開は1月1日から3日、および5月5日。ほかは貸館。外観と庭園は玉藻公園内で通年見学可(入園料300円) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 披雲閣(旧松平家高松別邸)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004586
- 文化遺産オンライン — 披雲閣(旧松平家高松別邸) 本館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/219045
- 高松市 — 重要文化財 披雲閣(旧松平家高松別邸)利用案内
- https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kurashi/shisetsu/park/tamamo/bunzai2018080716.html
- 高松市 — 玉藻公園 開園時間・入園料
- https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kurashi/shisetsu/park/tamamo/bunzai2018060.html
- 高松市 — 披雲閣(旧松平家高松別邸)文化財解説
- https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kosodate/bunka/bunkazai/shiteibunkazai/kenzo/hiunkaku.html
- 高松市 — 高松城(玉藻公園)
- https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kurashi/shisetsu/park/tamamo/index.html
最終更新日: 2026.08.09
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