鍋島灯台:瀬戸内海最古の洋式灯台が照らし続ける150年の航跡
香川県坂出市、瀬戸内海に浮かぶ小さな島・鍋島の頂に、白い石造りの灯台が静かに佇んでいます。1872年(明治5年)11月15日に初点灯した鍋島灯台は、瀬戸内海で最も古い洋式灯台であり、日本の近代化を象徴する貴重な建造物です。2022年12月12日には国の重要文化財に指定され、その歴史的・文化的価値が改めて認められました。
瀬戸内海国立公園内に位置し、塩飽諸島に属する鍋島は、本州四国連絡橋の中間点にある与島の南側から防波堤でつながった島です。灯台の踊り場からは、北備讃瀬戸大橋をはじめとする瀬戸大橋の雄大な姿と、備讃瀬戸に点在する島々の多島美を一望することができます。
「日本の灯台の父」ブラントンの設計
鍋島灯台は、「日本の灯台の父」と称されるスコットランド出身の土木技師リチャード・ヘンリー・ブラントン(1841〜1901年)が設計しました。ブラントンは1868年(慶応4年)、27歳の時にエディンバラから来日し、新たに誕生した明治政府のもとで日本各地に洋式灯台を建設する事業を主導しました。約7年半の間に26基の洋式灯台を設計・監督し、日本の海上安全の礎を築いた人物です。
ブラントンは1868年11月、英国海軍から借り受けた軍艦マニラ号に乗り、鍋島の測量を行いました。測量はわずか1日で完了しましたが、灯台が実際に建設されるまでにはさらに4年の歳月を要しました。建設には与島や鍋島産の御影石が使われ、完成した灯塔は地上から9.8メートル、平均海水面から灯火までは29メートルの高さを持ちます。
ブラントンは灯台建設にとどまらず、横浜の下水道計画、道路舗装、ガス灯設置、電信線敷設、日本初の土木工学校の設立など、明治日本の近代化に多大な貢献を果たしました。1871年には、その功績を認められ明治天皇に拝謁しています。
重要文化財に指定された理由
2022年12月12日、文化庁は鍋島灯台を国の重要文化財に指定しました。その指定理由には、以下のような価値が挙げられています。
- 兵庫の開港に合わせて瀬戸内海に建設された灯台の一つであり、日本最初期の洋式灯台として歴史的価値が極めて高いこと。
- ブラントンが来日直後に立地選定から建設まで主導した最初の灯台の一つであり、西洋から日本への技術移転を物語る貴重な証拠であること。
- 明治5年の建設当時とほぼ変わらない姿を今に残しており、内部には輸入木材が貴重だった時代に国産材の表面に職人が手描きで洋風の木目を施した「木目塗り」の技法が見られること。
- 大阪・神戸に通じる瀬戸内海航路を行き交う船舶の安全を守り続けてきた、わが国主要航路標識の一つとして現在も稼働していること。
また、海上保安庁の保存灯台Aランク(歴史的文化財的価値が最も高い等級)に指定されているほか、経済産業省の「近代化産業遺産群」にも認定されています。
鍋島灯台の見どころ
「停泊信号」として使われた灯台
一般的な灯台が航路の目印として船を導くのに対し、鍋島灯台は当初「停泊信号」として使用されていました。創建当時、瀬戸内海にはわずか5基の灯台しかなく、複雑な地形と潮流を持つ海域での夜間航行は極めて危険でした。そのため、鍋島灯台の灯りを見た船舶は、難所海域を察知し、最寄りの停泊地に留まって夜明けを待ってから通航していたのです。船員たちの命を守る重要な役割を担っていました。
漢字で表記された風見鶏
灯台頂部に設置された風見鶏には、一般的なアルファベットのNSEWではなく、「東」「西」「南」「北」の漢字が刻まれています。西洋の灯台技術と日本の伝統が融合した、明治時代ならではの微笑ましいディテールです。
赤と緑に交互に光る灯火
現在の灯台は日没から日の出まで自動点灯し、赤と緑のフィルターが光源の周りを回転して8秒ごとに交互に発光します。光達距離は約20キロメートル(11海里)に及び、備讃瀬戸航路の安全の要となっています。レンズの直径は61.3センチメートルで、大人の上半身ほどの大きさです。
三層構造の内部と「木目塗り」の壁
灯台内部は三層構造で、中心に高さ8.8メートルの灯器が通っています。輸入木材が貴重だった設置当時、国産木材の表面に職人が手描きで木目を描き、洋風の見た目に仕上げる「木目塗り」の技法が使われています。当時の職人技を現在に伝える貴重な文化財です。2階は屋外に出ることができ、かつては目視で霧の状態などを確認していました。
退息所は四国村ミウゼアムに移築保存
灯台と同じくブラントンの設計による退息所(灯台職員宿舎)は、1873年(明治6年)に竣工した石造平屋建ての建物です。正面にはトスカナ式の円柱が6本並ぶベランダを備え、屋根には日本の桟瓦が葺かれた和洋折衷の趣ある建築です。当時は外国人灯台守とその家族がこの離島で暮らし、水汲みのため毎日舟で与島まで渡っていたといいます。
1998年(平成10年)、退息所は倉庫・水槽3基・日時計とともに、香川県高松市の四国村ミウゼアム(四国民家博物館)に移築保存されました。2000年(平成12年)には「四国村鍋島燈台退息所」として国の登録有形文化財に登録されています。鍋島灯台の歴史をより深く知りたい方は、ぜひ四国村も訪れてみてください。
アクセス・訪問情報
鍋島は与島と防波堤でつながっているため、船に乗ることなく徒歩で訪問できます。2021年7月より灯台敷地が一般開放され、外観の見学は自由にできるようになりました。ただし、灯台内部の公開は灯台記念日(11月1日)前後や、瀬戸内国際芸術祭の開催期間など特別な機会に限られています。
交通手段
- 車の場合:瀬戸中央自動車道の与島パーキングエリア(第1駐車場)から徒歩約15分。島内は島民の車両以外進入できません。
- バスの場合:JR坂出駅から路線バス「瀬戸大橋線 浦城行き」で約25分、「浦城バス停」下車後、徒歩約3分。
- 電車から眺める:JR四国のマリンライナーで瀬戸大橋を渡る際、岡山側から香川側に向かって左手に白い鍋島灯台を望むことができます。
訪問のアドバイス
- 灯台までの道は石段や急な坂道を含みますので、歩きやすい靴でお越しください。
- 途中、瀬戸大橋を真下から見上げられる絶景ポイントがあります。
- 与島パーキングエリアには讃岐うどんが食べられるフードコートや、地元ジェラート店、360度パノラマの展望台があります。
- 最新の公開情報は坂出市ホームページや坂出市観光協会のサイトでご確認ください。
周辺の見どころ
鍋島灯台の訪問とあわせて、瀬戸内海エリアの魅力もお楽しみください。
- 与島集落散策 — かつて採石業で栄えた与島の集落には、見事な石垣や細い路地が残り、島ならではの風情を楽しめます。江戸時代初期には幕府の御用丁場として大阪城再築のための採石も行われました。
- 瀬戸大橋塔頂体験スカイツアー — 瀬戸大橋の主塔頂上まで登り、瀬戸内海を360度見渡す特別体験です(季節限定・事前予約制)。
- 四国村ミウゼアム(高松市) — 移築された鍋島灯台退息所をはじめ、四国各地の伝統的な民家を保存・展示しています。
- 瀬戸内海歴史民俗資料館(五色台) — 瀬戸内海の海洋文化を紹介する資料館で、建築家・山本忠司が設計した建物自体も見ごたえがあります。
- 瀬戸内国際芸術祭 — 3年に1度開催される現代アートの祭典。与島を含む瀬戸内海の島々がアートの舞台となります。
Q&A
- 鍋島灯台はいつでも見学できますか?
- 2021年7月より灯台敷地が一般開放されており、外観は自由に見学できます。ただし、灯台内部に入れるのは灯台記念日(11月1日前後)や瀬戸内国際芸術祭の開催期間など、特別な公開日に限られます。最新情報は坂出市ホームページまたは坂出市観光協会サイトをご確認ください。
- 入場料はかかりますか?
- 灯台敷地への立ち入りおよび外観見学は無料です。内部公開イベントも通常は無料で実施されています。
- 公共交通機関で行けますか?
- はい。JR坂出駅から路線バス「瀬戸大橋線 浦城行き」で約25分、「浦城バス停」下車後、徒歩約3分です。車の場合は瀬戸中央自動車道の与島パーキングエリアに駐車し、徒歩約15分です。
- 退息所(灯台守の宿舎)はどこで見られますか?
- 1998年に高松市の四国村ミウゼアム(四国民家博物館)に移築保存されています。JR高松駅から車で約30分の場所にあり、四国各地の伝統的建築とあわせて見学できます。
- 鍋島灯台は船でしか行けないのですか?
- いいえ。鍋島は与島と防波堤でつながっており、徒歩で渡ることができます。船は必要ありません。与島パーキングエリアまたは浦城バス停から歩いてアクセスできます。
基本情報
| 名称 | 鍋島灯台(なべしまとうだい) |
|---|---|
| 所在地 | 香川県坂出市与島町鍋島 |
| 設計者 | リチャード・ヘンリー・ブラントン(1841〜1901年) |
| 初点灯 | 1872年(明治5年)11月15日(西暦では12月15日) |
| 構造 | 金属製・石造(御影石)、建築面積43.83㎡ |
| 高さ | 地上9.8m、平均海水面から灯火まで29m |
| 光達距離 | 約20km(11海里) |
| 灯質 | 赤光8秒・緑光8秒の交互光 |
| 所有者 | 国(海上保安庁) |
| 文化財指定 | 国指定重要文化財(2022年12月12日指定)、近代化産業遺産(経済産業省)、保存灯台Aランク(海上保安庁) |
| 無人化 | 1991年(平成3年)3月29日 |
| アクセス | 瀬戸中央自動車道 与島パーキングエリア(第1駐車場)から徒歩約15分、またはJR坂出駅から路線バス「瀬戸大橋線 浦城行き」約25分→浦城バス停から徒歩約3分 |
| 料金 | 無料(敷地開放中。灯台内部は特別公開日のみ) |
参考文献
- 鍋島灯台 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8D%8B%E5%B3%B6%E7%81%AF%E5%8F%B0
- 鍋島灯台 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/576742
- 鍋島灯台 — 近代の文化遺産の保存と活用(文化庁)
- https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/020/index.html
- 鍋島灯台 香川県坂出市与島町 — COOL KAGAWA(四国新聞社)
- https://www.coolkagawa.jp/news/entry-2821.html
- 与島「鍋島灯台」の敷地を一般公開します — 坂出市ホームページ
- https://www.city.sakaide.lg.jp/soshiki/sangyoukankou/nabeshima-open.html
- 灯台守のいた島・・・瀬戸内海で最も古い「鍋島灯台」 — 海と日本PROJECT in かがわ
- https://kagawa.uminohi.jp/report/20230819/
- 重要文化財指定に指定!坂出市の鍋島灯台の行き方や歴史を紹介 — カガワン
- https://kagawan.com/nabeshima-lighthouse/
- Richard Henry Brunton — Wikipedia(英語版)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Henry_Brunton
最終更新日: 2026.03.24