旧鎌倉図書館:篤志家の遺志が生んだ和洋折衷の名建築

鎌倉市役所の東側、御成町の閑静な一角にたたずむ旧鎌倉図書館は、昭和初期の鎌倉を代表する建築遺産のひとつです。1936年(昭和11年)、銀行家であり篤志家であった間島弟彦の遺志を継いだ妻・愛子の寄付により建設されたこの木造2階建ての建物は、関東大震災からの復興と知の再建を象徴する存在として、約90年にわたり地域の人々に親しまれてきました。2024年8月15日に国登録有形文化財に登録され、同年12月25日には鎌倉市景観重要建築物等にも指定されています。

歴史的背景:震災からの復興と間島夫妻の志

鎌倉に初めて公立図書館が誕生したのは1911年(明治44年)のことです。多くの篤志家の寄付により、鎌倉小学校(現・鎌倉市立第一小学校)の敷地内に「鎌倉図書館」が開設されました。しかし1923年(大正12年)9月1日の関東大震災により、図書館は全壊してしまいます。

新たな図書館の再建は、財政的に困難な状況にありました。そのような中、三井銀行の取締役を務め、青山学院(当時の東京英和学校)の校友会会長でもあった間島弟彦(1871〜1928)が、図書館再建への寄付を申し出ます。間島は1928年に亡くなりますが、その遺志を受けた妻・愛子が寄付金を提供し、1936年10月1日に御成小学校の敷地内に新しい鎌倉図書館が完成・開館しました。

間島夫妻の慈善活動は鎌倉にとどまりません。1929年には青山学院に「間島記念図書館」(現・間島記念館)も寄贈しており、こちらも2008年に国登録有形文化財に登録されています。教育と文化への深い愛情が、二つの登録有形文化財を生んだのです。

文化財指定の理由:なぜ守るべき建築なのか

旧鎌倉図書館が国登録有形文化財に登録された理由は、大きく二つあります。

第一に、昭和初期の鎌倉中心部における関東大震災後の復興の様相を今に伝える貴重な建築物であることです。モダンな西洋建築の意匠に和風の味わいを加えた「シンプルな和洋折衷意匠」は、日本が国際的な建築潮流を取り入れながらも独自の伝統を守ろうとした時代の空気を体現しています。

第二に、2023年の改修工事を経てもなお、1936年竣工時の外観形式と構造形式の特徴をよく留めていることです。改修は竣工時の外観復原を意識しつつ行われ、歴史的建造物の適応的再利用(アダプティブ・リユース)の成功例として評価されています。

建築的見どころ:アールデコと日本建築の融合

旧鎌倉図書館の魅力は、控えめながらも洗練された意匠の数々にあります。南面して建つ木造2階建ての建物には、見逃せないディテールが随所に散りばめられています。

外観の特徴として最も印象的なのは、1階と2階を貫く柱形(ピラスター)と、それに呼応するように配された縦長の窓です。読書のための採光を十分に確保しながら、ファサードにリズミカルな表情を与えています。建物の腰部分には緑青釉薬スクラッチタイルが貼られ、深みのある緑色が周囲の緑豊かな環境と見事に調和しています。

屋根は日本の伝統的な桟瓦葺きの大きな切妻屋根で、懸魚(げぎょ)と呼ばれる装飾板が取り付けられています。懸魚は本来、神社仏閣の建築に用いられる和風の意匠要素であり、近代的な洋風建築のシルエットと組み合わせることで、この建物ならではの和洋折衷の個性を生み出しています。

内部では、階段の柱にアールデコ調の幾何学的な意匠があしらわれています。1930年代に世界的に流行したアールデコ様式の影響がここにも見て取れます。構造的には洋小屋組(キングポスト・トラス)を採用し、外壁はリシンかき落とし仕上げに一部スクラッチタイルを組み合わせた大壁造りとなっています。

市民の力で守られた建築遺産

旧鎌倉図書館が今日まで残されていること自体が、ひとつの物語です。1974年に鎌倉市中央図書館が現在地に移転した後、旧図書館は市役所分庁舎や子どもの家として使われてきましたが、老朽化を理由に2014年に解体が予定されていました。

しかし、「図書館とともだち・鎌倉」(通称「ととも」)や「鎌倉・文化の森」などの市民団体が保存を求める運動を展開し、市は方針を一転させます。2018年3月に着工した耐震改修工事では、当初の調査以上に腐食が進んでいることが判明し、総事業費は約3億9,100万円にまで膨らみましたが、2023年3月に学童施設「放課後かまくらっ子おなり」として生まれ変わりました。

改修では、竣工時の外観形式への復原を意識しつつ、子どものための施設として設備更新・間仕切り変更・構造補強が行われました。歴史ある建物に新しい命を吹き込みながら、地域の子どもたちの学びと成長の場として活用する。この取り組みは、文化財保存と地域活性化の両立を示す好例といえるでしょう。

訪問のご案内

旧鎌倉図書館は、鎌倉市御成町18-35、鎌倉市役所の東側に位置しています。現在は学童施設として使用されているため、建物内部の一般見学は通常できませんが、外観はいつでも自由に鑑賞することができます。建物の歴史や文化的価値を解説する説明板も設置されています。

市民団体からは年2回程度の一般公開日の設定が要望されており、今後の動向にもご注目ください。最新情報は鎌倉市文化財課にお問い合わせいただくことをお勧めします。JR鎌倉駅西口より御成通りを徒歩約5分と、アクセスも良好です。

周辺情報

旧鎌倉図書館のある御成町エリアは、鎌倉駅東口の小町通りとは異なる落ち着いた雰囲気を楽しめる地域です。「裏かま」とも呼ばれるこのエリアには、魅力的なスポットが点在しています。

  • 御成通り商店街:こだわりのベーカリーやカフェ、手作り雑貨店、アートギャラリーが並ぶ約300メートルの通り。漫画家・横山隆一邸跡のスターバックス鎌倉御成町店は、桜やプールのある庭園が独特の雰囲気を醸し出しています。
  • 鎌倉市立御成小学校旧講堂:旧鎌倉図書館と同じく旧鎌倉御用邸跡地に建つ、昭和初期の国登録有形文化財。屋根は道路沿いから見ることができます。
  • 鶴岡八幡宮:東へ徒歩約10分、鎌倉を代表する神社。境内には坂倉準三設計の旧神奈川県立近代美術館(現・鎌倉文華館鶴岡ミュージアム)もあります。
  • 鎌倉文学館(旧前田侯爵家鎌倉別邸):国登録有形文化財の洋館で、鎌倉ゆかりの文学者に関する展示を行っています。バラ園も見どころのひとつです。
  • 佐助稲荷神社:朱色の鳥居が連なる神秘的な山中の稲荷神社。西へ徒歩圏内にあります。

Q&A

Q旧鎌倉図書館の内部を見学できますか?
A現在、旧鎌倉図書館は学童施設「放課後かまくらっ子おなり」として使用されており、一般の内部見学は通常できません。ただし、外観はいつでも自由に鑑賞でき、建物の歴史を解説する説明板も設置されています。市民団体から年2回程度の一般公開が要望されていますので、今後の公開予定については鎌倉市文化財課にお問い合わせください。
Q旧鎌倉図書館へのアクセス方法は?
AJR鎌倉駅西口(大仏・江ノ電方面)から御成通りを西に向かって徒歩約5分です。鎌倉市役所の東側、御成小学校に隣接しています。
Q間島弟彦とはどのような人物ですか?
A間島弟彦(1871〜1928)は、三井銀行の取締役を務めた銀行家であり、青山学院(当時の東京英和学校)の校友会会長も務めた人物です。教育・文化への貢献に熱心で、没後に妻・愛子が遺志を継いで鎌倉図書館(1936年)と青山学院間島記念図書館(1929年)を寄贈しました。いずれも現在、国登録有形文化財に登録されています。
Qいつ文化財に登録されましたか?
A2024年(令和6年)8月15日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。同年12月25日には鎌倉市景観重要建築物等(第39号)にも指定されています。
Q旧鎌倉図書館の建築的な特徴は何ですか?
A和洋折衷のシンプルな意匠が最大の特徴です。西洋建築の要素として、アールデコ調の階段柱装飾、1・2階通しの柱形、縦長窓があり、日本建築の要素として、桟瓦葺きの大きな切妻屋根と懸魚があります。腰部分の緑青釉薬スクラッチタイルも独特の風合いを添えています。

基本情報

名称 旧鎌倉図書館
所在地 神奈川県鎌倉市御成町18-35
竣工 1936年(昭和11年)
構造・規模 木造2階建、洋小屋組(キングポスト・トラス)、桟瓦葺き切妻屋根、建築面積163㎡、延べ床面積293.04㎡
外壁 リシンかき落とし仕上げ(一部スクラッチタイル)大壁造り
文化財指定 国登録有形文化財(2024年8月15日登録)、鎌倉市景観重要建築物等第39号(2024年12月25日指定)
所有者 鎌倉市
現在の用途 放課後子どもひろばおなり・鎌倉市おなり子どもの家「こばと」
アクセス JR鎌倉駅西口より徒歩約5分

参考文献

旧鎌倉図書館 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/574905
旧鎌倉図書館の登録有形文化財登録について – 鎌倉市
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/seisyo/onari-kyutosho.html
旧鎌倉図書館(景観重要建築物等)– 鎌倉市
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/keikan/ks39.html
鎌倉市図書館 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%8C%E5%80%89%E5%B8%82%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8
間島弟彦 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%93%E5%B3%B6%E5%BC%9F%E5%BD%A6
旧鎌倉図書館の維持・公開を 市民団体が市長へ要望書 – タウンニュース鎌倉版
https://www.townnews.co.jp/0602/2024/05/10/732471.html

最終更新日: 2026.03.27