横須賀上町教会・めぐみ幼稚園 ― 住宅街に静かに佇む登録有形文化財の教会建築
神奈川県横須賀市の閑静な住宅街に、ひときわ温かみのある木造建築が佇んでいます。日本基督教団横須賀上町教会・付属めぐみ幼稚園は、2003年に国の登録有形文化財に登録された、昭和初期の教会建築です。ウィリアム・メレル・ヴォーリズの最後の弟子と称される建築家・横田末吉が設計したこの教会は、尖頭アーチ窓や十字架を掲げる塔屋など、穏やかなゴシック様式の意匠を纏いながら、約1世紀にわたり地域の信仰と教育の拠点として愛され続けています。
教会の歴史 ― 明治から令和へ受け継がれる信仰
横須賀上町教会の歴史は、1903年(明治36年)にまで遡ります。日本福音教会の金子吉之助牧師が、当時の中里町(現在の上町1丁目)において伝道を開始し、1906年(明治39年)に「横須賀福音教会」が正式に設立されました。
しかし、1923年の関東大震災により教会は甚大な被害を受けます。復興に向けた努力の末、1931年(昭和6年)に現在の上町の地へ移転し、新たな教会堂が建設されました。翌1932年には教会付属の「聖心幼稚園」が開園し、地域の子どもたちの教育にも貢献するようになりました。
1941年(昭和16年)、日本のプロテスタント諸教派が合同して日本基督教団が結成されると、教会は「横須賀中里教会」と改称されました。幼稚園も戦時下で「戦時保育園」に名称を変更しましたが、終戦後に元の聖心幼稚園に戻しています。1959年(昭和34年)には、町名変更に伴い、教会名を「横須賀上町教会」、幼稚園名を「横須賀上町教会付属めぐみ幼稚園」と改称し、現在に至っています。
設計者・横田末吉とヴォーリズ建築の系譜
横須賀上町教会を設計したのは、建築家・横田末吉です。横田は「ヴォーリズ最後の弟子」とも称される人物で、その生没年は不明とされていますが、師であるウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築思想を受け継いだ設計を数多く手がけました。
ヴォーリズは1905年にアメリカから来日し、キリスト教の伝道活動を行いながら、全国で約1,600件もの建築を設計した偉大な建築家です。教会、学校、病院、ホテルなど多様な建物を手がけ、大きな窓による自然光の取り入れ、アーチ型の意匠、使う人への優しさを考えた設計が特徴として知られています。横須賀上町教会にも、尖頭アーチの窓、周囲の街並みに調和する控えめで温かみのある外観など、ヴォーリズ建築の精神が随所に見て取れます。
文化財としての価値 ― なぜ登録有形文化財に登録されたのか
横須賀上町教会・付属めぐみ幼稚園は、2003年(平成15年)3月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化遺産オンラインの解説によれば、「市中心部に近い住宅街に建設され、上町教会の名で親しまれている教会建築」であり、「外装下見板張で、尖頭アーチ型の上げ下げ窓を礼拝堂の各側面に配し、切妻屋根の道路側に設けられた塔屋に十字架を掲げ、歴史的な街路景観の形成に寄与している」点が評価されています。
建設当初の1930年頃は平屋建てでしたが、1950年(昭和25年)に2階部分が居住スペースとして増築されました。構造は木造平屋一部2階建、鉄板葺で、建築面積は約187平方メートル、塔屋付きの1棟です。昭和初期の木造教会建築として、ヴォーリズの弟子による設計であることも含め、建築史的にも貴重な存在として位置づけられています。
見どころ・魅力
尖頭アーチ窓
礼拝堂の各側面に配された尖頭アーチ型の上げ下げ窓(ギロチン窓)は、この教会の最も印象的な意匠です。ゴシック建築の影響を受けたこのアーチ窓から差し込む自然光が、礼拝堂内部を穏やかで瞑想的な空間に包みます。ヴォーリズ建築に特徴的な「光を大切にする設計」が、この小さな教会にもしっかりと受け継がれています。
塔屋と十字架
道路に面した切妻屋根の上に設けられた小さな塔屋には、十字架が掲げられています。派手さはなく、住宅街の景観に自然と溶け込む控えめな佇まいですが、道を行く人々に静かに信仰の存在を伝えるランドマークとなっています。
下見板張りの外壁
外壁は横板を少しずつ重ねて張る「下見板張り」で仕上げられています。明治期以降、日本の教会建築や洋風建築に広く採用されたこの工法は、経年とともに味わい深い表情を見せ、建物に温かみと風格を与えています。
現役の教会・幼稚園として
多くの登録文化財が博物館や記念館として保存されているのに対し、横須賀上町教会は現在も毎週日曜日に礼拝が行われる「生きた文化財」です。また、付属のめぐみ幼稚園は定員約50名の小規模なキリスト教主義の幼稚園として現在も運営されています。横須賀市民をはじめ全国からの寄付・献金によって修理・保全が行われ、地域に愛されながら大切に使い続けられています。
周辺情報
横須賀は日本海軍や米海軍基地との関わりから、日本文化と西洋文化が融合した独特の魅力を持つ街です。横須賀上町教会の訪問と合わせて楽しめる周辺スポットをご紹介します。
- どぶ板通り — 日本とアメリカの文化が融合したユニークな商店街。ネイビーバーガーの名店やミリタリーショップが並び、横須賀ならではの異国情緒を楽しめます。教会から徒歩約15分。
- 三笠公園・記念艦三笠 — 「日本の都市公園100選」にも選ばれた海沿いの公園。日露戦争で活躍した戦艦三笠が記念艦として保存されています。教会から徒歩約20分。
- 猿島 — 三笠公園からフェリーで約10分の無人島。明治時代の軍事要塞跡が残り、レンガ造りのトンネルや砲台跡などを巡るハイキングが人気です。夏にはバーベキューや海水浴も楽しめます。
- ヴェルニー公園 — 横須賀造船所の建設に貢献したフランス人技師ヴェルニーにちなんだ海沿いの公園。春と秋にはバラが美しく咲き誇ります。
- 横須賀美術館 — 海を見下ろす丘の上に建つ近代的な美術館。日本と西洋の美術コレクションを所蔵しています。
Q&A
- 教会の内部を見学できますか?
- 横須賀上町教会は現役の礼拝施設です。毎週日曜日の午前10時30分からの主日礼拝にはどなたでも参加できます。礼拝時間以外に内部をご覧になりたい場合は、事前に教会へお問い合わせください。
- 入場料はかかりますか?
- 入場料はありません。教会・幼稚園は地域に根ざした活動施設であり、博物館ではございません。登録有形文化財の保全のための寄付は随時受け付けています。
- 東京からのアクセス方法を教えてください。
- 京急線の品川駅から三崎口方面行きに乗車し、県立大学駅で下車してください(品川から約60分)。駅から教会まで徒歩約8分です。横須賀中央駅からは徒歩約12分です。
- 写真撮影はできますか?
- 外観の撮影は基本的に問題ありません。内部の撮影をご希望の場合は、教会のスタッフにご確認ください。礼拝中の撮影は、参列者への配慮からご遠慮いただいています。
- 訪問に適した時期はありますか?
- 一年を通じて訪問可能ですが、気候の穏やかな春(3月~5月)や秋(10月~11月)がおすすめです。朝や夕方の柔らかな光の中での木造教会の佇まいは、特に美しく写真映えします。
基本情報
| 名称 | 日本基督教団横須賀上町教会・付属めぐみ幼稚園 |
|---|---|
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物) — 2003年(平成15年)3月18日登録 |
| 設計 | 横田末吉(ウィリアム・メレル・ヴォーリズの弟子) |
| 竣工 | 1930年(昭和5年)頃 / 1950年(昭和25年)増築 |
| 構造 | 木造平屋一部2階建、鉄板葺、建築面積187㎡、塔屋付 1棟 |
| 所在地 | 〒238-0017 神奈川県横須賀市上町2-43 |
| アクセス | 京急線 県立大学駅から徒歩約8分 / 京急線 横須賀中央駅から徒歩約12分 |
| 所有者 | 宗教法人 日本基督教団横須賀上町教会 |
| 主日礼拝 | 毎週日曜日 午前10時30分~ |
参考文献
- 日本基督教団横須賀上町教会・付属めぐみ幼稚園 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/116084
- 日本基督教団横須賀上町教会 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/日本基督教団横須賀上町教会
- 日本基督教団 横須賀上町教会 — 教会公式サイト
- https://charis284.wixsite.com/mysite/blank-7
- 登録有形文化財(建造物) — めぐみ幼稚園公式サイト
- https://www.yu-megumi.com/登録文化財/
- 横須賀上町教会附属めぐみ幼稚園 — 横須賀市公式サイト
- https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/2645/sisetu/fc00000177.html
- 横須賀で建築巡り!おススメの名建築7選を紹介 — トーキョー建築トリップ
- https://yamakenlab.com/archives/kantou-yokosuka.html
最終更新日: 2026.03.03