清水寺本坊庭園|雪舟作と伝わる室町の名勝庭園

福岡県みやま市の清水山中腹にひっそりとたたずむ「清水寺本坊庭園」は、室町時代の画僧・雪舟等楊(1420年〜1506年)の作と伝えられる池泉鑑賞式庭園です。昭和4年(1929年)に国の名勝に指定され、九州を代表する古庭園のひとつとして知られています。本坊の縁側に腰を下ろし、心字池と背後の愛宕山を借景とした静謐な景観をただ眺める——そんな時間こそが、この庭の本来の楽しみ方です。

水墨画家・雪舟が手がけたと伝わる庭

本坊庭園が所在する本吉山清水寺は、平安時代初期の大同元年(806年)、天台宗の開祖・最澄(伝教大師)によって開かれたと伝わる古刹です。寺伝によれば、唐から帰国したばかりの最澄は、有明海の東に光を放つ山に導かれ、一羽の雉に案内されてこの清水山に分け入りました。そこで霊木の合歓(ねむ)の木に二体の千手観音像を刻み、一体は京都の清水寺に、もう一体をこの地に安置したのが寺の始まりとされます。京都の清水寺と「兄弟」のような縁を持つ寺院、というわけです。

庭園そのものが造られたのは、寺の創建から数百年後の室町時代後期と伝えられています。中国・明で水墨画と山水技術を学んだ雪舟は、絵画と作庭という二つの芸術を行き来しながら、九州・中国地方に複数の庭園を残したとされ、本坊庭園もその一つに数えられてきました。築造の正確な年代を伝える文書は残されていないものの、庭の構成や石組みの趣には、雪舟風の山水画的な感性が色濃くにじみます。江戸時代の元禄期(1688〜1704年)には柳川藩主・立花氏の援助のもとで境内が整えられ、本坊庭園もこの頃に手が加えられたと考えられています。

国の名勝に指定された理由

清水寺本坊庭園は、昭和4年(1929年)4月2日に国の名勝に指定されました。文化庁の指定文書では、「三方を岡陵で囲み、後方台地の下に池と島を設け、右方に遠く瀬瀑を望み、左方近くに直瀑を観る。池畔・島嶼に石を配し、松樹・槭樹(モミジ)を植え、山によりかかる清邃な泉水庭として佳姿を有する」と評され、明治初期に多少の荒廃を見たものの主要な庭区はほぼ旧状を保っている、と記されています。

この庭の評価を支えているのは、複数の要素が一つの風景として結びついている点です。中央の池は「心」の字をかたどった「心字池(しんじいけ)」で、池中には鶴と亀をかたどった中島が浮かびます。庭の左右には岩清水を導いた緩急二つの滝が流れ落ち、池畔には丹念に組まれた石と、モミジ・松・コケ類による植栽が配されます。そして庭の背後にそびえる愛宕山がそのまま借景として取り込まれ、人の手による庭と自然の山並みとが一続きの景観を成しているのです。

さらに見逃せないのは、この庭が「月を観る」ために設計されているという点です。仲秋の名月は愛宕山から昇り、その姿が心字池の水面に映り込むよう計算されたといわれ、自然・建築・天体までを一つの構図に収めようとした作庭者の壮大な構想が偲ばれます。

本坊庭園の見どころ

本坊庭園は、基本的に「歩く庭」ではなく「座って眺める庭」です。本坊(住職の居室を兼ねた建物)に上がり、座敷や縁側に腰を下ろすと、目の前に庭園のすべてが一望のもとに広がります。中島の浮かぶ心字池、丁寧に組まれた石組み、両側から流れ込む滝、苔むした地面、そして遮るもののない愛宕山——視点を一つに絞ることで、構図の妙がより深く味わえます。

庭の表情は四季ごとに大きく変わります。春から初夏には新緑のモミジが池面に映え、夏には木々の濃い影が水を覆い、秋——例年11月下旬から12月上旬——には園内のイロハカエデやイチョウ、ハゼがいっせいに紅葉し、紅葉まつりが催されます。冬の薄雪をまとった景色は、まさに雪舟の水墨画そのもの。鳥のさえずりと山水の音だけがあたりを包む空気は、訪れる人に「ここは京都よりも京都らしい」と感じさせるほどの静寂です。

本坊内には近代の詩人・佐藤春夫の句が掲げられ、本坊前には北原白秋自筆の歌碑「ちち恋し 母恋してふ 子のきじは 赤と青とも そめられにけり」が立ちます。雉に導かれて開山したと伝わる寺の由緒に、詩人がそっと寄り添うかのような一首です。

周辺の見どころ

本坊庭園からさらに山を登ると、約1km先に清水寺の本堂と三重塔があります。三重塔は天保7年(1836年)に大阪・四天王寺の五重塔を手本として建立された朱塗りの優美な塔で、福岡県指定有形文化財に指定されています。元は五重塔として計画されていましたが、大工棟梁が建設中に亡くなり、三重に変更されたと伝えられています。

延享2年(1745年)に柳川六代藩主・立花貞則の願主によって建立された山門も、福岡県指定有形文化財に指定された堂々たる楼門です。さらに延享3年(1746年)造営の仁王門には高さ2.4mの仁王像が立ち、参道沿いには表情豊かな五百羅漢の石像が並びます。これらの史跡をつなぐ全長18kmの「清水山の史跡を巡るみち」は、「美しい日本の歩きたくなるみち500選」にも選ばれています。

清水寺は牡丹の名所としても知られ、境内には大規模な牡丹園が広がります。みやま市はセロリや有明海苔の産地として有名で、近隣には水郷・柳川の川下りや道の駅みやまなど、立ち寄りどころも豊富です。

Q&A

Q京都の清水寺と関係はあるのですか?
A寺伝によれば、開祖・最澄が同じ霊木から二体の千手観音像を刻み、一体を京都の清水寺に、もう一体をこの本吉山清水寺に安置したと伝えられています。経営上の関係はありませんが、伝承の上では深い縁を持つ寺院です。京都の清水寺と区別するため、こちらは「本吉山清水寺」と呼ばれます。
Q本当に雪舟が作庭したのですか?
A築造年代を直接示す古文書は残っていませんが、室町時代後期という時代性、庭の構成、九州の他の「雪舟庭園」との作風の親和性などから、雪舟による作庭と古くから伝えられてきました。確実な証拠はないものの、雪舟の系譜に連なる名庭として広く認識されています。
Qいつ訪れるのがおすすめですか?
A最も人気が高いのは、イロハカエデが赤く色づく11月下旬〜12月上旬の紅葉シーズンで、紅葉まつりも開催されます。一方、新緑が美しい春から初夏、木々の濃い緑が静寂を深める夏、雪化粧した冬の景色も格別で、四季それぞれに違う味わいがあります。
Q滞在時間の目安は?
A本坊庭園のみであれば30〜45分ほどが目安です。座って眺めることを前提とした庭なので、ぜひゆったりと時間を取ってください。本堂・三重塔・仁王門など寺全体を巡る場合は、2〜3時間ほど見ておくと安心です。
Q公共交通機関でも行けますか?
AJR鹿児島本線の瀬高駅からタクシーで約10分が最も確実です。瀬高駅からはコミュニティバスも運行しており、牡丹や紅葉のシーズンにはシャトルバスが運行されることもあります。瀬高駅にはレンタサイクルもあるため、自転車で向かう方法もあります。

基本情報

名称 清水寺本坊庭園(きよみずでらほんぼうていえん)
指定区分 国指定名勝(昭和4年4月2日指定)
時代 室町時代後期(江戸時代元禄期に整備)
作庭者(伝承) 雪舟等楊(1420〜1506)と伝えられる
形式 池泉鑑賞式庭園(借景式)
所在寺院 本吉山普門院清水寺(天台宗)
所在地 〒835-0003 福岡県みやま市瀬高町本吉1117-4
拝観時間 9:00〜17:00
休観日 毎週月曜日(祝日および11月中を除く)/毎月18日
庭園保存費 大人500円(2026年4月改定)。最新の料金は寺へお問い合わせください。
アクセス 九州自動車道「みやま柳川IC」から車で約5分/JR鹿児島本線「瀬高駅」からタクシーで約10分
問合せ先 清水寺 0944-62-2001

参考文献

文化遺産オンライン|清水寺本坊庭園
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191922
みやま市公式サイト|清水寺本坊庭園
https://www.city.miyama.lg.jp/sp004/020/100/20200107013000.html
クロスロードふくおか|清水寺本坊庭園
https://www.crossroadfukuoka.jp/spot/12762
福岡県の文化財|清水寺本坊庭園
https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=4&id=69
本吉山清水寺 公式ホームページ
https://www.kiyomizudera-fukuoka.com/
Wikipedia|清水寺(みやま市)
https://ja.wikipedia.org/wiki/清水寺_(みやま市)

最終更新日: 2026.05.03