火災の跡地に建った鉄筋コンクリート校舎

熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)は、熊本県熊本市中央区黒髪の黒髪南キャンパスに建つ大正13年(1924年)竣工の校舎で、平成10年(1998年)9月2日に国の登録有形文化財に登録された。

この建物が生まれた直接のきっかけは火災である。大正11年(1922年)10月、熊本高等工業学校の木造本館が焼失した。明治41年(1908年)に竣工した木造2階建(一部3階建)の校舎だった。再建にあたって選ばれた構造は木造ではなく鉄筋コンクリート造で、3階建、建築面積は1038平方メートルに及ぶ。

設計を担当したのは文部技師の長岡勇衛。当時の日本の建築界は、鉄とセメントという材料は手にしていたものの、それをどう「見せる」かについてはまだ答えを持っていなかった。柱の見せ方も窓の割り付けも、煉瓦や石のために練り上げられた作法をそのまま持ち込むわけにはいかない。

熊本高等工業学校の創立は明治39年(1906年)。第五高等学校工学部が分離独立して発足し、旧豊後街道を挟んだ南側の土地に校地を構えた。土木・機械・採鉱冶金の3学科から始まり、戦後は熊本大学工学部へと引き継がれている。

登録の理由と評価

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の評価では、文部省直轄学校における鉄筋コンクリート造校舎の初期の作例に位置づけられている。

その評価を支える要素は二つある。ひとつは柱型、つまり構造の柱を壁の内側に隠さず、壁面に垂直の帯として表に出した扱い。もうひとつは、その頂部を飾るセセッション風の柱頭飾りである。ウィーン分離派の意匠は雑誌や留学帰りの建築家を通じて日本にも届いていた。平面的で幾何学的なその装飾は、彫るのではなく型に流して作るコンクリートとの相性がよかった。

年表を並べると、この建物の立ち位置がはっきりする。木造本館の焼失が大正11年10月。関東大震災が大正12年(1923年)9月。そして本館の竣工が大正13年。震災を経て公共建築の鉄筋コンクリート化が一気に進んだ、その転換点をまたいで新旧の校舎が入れ替わったことになる。

なお、登録有形文化財は重要文化財より緩やかな保護の枠組みで、日常的に使い続けられている建物を対象とする制度である。登録番号43-0011を持つこの建物も例外ではなく、平日には職員が出入りし、事務が動いている現役の建築物だ。

見どころと、足元に眠るもの

少し離れた位置から正面全体を視野に入れると、設計の考え方が読める。垂直の柱型が壁面を等間隔に区切り、その間に窓が並び、装飾は柱型の頂部に集まる。仕掛けとしては単純だが、構造をそのまま見せようとする姿勢が現れている。

見えないところにも話がある。平成27年(2015年)、本部棟の改修工事に伴って熊本大学埋蔵文化財調査センターが発掘調査を実施したところ、建物の内外の複数箇所から赤煉瓦積みの基礎が見つかった。焼失した明治41年の初代本館の基礎である。しかもこの初代本館の設計図は工学部研究資料館に保管されており、図面と遺構の両方が残る珍しい例となった。

同じ黒髪南キャンパスには、もうひとつ足を運ぶ価値のある建物がある。明治41年竣工の工学部研究資料館(旧機械実験工場)で、こちらは重要文化財。明治から大正にかけて購入された11台の工作機械が動く状態で保存されている。一般公開は毎月第3木曜日の13時から16時まで。

旧豊後街道を渡った北側の黒髪北キャンパスには、明治22年(1889年)の第五高等中学校時代の煉瓦造建築が4棟並び、いずれも重要文化財に指定されている。五高記念館の開館時間は10時から16時(入館は15時30分まで)、火曜休館。これらの煉瓦造建築は平成28年(2016年)4月の熊本地震で壁体に亀裂が入るなどの被害を受け、平成29年から令和4年(2022年)にかけて災害復旧工事が行われた。

本部棟そのものの実用情報を書いておく。内部は事務室で、見学ツアーや内部公開の制度はない。外観はキャンパス内から見ることができ、構内は日中であればおおむね徒歩で通行できる。外観の撮影は通常問題ないが、学生や職員が写り込まないよう配慮したい。熊本駅前から産交バスの楠団地行き・光の森産交行きなどに乗り「熊本大学前」下車、所要はおよそ30〜40分。

Q&A

Q熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)の内部は見学できますか?
A内部は大学の事務部門が日常的に使用しており、見学ツアーや一般公開は行われていません。見学は黒髪南キャンパス構内からの外観のみとなります。
Q熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)は撮影できますか?
A構内からの外観撮影は通常差し支えありません。ただし現役の大学構内ですので、学生や職員が写り込まないよう配慮し、事務室内へは立ち入らないでください。
Q熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)へのアクセスは?
A熊本駅前から産交バスの楠団地行き・光の森産交行きなどに乗車し「熊本大学前」下車、所要約30〜40分です。所在地は熊本市中央区黒髪2-39-1の黒髪南キャンパス内になります。
Q熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)の周辺で他に見られる文化財はありますか?
A同じ黒髪南キャンパスに重要文化財の工学部研究資料館(明治41年竣工)があり、毎月第3木曜日13時から16時に一般公開されています。旧豊後街道を挟んだ北側の黒髪北キャンパスには五高記念館など明治22年の煉瓦造重要文化財が4棟あります。
Q熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)はなぜ文化財として価値があるのですか?
A文部省直轄学校における鉄筋コンクリート造校舎の初期の作例であることが評価されています。大正11年の火災で失われた木造本館の代わりに大正13年に完成し、壁面に表した柱型とセセッション風の柱頭飾りに、新素材へ取り組んだ当時の設計姿勢が読み取れます。

基本情報

名称熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)
所在地熊本県熊本市黒髪2-39-1(現在の行政区分では中央区黒髪、黒髪南キャンパス)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号43-0011 登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成10年(1998年)9月2日登録、同年9月25日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造3階建、建築面積1038平方メートル
所有者国立大学法人熊本大学
公開状況内部非公開。キャンパス構内からの外観見学は可能

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000747
文化遺産オンライン — 熊本大学本部(旧熊本高等工業学校本館)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/113827
熊本大学キャンパスミュージアム — 施設のご案内
https://museum.kumamoto-u.ac.jp/facility/
熊本大学 — 焼失した熊本高等工業学校旧本館の謎にせまる、赤煉瓦基礎を発見
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/zinbun/20150413
熊本大学 — 重要文化財旧第五高等中学校ほか3棟災害復旧工事報告書
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/shisetu/xjahx3
熊本大学 — 交通案内
https://www.kumamoto-u.ac.jp/campusjouhou/access
熊本市 — 熊本市内の登録有形文化財一覧
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00361897/index.html

最終更新日: 2026.08.08