旧日本銀行京都支店:三条通に佇む明治の洋風建築の傑作

京都の歴史ある三条通に堂々と佇む旧日本銀行京都支店は、明治時代を代表する洋風建築の傑作です。1906年(明治39年)に竣工したこの赤レンガの建物は、日本近代建築の巨匠・辰野金吾とその弟子・長野宇平治によって設計されました。現在は京都文化博物館別館として一般に公開されており、明治の近代化の息吹を今に伝える貴重な文化遺産として、国内外から多くの来訪者を迎えています。

歴史的背景

日本銀行が京都に初めて拠点を設けたのは1894年(明治27年)のことです。当初は東洞院通御池上ルの民家を買収・改造した仮店舗で営業していました。日本経済が急速に近代化を遂げるなか、本格的な銀行建築の必要性が高まり、当時京都の商業金融の中心地であった三条高倉の地が新築移転先に選ばれました。この場所には、かつて室町時代に足利義満が祖母のために創建した曇華院(どんげいん)という尼寺が建っていたという由緒ある土地です。

1903年(明治36年)に着工し、1906年(明治39年)6月に竣工。以来約60年にわたり日本銀行京都支店として金融業務の中枢を担いました。しかし、時代の変遷とともに職員の増加で建物が手狭となり、また周囲の道路が狭く現金輸送車の出入りにも支障をきたすようになったことから、1965年(昭和40年)に河原町二条へ移転しました。

移転後の建物は1967年(昭和42年)に財団法人古代学協会の所有となり、平安博物館として開館しました。1986年(昭和61年)に京都府の所有に移り、1988年(昭和63年)まで屋根の葺き替えや内部の部分修理が行われた後、京都文化博物館別館として公開され、現在に至っています。

重要文化財指定の理由

旧日本銀行京都支店は、1969年(昭和44年)3月12日に国の重要文化財に指定されました。指定の理由として、明治中期の代表的な洋風建築であること、煉瓦造二階建(一部地下一階付)の堅牢な構造に石材を混用して壁面に変化をつけた意匠の優秀さ、塔屋をはじめとする設計者独自の創意あふれる外観デザイン、そしてこの種の建造物としては保存状態が極めて良好であることが挙げられています。日本の近代化を象徴する建築物として、その歴史的・芸術的価値が高く評価されています。

建築の見どころ

「辰野式」の外観

この建物の最大の特徴は、赤レンガに白い花崗岩の帯を配した「辰野式」と呼ばれる外観デザインです。19世紀後半のイギリス建築に着想を得たこの意匠は、辰野金吾の代名詞となり、後に設計される東京駅丸の内駅舎にも用いられました。京都支店はその初期の作品として知られています。左右対称の堂々たるファサードには、ドーマー窓や銅板葺きの塔屋が配され、三条通に威風堂々たる姿を見せています。レンガの目地には「覆輪(ふくりん)目地」と呼ばれる日本独自の盛り上げ技法が施されており、壁面に豊かな陰影と立体感を与えています。

全国から集められた建材

建設にあたっては、全国各地から厳選された素材が集められました。レンガは大阪で生産されたもの、花崗岩は京都府亀岡市の小金岐産や岡山県笠岡市の北木島産などが使用されています。屋根のスレートは宮城県登米市の登米産、客溜りなどに使われた大理石は岐阜県大垣市の赤坂産です。こうした素材の吟味からも、当時の建築にかけた情熱がうかがえます。

壮麗な旧営業室

内部の最大の見どころは、旧中央営業室です。コリント式の列柱が支える吹き抜けの大空間は、銀行建築ならではの荘厳な雰囲気を今に伝えています。1986年~1988年の修理の際にカウンターや照明器具が忠実に復原され、建設当初の銀行の雰囲気がよみがえりました。カウンター上の装飾的なスクリーン(仕切り格子)は、滑車と分銅の仕組みにより自在に上げ下げでき、どの位置でも静止できるという精巧なメカニズムを備えています。天井の格子窓と二階の窓から豊かな自然光が差し込む設計は、銀行員の手元を明るく照らすための工夫でした。

歴史を伝える金庫室

本館背後の別棟には、重要文化財の附(つけたり)に指定されている旧金庫室が残されています。分厚い鉄扉や重厚な照明器具がそのまま残り、銀行時代の面影を色濃く伝えています。現在この空間には、1971年創業の京都の老舗・前田珈琲の文博店が入っており、歴史の重みに包まれながらコーヒーやランチを楽しむことができます。

日本一のリノリウム床

旧営業室の床材には、竣工当時からリノリウムが使用されています。当時日本にはリノリウムがなかったため、わざわざドイツから輸入されました。東洋リノリウム社(現・東リ)によれば、この別館のリノリウムの一枚面積はおよそ日本一とのことです。継ぎ目のない床面は、銀行員が動きやすいようにとの配慮から選ばれたものでした。

見学案内

京都文化博物館別館は無料で一般公開されており、壮麗な旧営業室をはじめとする建物内部を自由に見学できます。館内での写真撮影も可能です。別館では美術展やコンサート、各種文化イベントが定期的に開催されています。隣接する京都文化博物館本館では、京都の歴史と文化に関する総合展示のほか、京都府所蔵の日本の古典・名作映画を上映するフィルムシアターもあります。

開館時間は10:00~19:30、休館日は月曜日(祝日の場合は開館し、翌火曜日が休館)です。前田珈琲文博店は10:00~19:00の営業です。

アクセスは、地下鉄烏丸線・東西線「烏丸御池」駅5番出口から三条通を東へ徒歩約3分。阪急京都線「烏丸」駅16番出口から高倉通を北へ徒歩約7分。京阪本線「三条」駅6番出口から三条通を西へ徒歩約15分。市バス「堺町御池」停留所から徒歩約2分です。

周辺の見どころ

旧日本銀行京都支店は、京都随一の近代建築が集積するエリアの中心に位置しています。三条通は京都市の「界わい景観整備地区」に指定されており、明治から大正期の洋風建築が軒を連ねています。通りを東に歩けば、中京郵便局旧庁舎(ファサード保存)、SACRAビル(旧不動貯金銀行京都支店、1916年頃)、文椿ビルヂング(旧西村貿易店社屋、大正期)など、見応えのある近代建築に出会えます。旧京都中央電話局を改修した商業施設「新風館」も近くにあります。

少し足を延ばせば、京都の食文化を体感できる錦市場、伝統的な町家が並ぶ六角通や三条通の路地裏散策も楽しめます。烏丸御池周辺には、旧明倫小学校を改修した京都国際マンガミュージアムや、同じく旧小学校建築を活用した京都芸術センターもあり、近代建築の保存と活用を実感できるエリアとなっています。

Q&A

Q旧日本銀行京都支店(京都文化博物館別館)の入館料はかかりますか?
A別館の見学は無料です。旧営業室をはじめとする歴史的な建物内部を自由にご覧いただけます。なお、隣接する本館の展示は別途入館料が必要です。
Q設計者はどのような人物ですか?
A設計は、「明治建築界の帝王」と称される辰野金吾と、その弟子で日本銀行技師として各地の銀行建築を手がけた長野宇平治です。辰野金吾は東京駅丸の内駅舎や日本銀行本店の設計者としても知られています。
Q館内で写真撮影はできますか?
Aはい、別館内では写真撮影が可能です。コリント式の列柱が並ぶ壮麗な旧営業室や、精巧なカウンタースクリーンなど、見応えのある被写体が豊富です。
Q旧金庫室は見学できますか?
A旧金庫室は現在、前田珈琲文博店として営業しており、カフェを利用しながら歴史的空間を体験できます。分厚い金庫の扉や重厚な照明器具がそのまま残されています。
Q東京駅とはどのような関係がありますか?
Aどちらも辰野金吾の設計で、赤レンガに白い石材の帯を配した「辰野式」と呼ばれるデザインが共通しています。京都支店(1906年竣工)は東京駅(1914年竣工)よりも先に完成しており、辰野式の初期の代表作として建築史上も重要な位置を占めています。

基本情報

名称 旧日本銀行京都支店(京都文化博物館別館)
文化財指定 国指定重要文化財(1969年〈昭和44年〉3月12日指定)
設計 辰野金吾・長野宇平治
竣工 1906年(明治39年)
構造 煉瓦造、二階建、一部地下一階、スレート葺、両翼塔屋付、袖塀附属
建築面積 884.4 m²
所在地 〒604-8183 京都府京都市中京区三条通高倉西入菱屋町48番地
所有者 京都府
開館時間 10:00~19:30(別館)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館、翌火曜日休館)
入館料 無料(別館)
アクセス 地下鉄「烏丸御池」駅5番出口より徒歩約3分
電話番号 075-222-0888(京都文化博物館)
公式サイト https://www.bunpaku.or.jp/

参考文献

文化遺産オンライン - 旧日本銀行京都支店
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/156265
京都府京都文化博物館 - 別館について
https://www.bunpaku.or.jp/about_us/bekkan_outline/
京都府京都文化博物館 - 建築小噺(洋館建築)
https://www.bunpaku.or.jp/about_us/bekkan_outline/kenchiku/
京阪電気鉄道 - Vol.3 京都文化博物館(別館)
https://www.keihan.co.jp/navi/architecture/architecture202211.php
日本建築材料協会 - 京都府京都文化博物館別館
https://www.kenzai.or.jp/page/exploration/1589/
京都新聞 - 建造物編(53)旧日本銀行京都支店
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/34573
KYOTO SIDE - レトロ・クラシックな京都の近代建築をめぐる旅 京都文化博物館
https://www.kyotoside.jp/entry/20180913/
前田珈琲 - 文博店 京都文化博物館別館内 旧日本銀行京都支店金庫室
https://www.maedacoffee.com/shopinfo/bunpaku/

最終更新日: 2026.04.07