鴨川右岸に建つ大正の電話局舎

旧京都中央電話局上分局は、京都市上京区駒之町にある大正12年(1923年)建築の局舎で、平成9年(1997年)に国の登録有形文化財となった。丸太町橋西詰の南側、鴨川右岸に位置する。

構造は鉄筋コンクリート造3階建、瓦葺で、建築面積は745㎡。この組み合わせがまず目を引く。大正12年当時、公共的な業務施設にRC造を選ぶのは新しい判断だったが、この建物は瓦屋根を載せ、壁面を欧州の農村住宅のように見せる。上京区役所の解説は、周囲の景観に配慮してドイツ民家風の外観が取り入れられたと記す。結果として、通りがかりの多くは組積造と受け取り、建築年代を一、二十年ほど後にずらして見積もる。

設計は逓信省技師の吉田鉄郎、施工は清水組。吉田は東京中央郵便局や大阪中央郵便局の設計者として知られ、装飾を削いだ平滑な壁面は日本の近代建築の基準点となった。この局舎はそれらに先立つ時期の作である。文化庁は、吉田が表現主義から合理主義建築へ展開していく過程を知ることのできる作品の一つとしてこの建物を位置づけ、あわせて現存するRC造の電話局舎のなかで最も古い部類に属すると記載している。

交換機が去ったあと

上分局は昭和34年(1959年)に廃局になったと地元の記録は伝える。建物は取り壊されず、別の用途へ転用された。昭和57年(1982年)ごろには構造補強が行われ、あわせて竣工時に近い姿への復原がはかられている。国の登録はその後の平成9年、第4回登録でのことだった。制度が動き出して数年という時期であり、登録番号26-0006は京都府内で最も早い段階の登録であることを示す。京都市の登録有形文化財でもある。

登録という制度は、意図的に手綱を緩めてある。大規模な現状変更の前に届出を求めるかわり、建物が収益を上げて存続することを妨げない。所有は西日本電信電話株式会社。そして現在この建物に入っているのはスーパーマーケットである。京都を拠点とするチェーンのフレスコ河原町丸太町店で、買い物客は入口のアーチをくぐって野菜を買う。

近代建築の残し方という観点から見ると、この帰結は注目に値する。同時期の京都の登録文化財で、予約も料金も要さず平日の昼にふらりと内部へ入れる例は多くない。この建物はその数少ない一つである。ほかより丁重に扱われたからではない。使い道が見つかったからだ。

訪ねる

最寄りは京阪電鉄の神宮丸太町駅で、徒歩3分ほど。改札を出て丸太町通を西へ進むと、鴨川に出る手前の南側に建つ。店舗の営業時間は9時から23時、日曜・祝日は22時までで、定休日は設けられていない。駐車場はない。

内部は営業中の食品スーパーであり、古い躯体は展示されているわけではなく、什器の合間から覗く。天井の構造と窓の開口部の並びに、当初の寸法感覚がよく残っている。外観の撮影は公道から自由に行える。店内では他の客が写り込まないよう配慮し、商店として当然の節度を保ちたい。

外観は日暮れどきがいい。開口部から店内の明かりが漏れ、屋根の輪郭が川面を背に立ち上がる。西へ数分歩けば京都御苑があり、丸太町橋の北側の河川敷からは対岸越しに立面の全体を見渡せる。文化庁が河岸の景観への寄与に触れているのは、この視点を想定してのことだろう。

Q&A

Q旧京都中央電話局上分局の内部に入ることはできますか。
Aできます。建物にはスーパーマーケット「フレスコ河原町丸太町店」が入居しており、営業時間中は誰でも入店できます。入館料や予約は不要です。
Q旧京都中央電話局上分局の営業時間を教えてください。
A入居する店舗は9時から23時、日曜・祝日は22時までの営業で、定休日はありません。時間は店舗の判断で変わることがあります。
Q旧京都中央電話局上分局は誰が設計したのですか。
A逓信省技師の吉田鉄郎です。のちに東京中央郵便局や大阪中央郵便局を手がけた人物で、この局舎の施工は清水組が担当しました。
Q大正12年の鉄筋コンクリート造がなぜ欧州の民家のように見えるのですか。
A上京区役所の解説によれば、周囲の景観に配慮してドイツ民家風の外観が採用されました。躯体は鉄筋コンクリート造で、屋根は瓦葺です。
Q旧京都中央電話局上分局へのアクセスを教えてください。
A京阪電鉄の神宮丸太町駅から丸太町通を西へ徒歩3分ほどです。鴨川に出る手前、通りの南側に建っています。
Qこの建物は今も電話局として使われていますか。
A使われていません。上分局は昭和34年(1959年)に廃局になったと伝えられ、その後に構造補強と復原を経て商業用途へ転用されました。

基本情報

名称旧京都中央電話局上分局
所在地京都府京都市上京区中筋通丸太町下る駒之町561-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録基準:造形の規範となっているもの/登録番号 26-0006
指定年平成9年(1997年)7月15日登録、同年7月30日告示
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造3階建、瓦葺、建築面積745㎡
所有者西日本電信電話株式会社
公開状況入居店舗の営業時間中は内部に入場可。外観は常時見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧京都中央電話局上分局」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000253
文化遺産オンライン「旧京都中央電話局上分局」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/180163
京都市上京区役所「上京区の史蹟百選/旧京都中央電話局 上分局」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000012334.html

最終更新日: 2026.08.07