白金台の台地に建つ昭和8年の邸宅

旧朝香宮邸は、東京都港区白金台にある昭和8年(1933年)竣工の邸宅建築で、平成27年(2015年)7月8日に本館・茶室・倉庫・自動車庫・正門の5件が国の重要文化財に指定された。

朝香宮鳩彦王(1887〜1981)は大正11年(1922年)、軍事研究のためフランスへ渡っている。滞在中に交通事故に遭い、看護のため允子内親王も渡欧した。夫妻の帰国は大正14年(1925年)まで延びる。この3年間はパリでアール・デコが最も勢いを持った時期にあたり、様式の名の由来となった1925年の現代装飾美術・産業美術国際博覧会も夫妻は訪れている。

帰国後の邸宅計画は、当時としても異例の編成だった。主要室の内装設計はフランスの装飾芸術家アンリ・ラパンが担当し、建築本体は宮内省内匠寮工務課、設計担当技師は権藤要吉が務めた。ラパンは来日していない。ガラス作品を提供したルネ・ラリックも同様である。図面と手紙と完成した部材が船便で往復し、日本の職人は読めない言語の指示書をたよりに組み上げていった。

朝香宮家は昭和22年(1947年)の皇籍離脱までこの邸宅で暮らした。その後は吉田茂の外務大臣公邸、次いで首相公邸として使われ、さらに白金迎賓館となる。昭和58年(1983年)に東京都庭園美術館として開館し、平成5年(1993年)には東京都指定有形文化財となった。国の重要文化財指定は、その22年後のことである。

指定番号2626が示す5件の内訳

平成27年の指定は指定番号2626として登録され、本館だけでなく5件をまとめて対象としている。文化庁が挙げる指定基準はひとつ、「意匠的に優秀なもの」だけである。

本館は鉄筋コンクリート造、建築面積1,214.60平方メートル、二階建で一部三階建・一部地下一階、煙突が附属する。茶室は昭和11年(1936年)の建築で木造、建築面積83.27平方メートル、桟瓦葺の一部をこけら葺とする。倉庫は昭和8年の鉄筋コンクリート造二階建で118.30平方メートル。自動車庫も同じ年で、鉄筋コンクリート造97.50平方メートル、洗場が附属する。正門だけは1棟ではなく1基と数え、門柱間5.0メートル、東西の脇門と鉄製扉、東袖塀6.4メートル・西袖塀13.1メートルを伴う。

数字を並べてみると、指定の筋道が見えてくる。昭和8年に鉄筋コンクリートで自動車庫と洗場をつくるのは相当な出費であり、その両方が残っていること自体が、当時の最上層の家がどう回っていたかの記録になっている。

文化庁の解説は、この邸宅が抱える対比に注意を向けている。外観は装飾をほとんど排する。一方で内部は、ガラスのレリーフ、照明器具、壁画、彫刻が主要室を埋め、当時最新のフランスの芸術作品を配した濃密で洗練されたアール・デコ意匠にまとめられている。宮内省内匠寮による邸宅建築の頂点のひとつとして意匠的に優れる、というのが評価の要点で、あわせて邸宅を構成する建築群と庭園も保存の対象とされた。

ゆっくり歩くほど見えてくるもの

まず正面玄関で足を止めたい。扉のガラスレリーフはルネ・ラリックがこの邸宅のためだけに制作したもので、同じものは他にない。美術館に残る当初のデザイン画では女性像が裸体で描かれており、日本側の要望で着衣に改められた経緯がわかる。その修正までが、いまの扉の内容に含まれている。

大広間の先、大客室へつなぐ小さな部屋が次室で、その中央に据えられているのが「香水塔」である。アンリ・ラパンが1932年にデザインし、フランス国立セーヴル製陶所で製作され、フランス海軍から朝香宮家に贈られた。上部の照明部分に香水を施し、照明の熱で香りを部屋に広げたという使い方から、後に香水塔と呼ばれるようになった。周囲は黒漆の柱、オレンジ色の人造石の壁、細かな自然石を敷き詰めた床、白漆喰の半円球ドーム天井という取り合わせになっている。

ラリックは大客室のシャンデリア《ブカレスト》、大食堂の《パイナップルとざくろ》も手がけた。3階には黒と白の市松模様が印象に残るウィンターガーデンがあり、こちらは展覧会によって期間限定で公開される。

日本庭園の茶室は昭和11年、本館の3年後の建築である。庭園・茶室エリアは展示室より閉まるのが早く、10時から16時30分まで。10月から3月は安全確保のため、日本庭園内の一部の園路も16時30分で通行を終える。

訪問前に押さえておきたい実務的な点をまとめておく。開館は10時から18時、入館は17時30分まで。休館は月曜だが、月曜が祝日にあたる場合は開館して翌日が休みになる。年末年始も休館である。展覧会の準備期間は庭園のみの公開となり本館には入れないため、内部が目的なら公式サイトのカレンダーを確認してから出かけたい。撮影は庭園と外観なら可能で、本館内部は通常不可。例外は年に一度の建物公開展で、この会期中は多くの部屋で撮影ができる。出入口は目黒通り沿いの正門1か所のみ。JR・東急の目黒駅東口から徒歩7分、都営三田線・東京メトロ南北線の白金台駅1番出口から徒歩6分である。

Q&A

Q旧朝香宮邸は見学できますか。開館時間と休館日は?
A見学できます。東京都庭園美術館の本館として公開されており、開館は10時から18時、入館は17時30分までです。休館日は月曜(月曜が祝日の場合は開館し翌日が休館)と年末年始。展覧会の準備期間は庭園のみの公開となり本館・新館には入れないため、内部の見学が目的の場合は公式サイトのカレンダーで開館状況を確認してから訪ねてください。
Q旧朝香宮邸の内部は写真撮影できますか?
A庭園と建物外観は撮影できます。本館内部は通常撮影不可です。例外は年に一度開かれる建物公開展で、この会期中は所定の条件のもとで多くの部屋の撮影が認められます。ただし当日の館内スタッフの指示が優先されますので、掲示と案内に従ってください。
Q旧朝香宮邸へのアクセスは?最寄り駅からどのくらいですか?
AJR山手線・東急目黒線の目黒駅東口から徒歩7分、都営三田線・東京メトロ南北線の白金台駅1番出口から徒歩6分です。白金台駅の1番出口にエレベーターはなく、段差を避けたい場合は2番出口を利用します(徒歩8分ほど)。敷地の出入口は目黒通りに面した正門の1か所だけです。
Q旧朝香宮邸で重要文化財に指定されているのはどの建物ですか?
A本館・茶室・倉庫・自動車庫・正門の5件で、いずれも指定番号2626、指定年月日は平成27年(2015年)7月8日です。本館・茶室・倉庫・自動車庫が各1棟、正門は1基と数えます。指定の説明では、邸宅を構成する建築群と庭園もあわせて保存を図るとされています。
Q旧朝香宮邸の茶室やウィンターガーデンは見学できますか?
A昭和11年建築の茶室は日本庭園内にあり、庭園・茶室エリアは10時から16時30分まで(展示室より短い時間)公開されています。茶会などのプログラムも定期的に開かれています。本館3階のウィンターガーデンは展覧会によって期間限定で公開されるため、訪問時期によって入れるかどうかが変わります。

基本情報

名称旧朝香宮邸(きゅうあさかのみやてい)
所在地東京都港区白金台五丁目二六番(文化庁データベース表記)。来館案内では港区白金台5-21-9
指定区分重要文化財(建造物) 指定番号2626 指定基準「意匠的に優秀なもの」
指定年平成27年(2015年)7月8日。平成5年(1993年)に東京都指定有形文化財
員数5件(本館・茶室・倉庫・自動車庫は各1棟、正門は1基)
寸法本館 建築面積1,214.60㎡/茶室 83.27㎡/倉庫 118.30㎡/自動車庫 97.50㎡/正門 門柱間5.0m、東袖塀6.4m・西袖塀13.1m
所有者東京都
公開状況東京都庭園美術館として公開。10時〜18時(入館17時30分まで)、月曜・年末年始休館。展覧会準備期間は庭園のみ公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース ― 旧朝香宮邸 本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004796
文化庁 国指定文化財等データベース ― 旧朝香宮邸 自動車庫
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004799
東京都庭園美術館 ― 旧朝香宮邸について
https://www.teien-art-museum.ne.jp/museum/building/
東京都庭園美術館 ― 開館時間・入館料・アクセス
https://www.teien-art-museum.ne.jp/visit/

最終更新日: 2026.08.22

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  1. 旧朝香宮邸 自動車庫 0.00 km
  2. 旧朝香宮邸 倉庫 0.03 km
  3. 旧朝香宮邸 本館 0.06 km
  4. 旧朝香宮邸 茶室 0.13 km
  5. 旧朝香宮邸 正門 0.20 km