三越日本橋本店:日本を代表する百貨店建築の重要文化財

東京・日本橋の中心に堂々と佇む三越日本橋本店は、単なる高級ショッピングスポットではありません。2016年に国の重要文化財に指定されたこの壮麗な建物は、350年以上にわたる日本の商業史を体現し、20世紀初頭の建築芸術の傑作として知られています。1673年に創業した呉服店「越後屋」を前身とし、現在も日本で最も格式ある百貨店のひとつとして営業を続ける三越日本橋本店は、過去の優雅さと現代東京の活力が見事に調和した「生きた文化財」です。

江戸時代に始まる壮大な歴史

三越の歴史は1673年(延宝元年)、伊勢松阪の商人・三井高利が江戸に開いた呉服店「越後屋」に遡ります。1683年(天和3年)に駿河町(現在の日本橋)に移転し、当時の江戸を代表する商業施設のひとつとなりました。「三越」という商号は、創業家「三井」の「三」と屋号「越後屋」の「越」をそれぞれ一字ずつ取って命名されたものです。

1904年(明治37年)、三越は日本の小売業界を一変させる大胆な宣言を行います。全国の主要新聞に「デパートメントストア宣言」と呼ばれる広告を掲載し、欧米の百貨店をモデルとした新しい商業形態への転換を発表しました。この先駆的な取り組みにより、三越は日本初の百貨店として歴史にその名を刻むことになりました。

建築遺産:ルネサンスの壮麗さからアール・デコの洗練へ

最初の新館は1914年(大正3年)に竣工しました。設計は名門・横河工務所が担当し、建築家・横河民輔の指揮のもとに進められました。ルネサンス様式を採用した地上5階建のこの建物は「スエズ運河以東最大の建築」と称され、日本初のエスカレーターやエレベーターを備えた画期的な商業施設でした。

1923年(大正12年)の関東大震災により被害を受けた後、大正期の建物の鉄骨や床スラブを活かしつつ、1927年(昭和2年)に鉄骨鉄筋コンクリート造7階建てに全面改修されました。さらに1935年(昭和10年)の大規模増築では、象徴的な五層吹抜けの中央大ホールや、最上階の特別食堂が新設され、ルネサンス様式の外観を保ちながらも優美なアール・デコ意匠が内部に導入されました。

一貫して横河工務所が設計を担当したことにより、外観は西洋古典様式に則った重厚な意匠で統一されています。その後、1956年(昭和31年)と1964年(昭和39年)にも増築が行われ、総面積は71,000平方メートルを超え、当時日本最大の百貨店となりました。

重要文化財に指定された理由

2016年(平成28年)7月、三越日本橋本店本館は文化庁により国の重要文化財に指定されました。指定の理由は、意匠的に優秀であること、そして歴史的価値が高いことの二点にあります。

文化審議会は、横河工務所による一貫した設計により、外観がやや簡略化しつつも西洋古典様式に則った重厚な意匠で統一されていることを高く評価しました。内部では、格調ある色調で彩られた三越劇場、幾何的意匠の中央ホール、アール・デコ様式の特別食堂など、各時代の先駆的な意匠が採用されており、全体として極めて質の高い空間が創出されていると評されています。

そして何より重要なのは、度重なる増改築を通じて各時代の最新の仕組みや意匠を取り入れ続けてきたこの建物が、我が国の百貨店建築の発展を象徴する存在として認められた点です。これは日本の近代商業建築の歩みそのものを物語るかけがえのない文化遺産です。

見どころ・魅力

中央大ホールと天女(まごころ)像

建物の最大の見どころは、壮大な五層吹抜けの中央大ホールです。採光天井の下にフランス産赤斑大理石とイタリア産卵黄色大理石が張り詰められ、花園のような美しさを湛えています。このホールの中心に鎮座するのが「天女(まごころ)像」です。彫刻家・佐藤玄々の手による高さ11メートル、総重量6,750キログラムの大作で、樹齢500年の檜を用いて制作されました。1960年(昭和35年)に三越創立50周年を記念して設置されたこの像は、降臨する天女の姿で三越の基本理念「まごころ」を象徴的に表現しており、史上最大級の木彫作品のひとつとして圧倒的な存在感を放っています。

ライオン像

1914年の開店以来、本館正面玄関で来店客を迎え続けてきた一対の青銅ライオン像は、110年以上にわたって愛され続ける三越のシンボルです。ロンドン・トラファルガー広場のネルソン記念碑のライオン像をモデルに、当時の支配人・日比翁助の指示で設置されました。待ち合わせ場所としても長年親しまれ、受験生が撫でると合格するという伝説も残る人気のスポットです。

パイプオルガン

中央ホール2階バルコニーには、1929年にアメリカのルドルフ・ウーリッツァー社が製造し1930年に輸入された歴史的なパイプオルガンが設置されています。昭和初期に製造されたシアターオルガンとしては日本に唯一現存する演奏可能な楽器であり、2009年に中央区民有形文化財に登録されました。毎週金曜日・土曜日・日曜日の正午、15時、17時に演奏が行われ、優美な音色がホール全体に響き渡ります。

三越劇場

本館6階にある三越劇場は、1927年(昭和2年)に誕生した日本の百貨店内に現存する最も歴史ある劇場のひとつです。514席の客席と格調高い内装を備え、歌舞伎、演劇、落語、コンサートなど多彩な公演が年間を通じて催されています。日本で初めてファッションショーが開催された場所としても知られる、文化史に残る空間です。

日本橋庭園(屋上庭園)

屋上には2019年にリニューアルされた回遊式の「日本橋庭園」が広がっています。本館屋上の標高が皇居とほぼ同じであることに着想を得て、皇居の植物相に倣った草木が植栽され、池を配した心安らぐ空間となっています。また屋上には、江戸時代から三井家の守護神として崇敬されてきた三囲神社の分社が鎮座しており、商売繁盛と幸運をもたらす神として今も参拝者を迎えています。1921年に建てられたアール・デコ様式の「金字塔」も見どころのひとつです。

熈代勝覧(きだいしょうらん)

三越前駅と店舗を結ぶ地下通路には、文化2年(1805年)頃の日本橋の街並みを精緻に描いた貴重な絵巻物「熈代勝覧」の複製が展示されています。江戸時代の日本橋の賑わいを今に伝える必見の作品です。

隈研吾による1階リニューアル

2018年には、世界的建築家・隈研吾氏のデザインにより1階売場が一新されました。「白く輝く森」をコンセプトに、各柱にアルミニウムパネルの樹冠を配し、LED照明によって木漏れ日のような効果を演出。歴史ある空間に現代的な息吹を吹き込みながら、建築遺産への敬意を感じさせるデザインです。

周辺情報:日本橋エリアの散策

三越日本橋本店は、東京でも有数の歴史的な街・日本橋の中心に位置しています。周辺には文化的・建築的に魅力あるスポットが点在しており、半日かけてゆっくり巡るのがおすすめです。

  • 日本橋 — 1603年に架けられた五街道の起点として知られる名橋。現在の石造アーチ橋は1911年築で、国の重要文化財に指定されています。南方向へ徒歩数分。
  • 三井本館 — 三越のすぐ北に隣接するネオクラシカル様式の壮大な建物。1929年竣工、国の重要文化財。ニューヨークのトローブリッジ&リヴィングストン設計。
  • 日本銀行本店 — 西へ徒歩数分。辰野金吾設計、1896年竣工の重厚な建築で、国の重要文化財。
  • 貨幣博物館 — 日本銀行に隣接する無料の博物館。古代から現代までの日本の貨幣の歴史を学べます。
  • 日本橋高島屋 — 中央通りを南へ徒歩数分。2009年に百貨店建築として初めて重要文化財に指定された名建築です。
  • COREDO室町 — 三越の真向かいに位置する現代的な商業施設。日本の食文化や伝統工芸を現代的に発信するショップが集まっています。

海外からのお客様へ:お役立ち情報

三越日本橋本店では、海外からのお客様に快適にお過ごしいただくための各種サービスを提供しています。免税対応はもちろん、Wi-Fi、手荷物預かり・配送サービス、ATM、ホテルへのお買い物配送サービスなどが利用可能です。英語・中国語の通訳スタッフが常駐しており、国籍を問わずご利用いただけるパーソナルショッピングサービスも好評です。

地下食品フロア(デパ地下)は特に訪問者に人気で、和洋の銘菓やお惣菜、産地直送の食材など、お土産にもぴったりの品々が豊富に揃っています。上層階にはエルメス、ルイ・ヴィトンなどの国際的ラグジュアリーブランドから、着物などの日本伝統工芸、アートギャラリー、ジュエリーまで幅広い品揃えが魅力です。

Q&A

Q三越日本橋本店は文化財として無料で見学できますか?
Aはい、もちろんです。営業中の百貨店ですので、中央大ホール、天女(まごころ)像、ライオン像、屋上庭園などの建築的見どころは入場無料でどなたでもご覧いただけます。予約も不要です。
Qパイプオルガンの演奏はいつ聴けますか?
A毎週金曜日・土曜日・日曜日の正午、15時、17時に中央ホールでライブ演奏が行われます。季節に合わせた楽曲が披露され、各回約10分間の演奏です。祝日や特別なイベント時はスケジュールが変更される場合があります。
Q外国語での対応は可能ですか?
Aはい。英語・中国語の通訳スタッフが常駐しており、お買い物のサポートが受けられます。また、パーソナルショッピングサービスは国籍を問わずどなたでもご利用いただけます。免税カウンターでも外国語対応が可能です。
Q東京駅からのアクセス方法を教えてください。
Aいくつかの便利な方法があります。東京メトロ銀座線で日本橋駅から三越前駅まで1駅、三越前駅から徒歩1分です。東京駅の日本橋口からは徒歩約10分。また、東京駅八重洲口(鉄鋼ビルディング)から無料巡回バス「メトロリンク日本橋」(10:00〜20:00、約10分間隔運行)もご利用いただけます。
Q館内での写真撮影はできますか?
A中央ホールや屋上庭園など建物の共用部分では、個人的な目的での写真撮影は概ね可能です。ただし、一部の売場、催事スペース、三越劇場内では撮影が制限される場合があります。周囲のお客様へのご配慮をお願いいたします。

基本情報

名称 三越日本橋本店(本館)
文化財指定 国指定重要文化財(2016年〈平成28年〉7月指定)
設計 横河工務所(現・株式会社横河建築設計事務所)/主担当:中村伝治
建築沿革 1914年(大正3年)新館竣工、1927年(昭和2年)全面改修、1935年(昭和10年)増築完成、1956年・1964年に増築
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造 地上7階(本館)
建築様式 外観:西洋古典様式(ルネサンス)、内部:アール・デコ意匠を含む
所有者 株式会社三越伊勢丹
所在地 〒103-8001 東京都中央区日本橋室町一丁目4番1号
営業時間 10:00〜19:00(食品・1階は10:00〜19:30、レストランは店舗により異なる)
定休日 1月1日、その他不定休(ビル施設点検日等)
アクセス 東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前駅」より徒歩1分、東京メトロ銀座線・東西線「日本橋駅」より徒歩5分、JR「東京駅」(日本橋口)より徒歩10分
入場料 無料(営業中の百貨店のため入場料不要)
電話 03-3241-3311

参考文献

三越日本橋本店 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/288263
三越日本橋本店(みつこしにほんばしほんてん) — 中央区公式サイト
https://www.city.chuo.lg.jp/a0052/bunkakankou/rekishi/kunibunkazai/030221.html
"伝統と文化の継承" 三越日本橋本店が重要文化財指定に — 株式会社三越伊勢丹ホールディングス
https://www.imhds.co.jp/corporate/news-release/article11.html
「三越日本橋本店」|ヘリテージ — NOVARE Archives 清水建設歴史資料館
https://www.shimzarchives.jp/heritage/heritage_621/
国指定重要文化財 — 日本橋三越本店 三越伊勢丹店舗情報
https://www.mistore.jp/store/nihombashi/feature/history/list01.html
営業時間・アクセス — 日本橋三越本店 三越伊勢丹店舗情報
https://www.mistore.jp/store/nihombashi/access.html
Nihombashi Mitsukoshi Main Store — The Official Tokyo Travel Guide, GO TOKYO
https://www.gotokyo.org/en/spot/82/index.html
三越日本橋本店 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%B6%8A%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%A9%8B%E6%9C%AC%E5%BA%97

最終更新日: 2026.03.06