塗師の家 ―千家十職が住む町
中村宗哲家住宅は、京都市上京区武者小路通新町西入西無車小路町603にある木造2階建の町家で、嘉永7年(1854年)の建築、平成15年(2003年)1月31日に国の登録有形文化財に登録された。
宗哲は個人名ではない。17世紀以来、中村家の当主が代々襲名してきた名である。中村家は千家十職の塗師にあたる。千家十職とは、表千家・裏千家・武者小路千家の三千家に茶道具を納める十の家をいう。十の家、十の職、そして茶の湯との長い関係である。中村家が担うのは漆の仕事、とりわけ抹茶を納める蓋物である棗である。
縁の始まりは、近所であったことと縁組であった。千宗旦の次男である一翁宗守(1605年から1677年)は、塗師の家に養子に入っていたが商いを好まず、千家に戻って武者小路千家を興す。塗師の職は近くに住んでいた中村八兵衛(1617年から1695年)へ渡り、この人物が初代宗哲となった。茶の家と漆の工房は、以来ずっと上京の同じ一帯にある。
現存する建物は江戸時代の末に建てられたものだ。そこを通ってきた家系は、それよりはるかに古い。
登録基準の第三号で入った家
日本の建造物保護には二つの制度が並んで動いており、この家はなじみの薄い方に属する。国宝と重要文化財は指定である。対象を絞り、現状変更は許可制で、公的な補助も厚い。登録有形文化財は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた緩やかな枠組みで、同年10月1日施行、所有者は許可を申請するのではなく変更を届け出る。主に明治以降の膨大な建造物が、評価される前に姿を消していく状況に対応するための制度である。
登録には三つの基準があり、どれが適用されたかを見れば、調査者が何を評価したのかが分かる。京都の登録町家の多くは第一号、すなわち「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録される。この家が該当したのは第三号、「再現することが容易でないもの」だった。
この違いは実質的である。第一号は街並みについての基準だ。第三号は建物そのものの成り立ちについての基準で、材料と技術と手わざのこの組み合わせを今日では再現できない、という判断を含む。ここではそれを支える事実が二つある。建築年代が推定ではなく明らかであること。これは町家では珍しい。そして大工が分かっていることである。
手がけたのは木村清兵衛、数寄屋大工である。茶の湯のために発達した略式の建築を専門とする職人で、この家を建てた2年後、安政3年(1856年)には裏千家の増築を担当している。年代が確定し、その水準の大工の名が分かっている町家は少ない。調査者が第三号に手を伸ばした理由がここにある。
この一件は、登録の対象が近代建築に限られないことも示している。嘉永7年は明治より14年早い。江戸時代の建造物も登録対象であり、これはその一例である。
建物の働き
平面は町家、すなわち京都の町屋の形式による。間口が狭く、奥へ深く、通り庭が玄関から奥まで貫く。通り庭は土間の通路で、人の動きと光と風を敷地の奥行き全体に通す装置である。南と西には高塀を立てる。手狭な市街地の敷地で視線を切りながら、内側の庭の上に空を残す手法だ。
木造2階建、瓦葺、建築面積158平方メートル。
数寄屋大工の腕は柱に出る。面皮柱がある。角に樹皮の際を残して四角に落とした柱で、製材された部材でありながら樹木としても読める。ここではさらに色付けが施されている。絞り丸太も使われている。表面に縦方向の自然な皺を持つ丸太で、道具ではつくれない不整形を、茶の建築は好んで用いる。どちらも素直に削った材より高くつき、手間もかかる。そしてどちらも、滑らかさを意識的に拒む選択である。
結果として、町家でありながら茶の建築でもある家が立ち上がる。その両立が要点だ。住み手は茶人ではなく、茶人に道具を納める職人である。この建物は、塗師が茶室に対して取る距離と同じ距離に立っている。語彙を共有できるほど近く、自分の仕事を持つだけ離れている。
所在地について一点書き添えておく。国の記録はこの家を「京都西陣にある」と記す。住所が示す位置はそれより東の、武者小路通の新町通西入である。西陣を京都北西部の広い地域名として捉えれば整合するが、織屋町としての狭義の西陣とは重ならない。資料を突き合わせる読者は、この幅を見込んでおきたい。
訪ねかた、そして代わりに見る場所
この家は公開されていない。京都府国登録文化財所有者の会の紹介も、公開状況は非公開、用途は個人宅と明記している。公開日も内部見学もなく、申し込む窓口も設けられていない。漆の工房は現に働いている家である。
できるのは通りを歩くことだ。武者小路通とその周辺の路地には、茶の世界を支える家々が珍しいほど集まっており、隣接する物件のいくつかもそれぞれ登録有形文化財となっている。武者小路千家の土蔵や、千家十職の茶碗師である樂家の建物などである。この一帯へは地下鉄烏丸線今出川駅から西へ徒歩10分ほど、または市バス「堀川中立売」下車。撮影は公道からに限り、敷地の内へレンズを向けるのは控えていただきたい。いずれも住まいである。
内部を見たい場合、近くの3か所がこの家の代わりを務めてくれる。
- 樂美術館。油小路通一条下るにあり、樂家の窯に隣接する。歴代の作品を中心に年3回ほどの展覧会を開く。開館10時から16時30分、入館は16時まで。月曜休館(祝日は開館)、展示替期間も休館。予約は不要。千家十職の家が何をつくるのかという問いに、もっとも近い答えが置かれている場所である。
- 茶道資料館(裏千家センター内)。茶道具や文献を展示し、2階には茶室「又隠」の原寸の写しがある。読むのではなく、その寸法の内側に立てる。開館9時30分から16時30分、入館は16時まで。月曜と展示替期間は休館。立礼の呈茶席があり、予約が優先される。
- 西陣くらしの美術館 冨田屋。明治18年(1885年)の建築で、それ自体が登録有形文化財である。呉服問屋の大店だった町家を公開し、案内付きの見学に加えて着物やお茶席の体験も用意されている。予約が必要で、入館には靴下が要る。通り庭を歩き、坪庭に囲まれた空間に立ちたいのなら、ここが実際的な代替である。
3館いずれも展覧会の日程で開館日が動くため、出かける前に確認したい。
Q&A
- 中村宗哲家住宅は見学できますか。拝観料は必要ですか。
- 見学できません。現に使われている個人の住宅で非公開、公開日も内部見学の受付もありません。外観は公道から無料で見られます。同種の内部を見たい場合は、近くの樂美術館、茶道資料館、登録有形文化財の町家である冨田屋がいずれも公開されています。
- 中村宗哲家住宅の所在地と、周辺へのアクセスを教えてください。
- 京都市上京区武者小路通新町西入西無車小路町603です。地下鉄烏丸線今出川駅から西へ徒歩10分ほど、または市バス「堀川中立売」下車で一帯に着きます。
- 中村宗哲とはどのような家で、何をつくっているのですか。
- 宗哲は中村家の当主が代々襲名する名で、中村家は三千家に茶道具を納める千家十職のうち塗師を務めます。初代は中村八兵衛(1617年から1695年)。漆の茶道具、とくに抹茶を入れる棗を主に手がけ、当代は平成18年(2006年)に襲名した十三代です。十二代は千家十職の当主として初の女性とされています。
- 中村宗哲家住宅はなぜ文化財に登録されたのですか。
- 登録基準の第三号「再現することが容易でないもの」によります。京都の登録町家の多くが適用される景観の基準ではありません。理由は二つあり、嘉永7年(1854年)という建築年代が推定ではなく明らかであること、そして手がけた大工が数寄屋大工の木村清兵衛と判明していることです。木村は安政3年(1856年)に裏千家の増築も手がけています。
- 中村宗哲家住宅の建築的な見どころはどこですか。
- 京町家の形式で、玄関から奥へ通り庭が貫き、南と西を高塀で囲みます。木造2階建、瓦葺、建築面積158平方メートル。柱には角に樹皮の際を残して色付けを施した面皮柱と、表面に自然な皺のある絞り丸太が使われており、いずれも数寄屋大工の仕事を示す要素です。
基本データ
| 名称 | 中村宗哲家住宅(なかむらそうてつけじゅうたく) |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市上京区武者小路通新町西入西無車小路町603 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録基準は第三号「再現することが容易でないもの」 |
| 指定年 | 平成15年(2003年)1月31日登録、同年2月26日告示/登録番号26-0140 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積158平方メートル |
| 所有者 | 個人(国の記録に所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開(個人宅)。外観のみ公道から見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)中村宗哲家住宅
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003108
- 文化遺産オンライン 中村宗哲家住宅
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/138878
- 文化庁 登録有形文化財(建造物)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 樂美術館 ご利用案内
- https://www.raku-yaki.or.jp/museum/
- 裏千家 茶道資料館 利用案内
- https://www.urasenke.or.jp/textc/gallery/museum/facility3/
- 西陣くらしの美術館 冨田屋
- https://tondaya.co.jp/
最終更新日: 2026.07.30