千手観音を護る二十八体の群像
三十三間堂の堂内で、千一体の千手観音像が並ぶ最前列に近づくと、檜から彫り出された二十八体の像が一列に立っている。水晶を嵌めた眼が拝観者の動きを追うように光り、一体ずつ異なる表情と身ぶりを見せる。これが二十八部衆、千手観音に従う護法神の群像である。
尊名の多くは日本の外に源をもつ。大梵天王と帝釈天王はバラモン教のブラフマンとインドラに、阿修羅は古代ペルシャに、迦楼羅はヒンドゥー神話の金翅鳥ガルダにさかのぼる。龍王や音楽神、夜叉といったインド起源の神々が仏法のもとに集められ、千手観音を信仰する人々を護る役を担う。
重要文化財から国宝へ
二十八部衆立像は明治33年(1900年)4月7日に重要文化財に指定され、昭和30年(1955年)2月2日に国宝へ格上げされた。経典によって尊名や像形に異同があるなか、二十八体が一具として揃って残る作例は数少ない。当院の像はその貴重な一群にあたる。
制作年代については古くから議論がある。『一代要記』は建長元年(1249年)の火災の際に二十八部衆像が運び出されたと記すが、現存の像には玉眼が用いられ、写実を重んじた鎌倉彫刻の特徴がはっきりと表れている。このため多くの研究者は、平安期の創建像ではなく鎌倉復興期の作と見ており、中尊と千体仏の造像を主導した慶派の湛慶一門の手によると考えられている。
見どころ
いずれも檜材の寄木造りで、内刳りを施し、彩色を加え、玉眼を嵌める。玉眼は水晶の裏に瞳を描いて眼窩に入れる技法で、光を受けると生身の目のように潤んで見える。
とりわけ知られるのが婆籔仙である。痩せ衰えた老人の肉体を、肋や筋までも克明に刻みながら、顔つきには崇高さを残している。摩睺羅は大蛇を神格化した音楽神で、五つの眼をもつ異形の相をみせる。両端に立つ仁王、阿形の那羅延堅固と吽形の密迹金剛士は、隆々とした筋肉を張って向かい合う。
像高は人の背丈に近い。最も高い大梵天王が169.7センチ、最も低い神母女が153.6センチで、拝観者は像とほぼ目の高さで向き合うことになる。
拝観と周辺
二十八部衆が立つのは蓮華王院の本堂、柱間が三十三あることから三十三間堂と呼ばれる長大な堂である。南北約120メートルにおよぶ日本最長の木造建築で、本堂そのものも国宝に指定されている。蓮華王院は天台宗の妙法院を本坊とし、長寛2年(1164年)に後白河上皇ゆかりの御堂として平清盛が造営した。現在の本堂は文永3年(1266年)の再建である。
平成30年(2018年)7月、堂内の三十体、すなわち二十八部衆と別に国宝指定される風神・雷神像の配置が、鎌倉期の版画など古記録の研究にもとづいて見直され、創建当初に近い並びへと改められた。二十八部衆のうち四体は、中尊のまわりに移されている。
堂内は撮影禁止のため、像は現地でじっくり見ておきたい。道路をはさんだ向かいには京都国立博物館があり、東山の社寺めぐりの起点にもなる。拝観時間とアクセスは下記の基本データを参照されたい。
Q&A
- 二十八部衆とは何ですか。
- 千手観音に従う護法神の一群です。インドやペルシャなどに源をもつ二十八体の神々が仏教に取り込まれたもので、千手観音を信仰する人々を護る役を担います。
- 特に有名な像はどれですか。
- 痩せた仙人の姿をした婆籔仙がよく知られます。老いて衰えた体を写実的に刻みつつ、顔には崇高さを残しており、鎌倉期の写実彫刻の到達点として挙げられることが多い像です。
- いつ頃つくられたのですか。
- 鎌倉時代の作とされ、湛慶ら慶派の作と考えられています。建長元年(1249年)の火災から二十八部衆が運び出されたとの記録もありますが、玉眼や写実表現からは、その後の再興期の造像とみるのが通説です。
- 写真撮影はできますか。
- 像が並ぶ本堂内は撮影禁止です。堂内での拝観は肉眼に限られますが、境内や庭園は撮影できます。
- 三十三間堂への行き方を教えてください。
- 京都駅から市バス100・206・208系統で「博物館三十三間堂前」まで約10分、下車してすぐです。京阪電車「七条」駅からは徒歩約7分です。
基本データ
| 名称 | 木造二十八部衆立像(所在蓮華王院本堂) |
|---|---|
| ふりがな | もくぞうにじゅうはちぶしゅうりゅうぞう |
| 所在地 | 京都市東山区 三十三間堂(蓮華王院本堂) |
| 指定区分 | 国宝(彫刻) 重要文化財指定:明治33年(1900年)4月7日/国宝指定:昭和30年(1955年)2月2日 |
| 員数 | 28躯 |
| 時代 | 鎌倉時代 |
| 材質・技法 | 檜材、寄木造り、彩色、玉眼 |
| 像高 | 約153.6〜169.7センチ |
| 所有者 | 妙法院 |
| 拝観時間 | 4月1日〜11月15日 8:30〜17:00(受付終了16:30)/11月16日〜3月31日 9:00〜16:00(受付終了15:30) |
| 拝観料 | 一般600円 |
| アクセス | 市バス「博物館三十三間堂前」下車すぐ/京阪電車「七条」駅から徒歩約7分 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/252
- 蓮華王院 三十三間堂 公式サイト(二十八部衆像)
- https://www.sanjusangendo.jp/statue/nijuhachibushu/
- 蓮華王院 三十三間堂 公式サイト(拝観案内)
- https://www.sanjusangendo.jp/visit/
- 京都府観光連盟 三十三間堂
- https://www.kyoto-kankou.or.jp/info_search/132
最終更新日: 2026.06.07