羅城門の楼上に立っていた毘沙門天

平安京の南の玄関口、朱雀大路の突き当たりに羅城門という大きな門があった。その楼上に南を向いて立ち、都の外からやってくるものを見据えていた一体の毘沙門天像が、いまも京都の東寺に残されている。中国・唐でつくられ、海を渡って日本へもたらされたと考えられている兜跋毘沙門天立像である。

像高は189.4センチメートル。用材は当時の日本の仏師が普段扱う木ではなく、中国産の桜(魏氏桜桃)が使われている。この材質に加え、彫りの作風や、武人の異国的な顔立ちから、唐時代、おそらく8世紀の中国で制作され、遣唐使らによって請来されたものとみられている。

十世紀の末、大風で羅城門が倒壊した。瓦礫の中から掘り出された像は東寺へ移され、以後この寺に納まっている。倒壊の年はおおむね980年頃と伝わるが、史料によって978年とする説もある。

国宝に指定された理由

毘沙門天は北方を護る武神である。四天王の一尊として並ぶときには多聞天と呼ばれ、単独であらわれるときに毘沙門天の名で呼ばれる。兜跋という形式はその特殊な姿で、源流ははるか西にある。図像は6〜7世紀の中央アジアにさかのぼり、ホータンを経て唐に広まり、城門の上に据えられる守護神として流行した。「兜跋」の名は、兜跋国が攻められたとき毘沙門天が現れて敵を退けたという伝承にちなむ。語源には諸説あるが、近年は像が捧げ持つ宝塔(ストゥーパ)に結びつける見方が有力である。

日本における兜跋毘沙門天の最古例であり、唐から無傷で渡ってきた数少ない彫像でもある。その価値は早くに認められ、明治32年(1899年)に重要文化財に、昭和30年(1955年)6月22日に国宝に指定された。

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正面に立つと、その出自がすぐに知れる。鋭く引き締まった顔つき、大きくつり上がった眼。黒目には鉱物が嵌め込まれ、光を受けて鈍く輝く。頭上には高い宝冠がそびえる。胴には鎖を編んだ金鎖甲を膝まで届く長い外套のようにまとい、その上から中国風の革製の鎧を重ねている。

ふつう四天王や毘沙門天は足元の邪鬼を踏みつけて立つ。この像は違う。地中から現れた地天女が両手のひらを差し上げ、その上に毘沙門天が立つ。左右には尼藍婆・毘藍婆という二匹の鬼が控える。この構図こそが兜跋形式の証である。

見落とせない点が一つある。左手に捧げ持っていた高さ約24センチメートルの宝塔は、昭和43年(1968年)の公開時に盗難に遭い、行方が分からないままとなった。平成27年(2015年)の修理に合わせて複製がつくられ、翌2016年春の特別展で、像はおよそ半世紀ぶりに本来の姿で公開された。

東寺で出会う

指定名称の「毘沙門堂安置」は、この像を納めるために文政5年(1822年)に建てられた毘沙門堂に由来する。現在は東寺の宝物館に収められ、春と秋の特別公開の期間にだけ拝観できる。たとえば2026年の春期特別公開は3月20日から5月25日まで、午前9時から午後5時(受付は午後4時30分まで)、宝物館の拝観料は600円であった。展示は会期ごとにテーマを設けて入れ替わるため、目あての像が出ているかは事前に確かめておくとよい。

東寺そのものも訪ねる価値がある。延暦15年(796年)に平安京鎮護の官寺として羅城門の東に建立され、弘仁14年(823年)に空海へ下賜されて真言密教の根本道場となった。世界遺産に登録され、高さ55メートルと木造塔として日本一の五重塔は、新幹線の車窓からも見える京都の象徴である。京都駅からは徒歩約15分、近鉄京都線の東寺駅からは約10分の道のりにある。

Q&A

Qいまどこで見られますか。
A京都・東寺の宝物館に安置されています。宝物館は春と秋の特別公開の期間のみ開きます。展示はテーマごとに入れ替わるので、事前に会期と内容をご確認ください。
Qなぜ邪鬼ではなく地天女の上に立っているのですか。
A兜跋形式の毘沙門天だからです。一体の邪鬼を踏むのではなく、地天女が差し出す両手の上に立ち、左右に二鬼を従えます。これがこの形式の最大の特徴です。
Q本当に中国でつくられたのですか。
A中国産の桜材、彫りの作風、武人の異国的な顔立ちなどから、唐時代(8世紀頃)の中国での制作とみられています。遣唐使によって日本へもたらされたと考えられています。
Q手に持っていた塔はどうなったのですか。
A左手に捧げていた高さ約24センチメートルの宝塔は、1968年に盗まれて見つかっていません。2015年の修理で複製がつくられ、2016年春に本来の姿で公開されました。
Q東寺へのアクセスは。
A京都駅から徒歩約15分、近鉄京都線の東寺駅からは約10分です。

基本情報

名称木造兜跋毘沙門天立像(毘沙門堂安置)
ふりがなもくぞうとばつびしゃもんてんりゅうぞう(びしゃもんどうあんち)
所在地京都府京都市南区 東寺(教王護国寺)
指定区分国宝(彫刻)
指定年月日重要文化財 明治32年(1899)8月1日/国宝 昭和30年(1955)6月22日
員数1躯
時代中国・唐時代(8世紀)
用材中国産の桜(魏氏桜桃)
像高189.4センチメートル
所有者宗教法人教王護国寺
公開宝物館(春・秋の特別公開時のみ)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/257
東寺(教王護国寺)公式サイト
https://toji.or.jp/
東寺 2026年春期特別公開
https://toji.or.jp/smp/exhibition/2026_spring/
奈良国立博物館 収蔵品(東寺像の忠実な模像)
https://www.narahaku.go.jp/collection/754-0.html
京都市公式 京都観光Navi
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=4087

最終更新日: 2026.06.06