木造四天王立像(浄瑠璃寺)— 極楽浄土を守る平安時代の国宝彫刻

京都府の最南端、奈良との県境に近い木津川市加茂町の山あいに、平安時代の仏教世界をそのまま伝える寺院があります。浄瑠璃寺(じょうるりじ)です。この寺に伝わる国宝・木造四天王立像は、平安時代後期の彫刻芸術の粋を集めた傑作であり、往時の彩色や截金(きりかね)装飾が驚くほど鮮やかに残された、日本を代表する守護神像です。

四天王とは

四天王(してんのう)は、仏教の宇宙観において、世界の中心にそびえる須弥山(しゅみせん)の中腹に住み、東西南北の四方を守護する四柱の神です。東方を守る持国天(じこくてん)、南方を守る増長天(ぞうちょうてん)、西方を守る広目天(こうもくてん)、北方を守る多聞天(たもんてん)で構成されます。多聞天は単独で毘沙門天(びしゃもんてん)としても信仰され、七福神の一柱としても親しまれています。

浄瑠璃寺の四天王立像は、平安時代後期(11世紀後半〜12世紀前半)に制作されたもので、4躯で1件の国宝に指定されています。像高は167.0〜169.7センチメートル、ヒノキ材の寄木造で、表面には漆箔・彩色・截金による精緻な装飾が施されています。

なぜ国宝に指定されたのか

木造四天王立像は昭和28年(1953年)2月14日に国宝に指定されました。その価値は以下の点に集約されます。

第一に、平安時代当時の彩色と截金文様が極めて良好な状態で残されていることです。多くの仏像が長い年月の間に表面の装飾を失う中、浄瑠璃寺の四天王像は衣の文様や截金による繊細な幾何学模様が鮮明に残っており、平安貴族文化の美意識を直接伝える第一級の資料となっています。

第二に、藤原時代(平安時代後期)の神将像を代表する秀作であることです。鎌倉時代のより写実的で力強い表現とは異なり、威厳と優雅さを兼ね備えた気品ある造形が特徴で、貴族文化が花開いた時代の洗練された感性がうかがえます。

第三に、光背など付属品も当時のものが現存していることです。朱色の痕跡を残す光背が残されているのは、同時代の仏像としては極めて珍しく、当時の安置状態を知る上で貴重な手がかりとなっています。

また、学術的な観点からも興味深い点があります。多聞天は他の三体と比べてほぼ直立した姿勢をとり、木材の組み合わせ方も異なっていることから、当初は毘沙門天として単独で造られ、後に他の三体を加えて四天王としたと考えられています。寺伝によれば、1108年に毘沙門天の供養が行われた記録がありますが、他の三体については記載がなく、この説を裏付ける傍証となっています。

見どころ・鑑賞のポイント

現在、4躯のうち持国天と増長天の2体が浄瑠璃寺の本堂(国宝)に安置されています。広目天は東京国立博物館に、多聞天は京都国立博物館にそれぞれ寄託されており、各博物館の彫刻展示室でご覧いただけます。

本堂内では、九体の阿弥陀如来坐像(国宝)とともに安置された持国天・増長天の細部にぜひご注目ください。衣に施された繧繝彩色(うんげんさいしき)による華やかな花文様、そして截金による精緻な装飾文様は、約900年の歳月を経てなお息をのむ美しさです。四天王像の足元に踏みつけられた邪鬼の表情も一体一体異なり、特に多聞天の邪鬼には微笑みを浮かべたユニークな表情が見られると評判です。

像高は約170センチメートルと、本堂内の阿弥陀如来の脇仏よりも大きく、堂々とした存在感を放っています。憤怒の表情でありながら、どこか高貴で品のある雰囲気は、藤原時代の彫刻に共通する特質として知られています。

4躯すべてをご覧になりたい方は、浄瑠璃寺とあわせて東京国立博物館および京都国立博物館を訪れることをお勧めします。東京国立博物館では、広目天を間近でじっくりと鑑賞できる機会があります。

浄瑠璃寺 — 極楽浄土を体現する境内

四天王立像は、浄瑠璃寺が誇る複数の国宝のひとつです。寺の伽藍配置は仏教の浄土世界を地上に再現したもので、梵字の「阿」字をかたどったとされる中央の池を挟んで、東岸には三重塔(国宝)に薬師如来(東方浄瑠璃世界の教主)が、西岸には本堂(国宝)に九体の阿弥陀如来(西方極楽浄土の教主)が安置されています。

九体阿弥陀如来坐像は、『観無量寿経』に説かれる「九品往生」の思想に基づいて九体の阿弥陀仏を一堂に祀るもので、藤原道長が1020年に建立した法成寺無量寿院をはじめ、記録には30例以上が確認されていますが、平安時代の作品が現存するのは浄瑠璃寺のみです。

庭園は国の特別名勝・特別史跡の二重指定を受けており、平安時代からほぼ変わらぬ姿を今に伝える京都最古級の庭園のひとつです。春分・秋分の日には、太陽が東の三重塔の背後から昇り、西の本堂の背後に沈む光景が見られ、東方浄瑠璃世界から西方極楽浄土への旅路を象徴する最も神聖な日とされています。

その他の見どころ

四天王立像や九体阿弥陀如来のほかにも、浄瑠璃寺には貴重な文化財が数多く伝わります。鎌倉時代の厨子入木造吉祥天立像(重要文化財)は、その美しい佇まいで「絶世の美女」と称される秘仏で、1月1日〜15日、3月21日〜5月20日、10月1日〜11月30日の期間限定で公開されます。

三重塔(国宝)は1178年に京都から移築されたもので、塔内には薬師如来坐像(重要文化財)が安置されています。毎月8日、正月三が日、彼岸の中日(好天時のみ)に開扉されます。

周辺情報 — 当尾の里・石仏めぐり

浄瑠璃寺がある当尾(とうの)地区は、「美しい日本の歴史的風土100選」にも選ばれた風光明媚な里山です。奈良時代以降、南都(奈良)の僧侶たちが修行の場として移り住んだこの地には、鎌倉時代を中心に造られた磨崖仏(まがいぶつ)や石仏が数多く点在しています。

最も人気のあるハイキングコースは、岩船寺(がんせんじ)から浄瑠璃寺までの約3キロメートルの「石仏の道」で、所要時間は徒歩約40〜50分です。途中には1299年制作の銘を持つ「わらい仏」(岩船阿弥陀三尊磨崖仏)をはじめ、弥勒磨崖仏、藪の中三尊など、個性豊かな石仏たちが道案内をしてくれます。観光客で混み合う京都市街とは別世界の、静かで深い日本の原風景をお楽しみいただけます。

岩船寺は「あじさい寺」としても知られ、6月中旬〜7月上旬には約35品種5,000株の紫陽花が境内を彩ります。両寺とあわせてお参りされることをお勧めします。

Q&A

Q四天王像4体すべてを浄瑠璃寺で見ることはできますか?
A現在、本堂に安置されているのは持国天と増長天の2体のみです。広目天は東京国立博物館に、多聞天は京都国立博物館にそれぞれ寄託されており、各博物館で鑑賞することができます。
Q本堂内での写真撮影は可能ですか?
A本堂内の仏像の写真撮影は禁止されています。ぜひじっくりとご自身の目で仏像をご覧ください。境内の庭園や建築物の外観は撮影可能です。
Q公共交通機関でのアクセス方法を教えてください。
AJR大和路線「加茂駅」東口から、木津川市コミュニティバス当尾線(岩船寺・浄瑠璃寺方面行き)に乗車し、約22分で「浄瑠璃寺前」バス停下車、徒歩すぐです。バスは約1時間に1本の運行のため、事前に時刻表をご確認ください。春(4・5月)と秋(11月)の土日祝日には、JR奈良駅・近鉄奈良駅から季節運行の「木津川古寺巡礼バス」も利用できます。京都駅からは、JR奈良線で木津駅乗り換え、JR関西本線で加茂駅まで約46分です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A四季折々の美しさがありますが、特に人気が高いのは紅葉が池に映る秋(10月〜11月)と、馬酔木(あせび)が咲く早春です。10月1日〜11月30日は秘仏・吉祥天像の特別公開期間にもあたります。また、春分・秋分の日は太陽が三重塔から本堂へと移動する浄土の景観を体感できる特別な日です。
Q所要時間の目安はどのくらいですか?
A浄瑠璃寺の拝観のみであれば約1時間が目安です。岩船寺からの石仏めぐりハイキングを含めると、両寺の拝観も含めて約3時間をお見込みください。バスの最終便を考慮して、余裕をもった計画をお勧めします。

基本情報

名称 木造四天王立像(もくぞうしてんのうりゅうぞう)
指定区分 国宝(彫刻)/昭和28年(1953年)2月14日指定
時代 平安時代後期(11世紀後半〜12世紀前半)
材質・技法 ヒノキ材、寄木造、漆箔・彩色・截金
法量 像高 167.0〜169.7 cm(4躯)
所有 浄瑠璃寺
所在地 京都府木津川市加茂町西小札場40
安置場所 持国天・増長天:浄瑠璃寺本堂/広目天:東京国立博物館/多聞天:京都国立博物館
拝観時間 3月〜11月:9:00〜17:00(本堂受付は16:30まで)/12月〜2月:10:00〜16:00(本堂受付は15:30まで)
拝観料 境内(庭園)無料/本堂拝観 400〜500円
アクセス JR大和路線「加茂駅」東口より木津川市コミュニティバス当尾線で約22分「浄瑠璃寺前」下車すぐ
電話番号 0774-76-2390

参考文献

国宝-彫刻|四天王立像[浄瑠璃寺/京都] — WANDER 国宝
https://wanderkokuho.com/201-00241/
浄瑠璃寺 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%84%E7%91%A0%E7%92%83%E5%AF%BA
浄瑠璃寺の四天王像について — 京都国立博物館
https://www.kyohaku.go.jp/jp/learn/home/dictio/choukoku/77jyoruri/
浄瑠璃寺 — 西国四十九薬師霊場会
https://yakushi49.jp/37joruriji/
浄瑠璃寺 — そうだ京都、行こう。
https://souda-kyoto.jp/guide/spot/joruriji.html
浄瑠璃寺庭園 — おにわさん
https://oniwa.garden/joruri-ji-temple-garden-%E6%B5%84%E7%91%A0%E7%92%83%E5%AF%BA%E5%BA%AD%E5%9C%92/
木津川市観光協会 — 浄瑠璃寺
https://www.0774.or.jp/148/
当尾石仏めぐりコース — 木津川市観光協会
https://www.0774.or.jp/806/

最終更新日: 2026.03.21