消えた池の岸に残る門
山田家住宅長屋門は、京都府久世郡久御山町東一口にある江戸後期の長屋門で、平成22年(2010年)4月28日に国の登録有形文化財に登録された。桁行27メートル、梁間4.0メートル、建築面積107平方メートルの木造平屋建で、入母屋造の屋根に本瓦を葺く。
長屋門は、門口の左右に居室や物入を並べ、住まいの一部と出入口とを一つの棟にまとめた形式である。この建物も東寄りに門口を開き、その東西に部屋を配する。もともとは武家の門であり、在方でこの形式を構えられたのは、それに準じる格を認められた家に限られた。
山田家は本山田と呼ばれ、御牧郷13カ村を束ねる大庄屋を務めるとともに、淀川と巨椋池の漁業者の代表という立場にあった。周囲およそ16キロメートル、面積約800ヘクタールの巨椋池で漁を営む権利は、弾正町・三栖村(いずれも現在の京都市)、小倉村(現在の宇治市)、そして東一口村の四か郷に限られていた。東一口では干拓前、全戸数の9割以上が池と宇治川の漁で生計を立てていたという。昭和初期の干拓により池は農地へ変わり、水辺の集落は姿を消した。門だけが残っている。
登録の理由と、この門が担っているもの
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。国宝や重要文化財の指定に比べて規制が緩やかで、築およそ50年を経た建造物を使い続けながら守ることを前提とする。長屋門は第67回登録として受理され、登録番号は26-0346、告示は平成22年5月20日である。
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。構造技法の希少性ではなく、屋敷が集落の景観の中で果たしている役割が評価されたことになる。門と、東へ続く長塀、背後の主屋が一連となって、大庄屋の屋敷構えを保っている点が要点である。
年代は棟札などによるものではなく、様式判断による。文化庁のデータベースは江戸後期、西暦では1751年から1829年の幅を示し、大正7年(1918年)の改修を記録する。久御山町は主屋の建築を18世紀末から19世紀初め頃と推定しており、屋敷の骨格は一、二代のうちに整えられたとみられる。
正面に読み取れる細部
27メートルの全長が視野に入る位置まで下がると、この建物が外へ向けてほとんど何も開いていないことに気づく。壁の腰は簓子下見板張、その上は白漆喰で、開口部は格子の入った窓に限られる。武者窓と与力窓の二種が構えられ、いずれも太い木の格子を組む。一箇所、出格子が壁面の線を破る。
軒は出桁造で、腕木で桁を持ち出す。その腕木までも漆喰で塗り込めてあり、木部が表に出ない。防火のための処置であると同時に、仕口や継手を視界から消す効果を持つ。この門の表情の硬さは、そこから来ている。
視線を棟へ移すと、瓦に家紋が組み込まれている。組棟の上段に松葉菱、下段に丸に五つ引き。街道を歩く者に対して、誰の屋敷であるかを黙って示す装置であり、装飾らしい装飾はこの二つだけである。
屋敷地は切石積の石垣の上にある。淀川と巨椋池に挟まれた低湿地で、水害を避けるために東西約40メートル、南北約30メートルの地盤をあえて高くした。門前に立つと、視線はわずかに上を向く。
門の内部には展示室が整備され、巨椋池に関わる資料が並ぶ。長屋門と長塀は平成27年度から2か年をかけて保存修復され、一般公開は平成29年(2017年)4月に始まった。令和8年(2026年)4月には、久御山町が「登録有形文化財建造物 旧山田家住宅保存活用計画」を公表している。
公開は土曜日・日曜日・祝日の午前9時から正午まで、入館料は200円。京阪本線中書島駅または近鉄京都線大久保駅から京都京阪バスで「東いもあらい」下車、徒歩約10分である。館内の撮影可否は公表されていないため、当日係員に確認するのがよい。
Q&A
- 山田家住宅長屋門は見学できますか。公開日と入館料は?
- 見学できます。旧山田家住宅として土曜日・日曜日・祝日の午前9時から正午まで公開されており、入館料は200円です。長屋門の内部には巨椋池関係の資料を並べた展示室があります。運営は公益財団法人久御山町文化スポーツ事業団が担当しているため、遠方から訪ねる場合は事前に確認しておくと確実です。
- 山田家住宅長屋門へのアクセス方法を教えてください。
- 京阪本線中書島駅から京都京阪バス「近鉄大久保」行で約15分、または近鉄京都線大久保駅から「京阪中書島」行で約25分、いずれも「東いもあらい」バス停で下車し、徒歩約10分です。運賃は290円。車の場合は京滋バイパス久御山インターチェンジから約5分、名神高速道路京都南インターチェンジから約15分です。
- 山田家住宅長屋門が武家屋敷のような構えなのはなぜですか。
- 所有者であった山田家が、御牧郷13カ村を束ねる大庄屋であり、巨椋池漁業の取りまとめ役でもあったためです。この立場に伴う格式が、武者窓や与力窓、漆喰塗込めの軒、家紋を組み込んだ瓦といった意匠を許しました。村方の建物でありながら、武家の門の語彙を用いている点にこの長屋門の性格が表れています。
- 山田家住宅長屋門は重要文化財ですか。
- 重要文化財ではなく、登録有形文化財(建造物)です。登録番号は26-0346、登録年月日は平成22年4月28日、告示は同年5月20日です。登録は指定より規制が緩やかな保護制度で、地域の歴史的景観を形づくり、使われ続けている建造物を対象としています。
- 山田家住宅長屋門のほかに、旧山田家住宅で見るべきものはありますか。
- 同日に別件で登録された長塀が、門の東端から敷地北東辺に沿って折れ曲がりながら約20メートル続きます。背後の主屋は東西約20メートル、南北約13メートルで、式台を備えた玄関、網代や鯉の欄間、雲竜を描いた襖絵などが残ります。主屋の内部が常時公開されているとは限らないため、見学範囲は事前に確認してください。
基本データ
| 名称 | 山田家住宅長屋門(やまだけじゅうたくながやもん) |
|---|---|
| 所在地 | 京都府久世郡久御山町東一口35 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 26-0346 |
| 指定年 | 平成22年(2010年)4月28日登録、同年5月20日告示(第67回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積107平方メートル(桁行27メートル、梁間4.0メートル) |
| 所有者 | 久御山町 |
| 公開状況 | 土曜日・日曜日・祝日 午前9時から正午まで公開、入館料200円 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 山田家住宅長屋門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008145
- 久御山町 旧山田家住宅(国登録有形文化財)
- https://www.town.kumiyama.lg.jp/0000001264.html
- 久御山町 旧山田家住宅 一般公開
- https://www.town.kumiyama.lg.jp/0000002185.html
- 久御山町 登録有形文化財建造物 旧山田家住宅保存活用計画
- https://www.town.kumiyama.lg.jp/0000006542.html
- お茶の京都 旧山田家住宅
- https://ochanokyoto.jp/spot/detail.php?sid=489
最終更新日: 2026.08.06