三重県宝塚1号墳出土埴輪:古代日本の至宝を訪ねて
三重県松阪市に、約1,600年の時を超えて古代日本の精神世界を今に伝える貴重な文化遺産が眠っています。宝塚1号墳から出土した埴輪群は、令和6年(2024年)8月に国宝に指定され、日本最大の船形埴輪をはじめ、家形・囲形・円筒形など多種多様な埴輪278点が含まれています。これらの埴輪は、古墳時代の王の葬送儀礼の姿を具体的に伝える第一級の考古資料であり、松阪市文化財センター「はにわ館」で大切に保存・公開されています。
埴輪とは
埴輪は、日本の古墳時代(おおよそ3世紀から6世紀)に制作された素焼きの土製品で、古墳(王や有力者の墓)の上や周囲に並べられました。初期の埴輪は単純な円筒形でしたが、時代が進むにつれて人物、動物、家、武器、船、祭祀用具など驚くほど多彩な形が生み出されるようになりました。埴輪には、被葬者を守り、古墳の聖域を示す儀礼的・精神的な役割があったと考えられています。宝塚1号墳出土の埴輪群は、この古代芸術の最も優れた事例の一つです。
宝塚1号墳:伊勢地域最大の前方後円墳
宝塚1号墳は、全長111メートルを測る前方後円墳で、伊勢地域では最大規模を誇ります。古墳時代中期の5世紀初頭(約1,600年前)に築造されたと推定され、ヤマト王権の権威のもとでこの地域を治めた有力な首長の墓と考えられています。昭和初期の調査を経て、昭和7年(1932年)に隣接する宝塚2号墳とともに国の史跡に指定されました。
この古墳の大きな特徴が、墳丘北側に設けられた「造り出し」と呼ばれる島状の施設です。幅約18メートル、奥行き約16メートルの舞台状の空間で、土橋で古墳本体とつながっています。ここが葬送儀礼の「マツリの場」であり、平成11年度(1999年)から平成14年度(2002年)にかけて松阪市教育委員会が実施した発掘調査において、まさにこの場所から数多くの埴輪が当時の配列をとどめた良好な状態で出土しました。
船形埴輪:日本最大にして唯一無二の造形
コレクションの中心をなすのが、圧巻の船形埴輪です。全長140センチメートル、円筒台を含めた高さ94センチメートル、最大幅36センチメートルを誇り、これまでに日本で発見された船形埴輪の中で最大のものです。全体の約9割が遺存しており、この時代の遺物としては極めてまれな保存状態です。
この埴輪を唯一無二たらしめているのが、その豪華な立体装飾です。船首と船尾は垂直に大きくせり上がり、勇壮な船姿を見せています。それぞれに鰭状の飾り(ひれかざり)が付けられ、船体中央には王の権威を象徴する蓋(きぬがさ)、2本の威杖(いじょう)、そして大刀が立てられていました。装飾を施した船の姿は、それまで日本書紀の記述や円筒埴輪に描かれた線画でしか知られていませんでしたが、立体的な造形として確認されたのはこの船形埴輪が初めての事例です。
船の形態は、丸木舟に舷側板や竪板を組み合わせた「準構造船」を写実的に表現しています。学術的には、この船が被葬者の生前の業績を示すものとする説と、王の魂をあの世へ運ぶ「葬送船」であるとする説が唱えられています。船首を古墳に向けた状態で出土したことから、まるで航海を終えて古墳に辿り着いたかのような姿が想像されます。
囲形・家形埴輪:水の祭祀を語る貴重な遺例
船形埴輪とともに注目すべきが、3点の囲形埴輪と4点の家形埴輪です。これらはそれぞれが組になって、造り出しの東西両裾に配置されていました。
家形埴輪のうち1点の床面には槽・樋状の表現があり、谷から引いた水を清める「導水施設」を模したものと考えられています。残る2点の内部には井戸状の構造が見られ、こちらは水を汲み取る「湧水施設」とみられます。これらの埴輪は、板塀などの遮蔽施設に囲まれた祭祀場を表現したものと解釈されており、古墳時代に各地で行われていた水に関わる祭祀の具体的な姿を伝える、他に例のない大変貴重な資料です。
国宝に指定された理由
宝塚1号墳出土の埴輪群は、平成18年(2006年)にまず重要文化財に指定されました。その後、令和6年(2024年)8月に、特に学術的価値の高い船形埴輪1点、囲形埴輪3点、家形埴輪4点の計8点が国宝に格上げされ、残る埴輪残欠262点と土器・土製品8点が附(つけたり)として加えられました。
国宝指定の理由として、まず造形性・写実性・装飾性に優れていることが挙げられます。特に船形埴輪は、実際の船の構造を忠実に表現しながらも力強い造形美を兼ね備えています。さらに、埴輪群全体として古墳時代の首長の葬送儀礼や水に関わる祭祀を具体的に表現している点が、他に類例のない極めて高い学術的価値を有すると評価されました。多くの埴輪が1,600年前の配列をとどめた状態で出土したことも、当時の儀礼の在り方を研究する上で計り知れない価値を持っています。
はにわ館(松阪市文化財センター)での鑑賞
国宝の埴輪群は、松阪市文化財センター内の「はにわ館」で展示・公開されています。施設の一部は大正12年(1923年)に建設された旧カネボウ綿糸松阪工場の赤レンガ倉庫を活用しており、この建物自体も国の登録有形文化財に指定されています。歴史的な建築の中で古代の文化財を鑑賞できる、趣のある空間です。
展示室に入ると、まず目に飛び込んでくるのが堂々たる船形埴輪です。効果的な照明演出と音声ガイダンスにより、埴輪についてあまり詳しくない方でも分かりやすく楽しめるよう工夫されています。船形埴輪以外にも、家形、囲形、円筒形、盾形、短甲形など、さまざまな種類の埴輪が展示されており、古墳時代の世界を幅広く体感することができます。入館料は一般わずか110円、18歳以下は無料という大変お手頃な料金で、国宝を間近に鑑賞できる貴重な機会です。
宝塚古墳公園を訪ねる
はにわ館の見学と併せて、ぜひ訪れていただきたいのが宝塚古墳公園です。平成17年(2005年)に開園したこの公園は、松阪駅からタクシーで約20分の場所にあり、実際の古墳を美しく整備した環境の中で見学することができます。墳丘上にはレプリカの埴輪が当時の配列を再現して並べられており、1,600年前の古墳の姿を想像しながら散策を楽しむことができます。全長111メートルの前方後円墳のスケールを肌で感じながら、古代の王の権勢に思いを馳せてみてください。公園からは松阪市街地のパノラマや松坂城跡を望むこともできます。
松阪市の周辺観光スポット
松阪市は歴史と文化に富んだまちで、はにわ館と合わせて訪れたい魅力的なスポットが数多くあります。
- 松坂城跡(松阪公園):天正16年(1588年)に蒲生氏郷が築いた平山城の跡で、穴太衆による豪壮な野面積みの石垣が見事です。日本100名城にも選定されており、春の桜、初夏の藤、秋の紅葉と四季折々の風景が楽しめます。松阪駅から徒歩約15分。
- 御城番屋敷:松坂城の警護に当たった武士とその家族が暮らした組屋敷で、現存する江戸時代の武家屋敷としては最大規模です。現在もご子孫が暮らしており、石畳と生垣が織りなす凛とした佇まいは松阪を代表するフォトスポットです。
- 本居宣長記念館:江戸時代の偉大な国学者・本居宣長の自筆稿本や遺品約16,000点を収蔵する記念館です。隣接する旧宅「鈴屋(すずのや)」では、宣長が12歳から亡くなるまで暮らした当時の住まいの姿を見ることができます。
- 松阪牛:松阪を訪れたなら外せないのが、日本三大和牛の一つに数えられる松阪牛です。きめ細かな霜降りととろけるような食感は「肉の芸術品」とも称されます。市内には老舗のすき焼き店から気軽な焼肉店まで多彩な店が揃っています。
- 鈴の森公園:文化財センターに隣接する市民の憩いの場で、噴水や遊具、広い芝生広場が整備されています。お子さま連れのご家族にもおすすめです。
Q&A
- 宝塚1号墳出土埴輪はいつ国宝に指定されましたか?
- 令和6年(2024年)8月27日に国宝に指定されました。平成18年(2006年)に重要文化財に指定された後、船形埴輪1点、囲形埴輪3点、家形埴輪4点の計8点が国宝に格上げされ、埴輪残欠や土器・土製品270点が附として加えられ、合計278点が国宝となっています。
- はにわ館へのアクセス方法を教えてください。
- JR・近鉄松阪駅から、鈴の音バス市街地循環線(左回り)に乗車し「クラギ文化ホール」下車すぐです。松阪駅から徒歩の場合は約22分、タクシーでは約7分です。お車の場合は伊勢自動車道松阪インターから約14分です。
- はにわ館と宝塚古墳公園は同じ日に見学できますか?
- はい、どちらも松阪市内にあり、同日に見学可能です。はにわ館は市街地寄り、宝塚古墳公園は松阪市街地から南約3キロメートルの場所にあります。古墳公園へは鈴の音バス(市街地循環線右回り)で「宝塚古墳公園前」下車徒歩5分、またはタクシーで約20分です。
- 船形埴輪の大きさと特徴は?
- 全長140センチメートル、高さ94センチメートル(円筒台含む)、最大幅36センチメートルで、日本で発見された船形埴輪の中で最大です。船首・船尾が垂直にせり上がった勇壮な姿が特徴で、船体中央には蓋(きぬがさ)、威杖、大刀などの立体的な飾りが立てられています。船上に立ち飾りを持つ船形埴輪としては日本で唯一の事例です。
- 伊勢神宮参拝と組み合わせて訪問できますか?
- はい、松阪は伊勢志摩地域へのアクセスが大変便利です。近鉄特急で伊勢市駅(伊勢神宮最寄り)まで約10分、鳥羽駅まで約25分です。また、名古屋から約65分、大阪難波から約95分と主要都市からも好アクセスですので、伊勢神宮参拝の前後に立ち寄る旅程がおすすめです。
基本情報
| 正式名称 | 三重県宝塚1号墳出土埴輪 |
|---|---|
| 指定 | 国宝(令和6年8月27日指定)/国指定史跡「宝塚古墳」(昭和7年指定) |
| 時代 | 古墳時代中期・5世紀初頭(約1,600年前) |
| 点数 | 278点(国宝8点+附270点:埴輪残欠262点、土器・土製品8点) |
| 主要遺物 | 船形埴輪:全長140cm・高さ94cm・最大幅36cm(日本最大) |
| 所有 | 松阪市 |
| 展示施設 | 松阪市文化財センター「はにわ館」 |
| 所在地 | 〒515-0821 三重県松阪市外五曲町1番地 |
| 電話 | 0598-26-7330 |
| 開館時間 | 9:00〜17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始(12月29日〜1月3日) |
| 入館料 | 一般110円/18歳以下無料(特別展開催時は別料金) |
| アクセス | JR・近鉄松阪駅から徒歩約22分、タクシー約7分/鈴の音バス市街地循環線(左回り)「クラギ文化ホール」下車すぐ/伊勢自動車道松阪ICから車約14分 |
参考文献
- 三重県宝塚1号墳出土埴輪 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/158928
- 三重県宝塚一号墳出土埴輪が国宝に指定されました! — 松阪市公式ホームページ
- https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/bunkazai-center/takarazuka-itigouhun-hunegatahaniwa.html
- 伊勢の王墓 宝塚古墳 — 松阪市公式ホームページ
- https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/bunkazai-center/takarazuka-kohun.html
- 宝塚古墳 (松阪市) — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/宝塚古墳_(松阪市)
- 国宝決定で大注目!宝塚1号墳の埴輪を一般公開中の松阪市文化財センターや宝塚古墳をご紹介! — 観光三重
- https://www.kankomie.or.jp/report/1841
- 文化財センター「はにわ館」 — 松阪市観光協会
- https://www.matsusaka-kanko.com/information/information/haniwaka/
- 新指定答申文化財概要(三重県)— 三重県
- https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001124204.pdf
- [特集]松阪市初!国宝決定!! 三重県宝塚一号墳出土埴輪 — マイ広報紙
- https://mykoho.jp/article/三重県松阪市/広報まつさか-令和6年6月号/特集松阪市初国宝決定-三重県宝塚一号墳出土埴/
最終更新日: 2026.03.13