川地写真館:初瀬街道に佇む大正モダンの写真スタジオ

三重県名張市の歴史ある新町地区、旧初瀬街道沿いの角地にひときわ目を引く洋風建築が立っています。川地写真館は、大正10年(1921年)に建てられた木造2階建て(一部3階建て)の写真館建築で、パラペットの小塔形飾りや三角の妻壁など、当時としては非常にモダンな洋風デザインが特徴です。大正時代に建てられた商業建築の貴重な遺構として、平成20年(2008年)7月に国の登録有形文化財に登録されました。明治10年(1877年)に創業した三重県最古級の写真館の歴史を今に伝える、名張の街並みを彩るランドマークです。

歴史的背景

川地写真館の歴史は、明治10年(1877年)、初代・川地長七が名張市新町で写真館を創業したことに始まります。これは三重県下で現存する最古の写真館のひとつであり、全国的にも数少ない長い歴史を持つ写真館です。以来、2代目義郎、3代目覚、4代目博公と代を重ね、現在は5代目の川地清広氏が事業を継承しています。清広氏は平成29年(2017年)に厚生労働大臣表彰「卓越技能章(現代の名工)」を受章した肖像写真一級技能士であり、現在は6代目となる長女の美貴氏も撮影技術を磨いています。

現在の建物は大正10年(1921年)に建築されました。大正デモクラシーの時代、地方都市にも近代化の波が押し寄せる中、洋風建築の要素をふんだんに取り入れた、当時としては非常にモダンな商業建築として誕生しました。写真という西洋由来の技術を扱う店舗にふさわしい、ハイカラな外観が特徴です。その後、昭和35年頃および昭和45年頃に改修が行われましたが、大正期の基本的な構造と意匠は大切に守られてきました。

昭和58年(1983年)、川地写真館の営業拠点は名張市桔梗が丘に移転しましたが、新町の旧建物は現在も大切に保存されており、大正時代の商業建築の姿を今日に伝えています。

文化財指定の理由

川地写真館は、平成20年(2008年)7月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その指定理由は主に以下の点にあります。

第一に、大正時代の地方都市における洋風商業建築の貴重な遺例であることです。3階部分に立ち上がる三角の妻壁、パラペット隅部の小塔形飾り、モルタル塗りの外壁など、西洋建築の意匠を積極的に取り入れた外観は、大正期の折衷的な「モダン」建築の特徴をよく示しています。

第二に、初期の写真館建築としての機能的特徴を備えていることです。当初の写場(撮影室)は2階西側に設けられ、自然光を最大限に取り込むために屋根の一部をガラス張りとしていました。電気照明が普及する以前、写真撮影には十分な自然光が不可欠であり、このガラス屋根は写真館建築ならではの工夫として高く評価されています。

第三に、地方の商業建築としての歴史的価値です。大都市だけでなく地方都市にも近代化の波が及んだ大正時代の社会変化を物語る建造物として、建築史上重要な位置を占めています。

建築の魅力と見どころ

川地写真館は南西の角地に位置し、東側の通りを正面としています。木造2階建て(一部3階建て)、瓦葺および鉄板葺の屋根を持ち、建築面積は約102平方メートルです。

最大の見どころは、北東側に聳える3階部分です。三角形の妻壁が力強く立ち上がり、パラペットの隅部には小塔形の装飾が施されています。これらの洋風意匠は、大正期の折衷主義建築の華やかさを感じさせます。

外壁はモルタル塗りで仕上げられ、重厚感のある外観を形成しています。1階・2階の外壁に見られるタイル貼りは昭和期の改修によるものですが、建物全体のプロポーションや基本的な造形は大正期の創建当初の姿を保っています。

建築史的に特に注目されるのが、2階西側の写場に設けられたガラス屋根です。電気照明が一般的でなかった時代、写真撮影には自然光が命でした。屋根の一部をガラス張りにして柔らかな光を写場に取り込むという工夫は、写真館建築ならではの機能美であり、初期の写真文化を支えた技術的な知恵を今に伝えています。

見学・アクセス情報

川地写真館は名張市新町の旧初瀬街道沿いに位置し、周辺の歴史的な町並み散策の中で外観を見学することができます。ただし、建物は個人所有のため、内部の一般公開は行われていない場合があります。見学の最新情報については、名張市観光協会(TEL: 0595-63-9087)にお問い合わせください。

最寄り駅は近鉄大阪線・名張駅で、駅から西方向へ徒歩約10〜15分です。大阪難波から近鉄特急で約60分、京都から約75分、名古屋から約90分でアクセスできます。車の場合は、名阪国道の小倉ICまたは五月橋ICから約20分です。駐車場は名張駅西口付近の市営栄町駐車場やコインパーキングをご利用ください。

周辺の観光スポット

川地写真館の周辺には、旧初瀬街道の宿場町の風情を残す魅力的なスポットが点在しています。

すぐ近くにある旧細川邸(やなせ宿)は、同じく国の登録有形文化財に登録された江戸時代末期の町家建築で、現在は観光交流拠点として市民による日替わりレストランや各種教室が開かれています。名張藤堂家邸は、寛永13年(1636年)から11代にわたって名張を治めた藤堂宮内家の武家屋敷跡で、甲冑や文書などの貴重な文化財が展示されています。また、日本の推理小説の父・江戸川乱歩は明治27年(1894年)に名張で誕生しており、旧市街には生誕地碑が建立されています。

自然を楽しむなら、名張市を代表する景勝地・赤目四十八滝がおすすめです。渓谷に連なる美しい滝々は四季折々の表情を見せ、伊賀流忍者の修行の地としても知られています。忍者の森では本格的な忍者修行体験も楽しめます。また、青蓮寺川沿いに約8キロメートルにわたって柱状節理の岩壁が続く香落渓は、特に秋の紅葉の時期に絶景が広がります。

Q&A

Q川地写真館の内部は見学できますか?
A建物は個人所有のため、通常は内部の一般公開は行われていません。外観は旧初瀬街道の散策の中で自由にご覧いただけます。最新の見学情報については、名張市観光協会(TEL: 0595-63-9087)にお問い合わせください。
Q川地写真館はまだ営業していますか?
Aはい、川地家の写真館事業は明治10年(1877年)の創業以来、現在も続いています。ただし、昭和58年(1983年)に営業拠点を名張市桔梗が丘に移転しており、新町の登録有形文化財の建物は旧店舗です。現在の写真館「写真の川地」は桔梗が丘2番町で営業しています。
Q川地写真館へのアクセス方法を教えてください。
A最寄り駅は近鉄大阪線の名張駅です。大阪難波から特急で約60分、名古屋から約90分。駅から西へ徒歩約10〜15分で新町地区に到着します。車の場合は名阪国道の小倉ICまたは五月橋ICから約20分です。
Qこの建物の建築的な特徴は何ですか?
A大正10年(1921年)築の木造建築で、3階部分の三角妻壁やパラペットの小塔形飾りなど洋風の意匠が特徴です。また、2階の写場(撮影室)には自然光を取り込むためのガラス屋根が設けられており、電気照明が普及する以前の写真館ならではの工夫が見られます。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A徒歩圏内に旧細川邸(やなせ宿)、名張藤堂家邸、江戸川乱歩生誕地碑などの歴史スポットがあります。少し足を延ばせば、赤目四十八滝や香落渓などの自然景勝地も楽しめます。旧初瀬街道の町並み散策と合わせて、名張の歴史と文化を満喫できるエリアです。

基本情報

名称 川地写真館(かわちしゃしんかん)
文化財種別 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成20年(2008年)7月8日
建築年 大正10年(1921年)/昭和35年頃・昭和45年頃改修
構造 木造2階一部3階建、瓦葺及び鉄板葺、建築面積102㎡
棟数 1棟
所在地 三重県名張市新町218-1
アクセス 近鉄大阪線・名張駅より西へ徒歩約10〜15分
関連施設 写真の川地(現営業店舗):名張市桔梗が丘2番町(昭和58年移転)

参考文献

川地写真館 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/142978
国指定文化財等データベース - 川地写真館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013733
有限会社 写真の川地 - 名張の長寿企業(名張商工会議所)
https://nabarichouju.com/service_etc/photo/22_kawachi/
(有)写真の川地 公式サイト
https://www.kawachi-photo.co.jp/
初瀬街道 | 東奈良名張ツーリズム
https://enntourism.com/kaido-walk/hase-kaido.html

最終更新日: 2026.04.13