日本語で詠まれた信仰の歌
三帖和讃は、浄土真宗を開いた親鸞が晩年に著した和讃をまとめた三冊の書物である。和讃とは、仏や祖師の徳をたたえる歌を、漢文ではなく日本語の七五調で記したもので、法会の場で節をつけて唱えられた。学問としての仏教が漢文を基本とした時代に、あえて平易な言葉を選んだところに、教えを多くの人へ届けようとした親鸞の姿勢が読み取れる。
三冊の内訳は、阿弥陀仏と浄土をたたえる『浄土和讃』百十八首、インド・中国・日本の七人の高僧をたたえる『浄土高僧和讃』百十九首、末法の世における救いを主題とする『正像末法和讃』百十六首からなる。『浄土和讃』と『浄土高僧和讃』はおおむね宝治二年(一二四八年)ごろ、『正像末法和讃』は正嘉元年(一二五七年)ごろの成立とされる。親鸞は八十歳を過ぎてからも、これらに筆を入れ続けた。
専修寺に残る本資料は、昭和二十八年(一九五三年)十一月十四日に国宝へ指定された。なお高田派では、これに『皇太子聖徳奉讃』七十五首を加えて「四帖和讃」と呼ぶこともある。
国宝としての価値
和讃の写本は数多く残り、室町時代には本願寺の蓮如が「正信念仏偈」とともに開版し、門徒の朝夕の勤行に用いられるようになった。そうした後世の版本や写本と比べたとき、専修寺本の価値を際立たせているのは、親鸞自身の手に近いという点である。完全な自筆本は今も見つかっておらず、専修寺本は一部に親鸞の真跡が認められる現存最古級の資料として位置づけられている。
研究のうえでは、『正像末法和讃』の冊が親鸞の自筆を含むと考えられ、『浄土和讃』『浄土高僧和讃』については高弟が清書したものに親鸞が加筆・訂正を施したとみられている。この加筆の跡こそが、専修寺本を貴重なものにしている。八十歳を過ぎた著者が語句を選び直し、配列に手を加えた様子がうかがえ、和讃が現在の形に至るまでの過程をたどる手がかりとなるためである。
専修寺には、親鸞自筆の国宝がもう一件ある。師である法然の言葉を親鸞が書き写した『西方指南抄』である。これらの聖教や数多くの消息類とあわせ、専修寺は親鸞の真跡資料を最もまとまった形で残す寺院の一つとなっている。
和讃と寺をたずねる
三帖和讃そのものは、損傷を避けるため常時は公開されていない。令和五年(二〇二三年)に開館した新宝物館「燈炬殿」での特別展や、三重県総合博物館などへの出陳の折に姿を見せる。実物を目当てに訪れるなら、事前に展示の予定を確かめておきたい。
和讃が収蔵庫にある時期でも、これを守り継いできた寺そのものに足を運ぶ価値がある。専修寺は真宗高田派の本山であり、古い町割りを残す一身田寺内町の中心に位置する。御影堂と如来堂の二棟は、平成二十九年(二〇一七年)に三重県で初めて国宝建造物に指定された。親鸞の木像を安置する御影堂は約七百八十畳の広さをもち、木造の国宝建築としては全国で五番目の規模になる。いずれの堂も無料で拝観できる。
和讃は本来、声に出して唱えるために編まれた。少しでも詞を口にしてみると、七五調の素朴な調子が、七百年以上にわたって門徒が唱えてきたものと変わらないことに気づく。
周辺の見どころ
境内は東京ドームのおよそ二倍にあたる広さをもち、年間約三十万人が参拝に訪れる。御影堂の裏手には県指定名勝の庭園「雲幽園」が広がり、夏には三十五種・百鉢を超える蓮の花が咲く。蓮は浄土を象徴する花として古くから親しまれ、この寺の景観によくなじむ。
一年で最もにぎわうのは、一月九日から十六日にかけて営まれる親鸞の報恩講「お七夜」の時期である。両堂を結ぶ高廊下「通天橋」が灯りに照らされ、寺内町には露店が立ち並ぶ。
専修寺へはJR一身田駅から徒歩約五分、近鉄高田本山駅からは徒歩約二十分。車の場合は伊勢自動車道の津インターチェンジまたは芸濃インターチェンジから約十五分で、JR駅の近くに無料の駐車場がある。
Q&A
- 三帖和讃の実物は拝観できますか。
- 常時は公開されていません。保存のため通常は収蔵されており、宝物館「燈炬殿」での特別展や、博物館への出陳の際に公開されます。訪問前に展示予定を確認することをおすすめします。
- なぜ和讃は日本語で書かれているのですか。
- 当時の仏教は漢文を基本としていましたが、親鸞は人々が口ずさみ、理解できるよう、あえて日本語の七五調で詠みました。この平易さが、浄土真宗の教えが広まった一因と考えられています。
- 本当に親鸞の自筆なのですか。
- 全体が自筆というわけではありません。完全な自筆本は現存しませんが、専修寺本は『正像末法和讃』を中心に親鸞の真跡を含み、弟子の写本に加えられた親鸞の訂正も残るとされています。
- 拝観に料金はかかりますか。
- 国宝の御影堂・如来堂は無料で拝観できます。宝物館の特別展は有料の場合があり、事前予約が必要なこともあります。
- 訪問に適した時期はいつですか。
- 雰囲気を味わうなら一月のお七夜、蓮を楽しむなら夏が見頃です。両堂は一年を通して落ち着いて拝観できます。
基本情報
| 名称 | 三帖和讃〈親鸞筆〉(さんじょうわさん) |
|---|---|
| 指定区分 | 国宝(書跡・典籍) |
| 指定年月日 | 昭和二十八年(一九五三年)十一月十四日 |
| 時代 | 鎌倉時代(おおむね一二四八〜一二五七年成立) |
| 員数 | 三冊 |
| 作者 | 親鸞(一一七三〜一二六三年) |
| 所有・所在地 | 専修寺(三重県津市一身田町二八一九) |
| 公開状況 | 常設展示なし。特別展で公開。御影堂・如来堂は無料拝観(六時〜十五時三十分)。 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/696
- 真宗高田派本山 専修寺「国宝のご紹介 三帖和讃」
- https://www.senjuji.or.jp/national-treasure/sanjou/
- 専修寺ガイド「三帖和讃」
- https://senjuji-guide.jp/contents/content04/
- 津市「国宝、誕生。専修寺 御影堂・如来堂」
- https://www.info.city.tsu.mie.jp/www/senjuji/
- 観光三重「高田本山専修寺が国宝になりました」
- https://www.kankomie.or.jp/report/253
最終更新日: 2026.06.09