大正の校舎が震災を越えて残った
南三陸町民俗資料館(みなみさんりくちょうみんぞくしりょうかん)は、宮城県本吉郡南三陸町歌津字伊里前に建つ大正12年(1923年)建築の木造校舎で、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
この建物はもともと伊里前小学校の北部校舎として建てられた。のちに現在地へ移築され、昭和26年(1951年)からは志津川高等学校定時制歌津分校の校舎として使われている。昭和32年(1957年)には南側に二階建棟が増築された。定時制分校は昭和43年(1968年)に廃校となり、昭和57年(1982年)以降は町の民俗資料館として活用されている。
平成23年(2011年)3月11日の津波は、この海岸線の建築をほとんど押し流した。伊里前湾に入った波は同名の川筋を遡り、湾奥の集落を直撃している。そのなかでこの建物は残った。登録の理由書にはその事実が明記されており、南三陸町の文化財紹介は、近代学校建築としての価値とあわせて、東日本大震災の被害を乗り越えた点を登録の根拠に挙げている。
大正期の学校建築とはどのようなものか
平屋部分の平面は、戦前の日本の校舎を見たことのある人には見慣れた形をしている。片側に廊下を通し、その反対側に教室を並べる構成である。南北方向に三つの教室と二つの小部屋が並び、廊下は西側に延びている。
この配置は地域の工夫によるものではない。大正期には国が学校建築のモデルプランを示しており、教室の大きさ、廊下の幅、廊下を教室のどちら側に置くかまでが定められていた。町の解説はこの建物がその基準に沿ってつくられたと記す。つまりここに残っているのは、国の教育政策が三陸の漁村で実際にどう形をとったかという物理的な記録である。
意外性があるのはむしろ昭和32年増築の二階建棟のほうだろう。一階には調理室と作法室が置かれた。作法室は所作や茶の湯、正しい座り方などを学ぶための部屋で、当時の女子教育に広く設けられたものの、現存する例は多くない。
二階は大広間で、床・棚・書院を備える。住宅の座敷飾りをそのまま学校建築のなかへ持ち込んだ形である。天井は船底天井とし、中央の平らな面が左右の壁に向かって緩く下がることで、浅い丸みのある空間をつくっている。一階部分はのちに大きく改造されたが、二階の造作については建築当初のものとみられると町は記録している。
木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積411平方メートル。文化庁は「造形の規範となっているもの」の基準により登録しており、県内でも数少ない近代学校建築の特色をよく残す点が評価されている。
伊里前を訪ねる
資料館は歌津中学校に隣接して建つ。内部の見学に決まった開館日は設けられておらず、希望する場合は南三陸町教育委員会事務局生涯学習係(0226-46-1341)へ事前に連絡して調整する。外観については予約なしで見ることができる。
伊里前へのアクセスは難しくない。JR気仙沼線に代わって運行するBRTが歌津に停まり、国道45号が地区を貫いている。仙台から自動車で向かう場合は2時間ほどを見ておくとよい。
この建物は、はるかに大きな文脈のなかに置かれている。南三陸町は十年以上をかけて高台へ移りながら町を建て直してきた。志津川の新しい中心部、川沿いの商業地と旧防災対策庁舎を含む震災復興祈念公園までは、南へおよそ20分。歌津の背後にそびえる田束山には中世の山岳寺院跡が残り、初夏のツツジで知られる。
外観の撮影に制限はない。内部については見学を申し込む際にあわせて確認するとよい。
Q&A
- 南三陸町民俗資料館の内部はどうすれば見学できますか。
- 定まった開館時間はありません。南三陸町教育委員会事務局生涯学習係(0226-46-1341)へ事前に連絡し、見学の日程を調整してください。外観であれば予約なしにいつでも見ることができます。
- 南三陸町民俗資料館は東日本大震災の津波に耐えたのですか。
- 被害を受けながらも建物は残りました。南三陸町の文化財紹介は、近代学校建築としての価値とあわせて、震災を乗り越えた建物である点を平成29年の登録理由に挙げています。
- 南三陸町民俗資料館はもともと何の建物だったのですか。
- 大正12年(1923年)に伊里前小学校の北部校舎として建てられ、のちに現在地へ移築されて、昭和26年から志津川高等学校定時制歌津分校の校舎となりました。分校は昭和43年に廃校となり、昭和57年から町の民俗資料館として使われています。
- 南三陸町民俗資料館の建築上の見どころはどこですか。
- 平屋部分は大正期に国が示した学校建築のモデルプランに沿い、片側に廊下、反対側に教室を並べています。昭和32年増築の二階建棟は、一階に調理室と作法室、二階に床・棚・書院を備えた大広間を置き、天井を船底天井とします。
- 南三陸町民俗資料館へはどう行けばよいですか。
- 歌津中学校に隣接する伊里前地区にあります。JR気仙沼線に代わって運行するBRTの歌津駅が最寄りで、国道45号も地区を通っています。仙台から自動車で向かう場合はおよそ2時間です。
基本情報
| 名称 | 南三陸町民俗資料館(みなみさんりくちょうみんぞくしりょうかん) |
|---|---|
| 所在地 | 宮城県本吉郡南三陸町歌津字伊里前123 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) 登録番号 04-144 |
| 指定年 | 平成29年(2017年)10月27日 登録・告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積411平方メートル |
| 所有者 | 南三陸町 |
| 公開状況 | 外観は自由に見学可。内部は南三陸町教育委員会事務局生涯学習係(0226-46-1341)への事前連絡が必要 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「南三陸町民俗資料館」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011849
- 南三陸町 VIRTUAL MUSEUM「南三陸町民俗資料館(国登録・歌津伊里前)」
- https://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/museum/future/article.php?p=682
最終更新日: 2026.08.06