海辺の社に立つアコウの巨樹
宮崎市内海、日南海岸沿いに鎮座する野島神社の鳥居をくぐると、すぐに頭上を覆う緑の天井に気づく。境内には複数のアコウが育っているが、なかでも東側の一本は東西におよそ四十メートル、南西方向に二十メートルへと枝を広げ、目通り幹周は六・九メートル。枝々からは多くの気根が垂れ下がり、いくつかはすでに地面に達して二次幹のように太くなっている。樹高は約十五メートル。推定樹齢は三百年ほどとされている。
アコウはクワ科イチジク属の半常緑広葉樹で、学名を Ficus superba var. japonica という。和歌山県南部、四国南岸、九州、南西諸島など暖地の海岸に自生し、海外では台湾、中国南部、東南アジアにも分布する。沿岸の樹であり、宮崎は自生域のほぼ中央にあたる。野島神社のアコウが特別なのは、産地そのものではなく、その姿と大きさである。
境内は自由に歩ける。本殿の脇には小さな石碑があり、寛文二年(一六六二)の外所地震を悼んで天明四年(一七八四)に建てられたとされる供養塔も、巨樹の根元近くにひっそりと立っている。
アコウという樹
アコウの仲間はクワ科イチジク属に属し、近縁にはイチジク、ガジュマル、インドゴムノキなどがある。観察すれば、温帯の樹木とは異なる特徴がいくつも見えてくる。果実は約八ミリの球形で、葉の付け根ではなく幹や枝から直接生じる。これを幹生花(または幹生果)と呼び、熱帯樹に多くみられる性質である。樹皮は灰白色でなめらか。葉は革質で楕円形、長さ十センチ前後、互生する。常緑樹に分類されるが、年に数回まとめて葉を落とし、その後一斉に新芽を吹き出す。同じ個体の枝ごとに落葉時期が異なることもある。
気根の多さは、観察者がもっとも目を奪われる点だろう。熱帯林ではアコウや近縁のガジュマルが他の樹木の幹に着生し、伸ばした気根で宿主を覆って枯らしてしまうことがある。これを「絞め殺しの木」と呼ぶ。野島神社のアコウは地面から発芽したと思われ、宿主を絞め殺した形跡はないが、枝から垂れる気根を見ると、その性質の片鱗を確かに見てとれる。
指定の経緯と価値
野島神社のアコウは、昭和十六年(一九四一)十月三日、国の天然記念物に指定された。指定基準は「名木、巨樹、老樹、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢」のうちの一項目にあたる。当時の指定説明には、根元周囲一〇・五メートル、目通幹囲五・九メートル、樹高約十五メートル、枝の展開は百メートルに及ぶ、と記されており、戦前の格調ある文体で巨木の威容が描かれている。その後の宮崎市による調査では、東側の幹周は六・九メートル、枝張りは約四十メートルと記録されており、八十年余りの間も着実に成長を続けてきたことが読みとれる。
指定対象となっているのは境内の二本で、いずれも推定樹齢は約三百年とされる。指定の理由はおおむね三点に集約される。樹形が整っていること、枝張りが大きいこと、そしてアコウという亜熱帯性の樹種が、日本列島におけるその分布の北寄りの一角で、これほどの規模に育っている例が少ないことである。長崎県奈良尾や鹿児島県指宿には幹周のさらに大きいアコウもあるが、古社の境内に堂々と立ち、樹形の美しさを兼ね備えた個体はそう多くない。
枝の下に鎮まる社
野島神社は文安三年(一四四六)十二月三日、田口久次の手によって創建された。当初の名は白髭大明神。明治五年(一八七二)に現名へ改称した。主祭神は塩筒大神。日本神話で山幸彦に海神宮への道を示した塩の神であり、ほかに猿田彦神、上筒大神、中筒大神、底筒大神を併せ祀る。古くは旧飫肥藩から社領が寄進されていた記録が残る。
境内には独自の浦島伝承が伝わる。天歴三年(九四九)八月、浦人・橘尊俊が浜辺で長い白髪の老人と出会った。老人は「私は丹州の者だが、長く蓬萊山に住み、たまたまこの浦に来てこの絶景を眺め去り難くなった。ここに祀ってほしい」と告げて姿を消したという。尊俊が村人と相談して社を建てたのが当社の起こりであると言われている。この浦の景観に心を奪われた異界の人の話は、童話で親しまれた浦島太郎の物語と重ね合わせて受け止められてきた。
もう一つの見どころは、五百年の歴史を持つとされる野島神楽である。伊勢神楽の系統を引き、寛文二年(一六六二)の外所地震以前は近隣の加江田神社と共演していたが、地震以降は野島に残された。本来三十三番のうち、現在も二十二番ほどが継承されている。毎年十一月二十三日の秋祭り(新嘗祭)で奉納され、平成二十五年(二〇一三)十一月に宮崎市の無形文化財に指定された。境内には古い神楽面七面も伝えられている。
近年は、サーファーやサイクリストが板や自転車のお祓いに立ち寄る神社としても知られている。飫肥杉で作られた「海のお守り」や「自転車のお守り」が頒布されており、鳥居の脇にはサイクルスタンドも備わっている。
道のりと、周辺の見どころ
野島神社は国道二二〇号、通称「日南フェニックスロード」に面しており、宮崎市中心部から南へ約二十五キロメートル。JR日南線・小内海駅から徒歩三〜五分、宮崎駅からは列車で約四十分、運賃は四百八十円ほど。車であれば宮崎自動車道・宮崎ICから三十分ほどである。
周辺は日南海岸国定公園に含まれ、宮崎市から串間市・都井岬へと続く海岸道路は「日本の道百選」に選ばれている。北へ数キロ進めば、亜熱帯性植物群落が国の特別天然記念物に指定される青島と、その周囲を取り囲む波状岩「鬼の洗濯板」がある。アコウの境内から青島までは車で十五分ほど。途中には堀切峠の展望と道の駅フェニックスが点在する。南へ向かえば洞窟内に社殿を構える鵜戸神宮、モアイ像で知られるサンメッセ日南が控える。半日のドライブでひと巡りできる距離感である。
境内そのものは広くない。三十分もあれば全体を見て回ることができる。十一月二十三日の秋祭りに合わせて訪れれば、巨樹の下で奉納される神楽を見ることもできる。
Q&A
- 参拝に時間や料金の制限はありますか。
- 境内は終日開放されており、参拝料も不要です。アコウの巨樹は参道のすぐ脇にあり、樹下を歩いて間近で観察できます。ただし国指定の天然記念物のため、樹に触れたり登ったりすることはできません。
- 訪れるのに良い時期はいつでしょうか。
- アコウは年間を通じて葉を保つため、どの季節でも豊かな樹冠が楽しめます。落葉後にいっせいに新葉が芽吹く晩春から初夏は、赤みを帯びた若葉が見られます。十一月二十三日の秋祭りに合わせて訪れれば、巨樹の下で奉納される五百年の歴史を持つ野島神楽を観賞することもできます。
- 公共交通機関でのアクセスは便利ですか。
- JR日南線・小内海駅から徒歩三〜五分と非常に近く、宮崎駅から列車で約四十分(運賃約四百八十円)で到着できます。日南線は海岸沿いを走るため車窓からの眺めも楽しめ、青島や鵜戸神宮、油津方面と組み合わせる旅行プランに適しています。
- アコウとは、どのような樹木なのでしょうか。
- アコウは食用イチジクやガジュマル、インドゴムノキと同じクワ科イチジク属の半常緑高木です。和歌山県以南の暖地の海岸に自生し、幹や枝から多数の気根を垂らす独特の樹姿を見せます。果実が幹に直接実る性質など、九州の温暖な気候の中で亜熱帯性の樹がもつ特徴をはっきりと備えています。
- 青島神社と一日で巡れますか。
- 十分可能です。青島神社は車で北へ約十五分、日南線でも一駅で行ける距離にあり、堀切峠や道の駅フェニックスとあわせて、半日から一日のコースを組むことができます。野島神社で巨樹を眺め、青島で鬼の洗濯板を歩き、堀切峠で海岸の眺望を楽しむという三点を組み合わせる旅程が定番です。
基本情報
| 名称 | 内海のアコウ(うちうみのアコウ) |
|---|---|
| 所在地 | 宮崎県宮崎市大字内海字磯平6227番地(野島神社境内) |
| 指定区分 | 国指定天然記念物 |
| 指定年月日 | 昭和16年(1941年)10月3日 |
| 指定基準 | (一)名木、巨樹、老樹、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢 |
| 樹種 | アコウ(クワ科イチジク属、学名 Ficus superba var. japonica) |
| 指定本数 | 境内に2本 |
| 東側の樹の主な寸法 | 樹高約15メートル、目通り幹周6.9メートル、枝張り東西約40メートル・南西約20メートル |
| 推定樹齢 | 約300年 |
| アクセス | JR日南線・小内海駅より徒歩3〜5分、宮崎自動車道・宮崎ICから国道220号経由で約30分 |
| 参拝 | 境内終日開放、参拝料無料 |
| 関連文化財 | 野島神楽(宮崎市指定無形文化財、平成25年11月指定)/毎年11月23日に境内で奉納 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)― 内海のアコウ
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/2931
- 宮崎市 ― 国指定天然記念物
- https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/culture/art/207.html
- みやざきの文化財情報(宮崎県)― 内海のアコウ
- https://www.miyazaki-archive.jp/d-museum/mch/details/view/1890
- 宮巡(宮崎県神道青年会)― 野島神社
- https://www.m-shinsei.jp/m_shrine/野島神社(のしまじんじゃ)/
- 宮崎市観光協会 ― 野島神社
- https://www.miyazaki-city.tourism.or.jp/spot/10029
最終更新日: 2026.05.19