旧軽井沢の林間に建つ木造二階建

旧彌永家別荘(きゅうやながけべっそう)は、長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢にある昭和5年(1930年)頃の木造二階建別荘で、平成27年(2015年)8月4日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

敷地の縁ではなく中央に据えられている。四方に木立を残し、そのなかに包まれることを前提にした置き方で、旧軽井沢の別荘地に共通する敷地の使い方でもある。

建築面積109平方メートル。軽井沢の大規模な別荘と比べれば小ぶりな部類に入る。屋根は瓦ではなく鉄板葺で、標高約940メートルの地では雪が滑り落ちやすい鉄板のほうが理にかなう。外壁は下見板張、板を横に重ねて張り上げる仕上げである。

玄関は東正面、切妻屋根を独立して構える。南面に回ると印象が変わる。広いサンルームが下屋として前方に張り出し、そこにガラスが連なる。夏を過ごすための建物にあって、この一室が実際の中心的な役割を担った。

昭和5年の軽井沢は、避暑地としてすでに四十年ほどの歴史を積んでいた。宣教師アレクサンダー・クロフト・ショーが明治20年代に別荘を営んで以降、大正から昭和初期にかけて学者、外交官、実業家、聖職者が東京から夏を移してくる土地になっていた。旧彌永家別荘は、その開拓期ではなく成熟期に属する建物である。

登録の理由と、意匠が示すもの

国宝や重要文化財が「指定」であるのに対し、登録有形文化財は「登録」であって、制度の性格が異なる。平成8年(1996年)に始まった登録制度は、外観の変更や移築の際に届出を求める緩やかな保護措置で、所有者はそのまま住み続けられる。軽井沢に残る別荘建築の多くは、この登録の枠組みで守られている。

旧彌永家別荘の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は20-0486、第81回の登録である。

設計者を記した資料は確認できない。著名建築家の署名作ではなく、良質な普請がそのまま残った例として評価されたと読むのが自然だろう。

意匠の要点は二つある。

ひとつは妻壁。日本の木造軸組では、棟や母屋を受ける短い垂直材である束は、通常は壁面の裏に隠れる。この建物では束を板張の面に見せ、意匠として扱っている。戦前の軽井沢別荘を歩けば繰り返し目にする手法で、それぞれ独立した施主が建てた家々に一種の共通言語を与えている。

もうひとつは暖炉である。ダイニングに玉石積の暖炉が据えられる。河原や火山斜面で拾われた丸い石を、加工せずそのまま積み上げるため、表面は不揃いなまま残る。軽井沢周辺では北に大きく構える浅間山の噴出物、いわゆる浅間石が用いられることが多い。そしてこの暖炉を備えたダイニングを中心に各室が配される。玄関でも座敷でもなく、火のある部屋が平面の核になっている。

この点は見過ごせない。同時期に東京で通年住宅として建てられた和風住宅なら、床の間や客間を軸に平面が組まれる。炉を中心に据えるのは西洋の住まい方であり、高原の冷える夜を過ごす建物だからこそ採られた構成である。

見学の可否と、周辺の歩き方

旧彌永家別荘は個人所有の建物で、一般公開されていない。拝観口も入場料も公開期間の設定もなく、文化庁のデータベースにも所有者名の記載がない。内部に入れない以上、内部撮影の可否という問題も生じない。

登録有形文化財としてはこれが標準的な状態である。軽井沢町内の登録建造物のうち、教会や記念館、宿泊施設として開かれているものは一部にとどまり、残りは建てられた目的のまま使われ続けている。道路から眺めるのは差し支えないが、敷地に立ち入ってはならない。

現実的な向き合い方は、この一棟を目的地にせず、旧軽井沢一帯を歩くなかで視野に入れることだろう。旧軽井沢は軽井沢駅の北側に広がり、駅から旧軽井沢銀座までは徒歩でおよそ20分、季節には町内を巡るバスも走る。商店街を抜けると道幅が狭まり、舗装が砂利に変わる区間もあって、カラマツとシラカバが頭上を覆う。この道沿いに登録有形文化財の別荘が点在し、聖パウロカトリック教会やショー記念礼拝堂も近い。

軽井沢町教育委員会生涯学習課は、町内の国登録有形文化財の一覧と解説パンフレットを公開している。建築目当てで歩くなら、まずそこを確認しておきたい。登録件数は新規登録のたびに増えるうえ、公開されている建物とそうでない建物の区別も示されているためである。

季節は初夏か晩秋がいい。8月は人も車も増え、樹木が繁って建物の輪郭が隠れる。11月に葉が落ちれば、下見板の重なりや妻壁の束が道路から読み取れるようになる。

Q&A

Q旧彌永家別荘はどこにありますか。
A長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢字東卯ツ木原288-5、軽井沢駅の北側に広がる旧軽井沢の別荘地内にあります。
Q旧彌永家別荘の内部は見学できますか。
A見学できません。個人所有の別荘で一般公開されておらず、公開期間や拝観料の設定もありません。道路から外観を眺めるにとどめ、敷地内には立ち入らないでください。
Q旧彌永家別荘はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A昭和5年(1930年)頃の建築で、平成27年(2015年)8月4日に登録有形文化財となりました。登録番号は20-0486です。
Q旧彌永家別荘の建築的な特徴は何ですか。
A南面に下屋として張り出す広いサンルーム、下見板張の妻壁に束を意匠として見せる処理、そして玉石積の暖炉を備えたダイニングを中心に各室を配する平面構成が挙げられます。
Q旧彌永家別荘の規模はどのくらいですか。
A員数は1棟、木造2階建、鉄板葺で、建築面積は109平方メートルです。
Q旧彌永家別荘の周辺には他に何がありますか。
A旧軽井沢一帯には他にも国登録有形文化財の別荘が点在し、聖パウロカトリック教会やショー記念礼拝堂も歩ける範囲にあります。軽井沢町が登録建造物の一覧とパンフレットを公開しています。

基本情報

名称旧彌永家別荘(きゅうやながけべっそう)
所在地長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢字東卯ツ木原288-5
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 20-0486
指定年平成27年(2015年)8月4日 登録(第81回)
員数1棟
寸法木造2階建、鉄板葺、建築面積109平方メートル
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。道路からの外観の眺望のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 旧彌永家別荘
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010595
文化遺産オンライン — 旧彌永家別荘
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/291179
軽井沢町 — 国の登録有形文化財(建造物)について
https://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1636508165756/index.html
軽井沢町 — 町の文化財
https://www.town.karuizawa.lg.jp/page/1351.html

最終更新日: 2026.08.20