主藤家住宅 ― 対馬・豆酘に残る江戸末期の民家

九州と朝鮮半島のあいだに浮かぶ対馬。その南端、厳原町豆酘(つつ)の集落に、19世紀なかばに建てられた瓦葺きの民家がある。主藤家住宅(すどうけじゅうたく)で、昭和44年(1969年)に国の重要文化財に指定された。

建物は1棟。桁行13.9メートル、梁間8.1メートルという、本土の大型農家と比べれば控えめな規模である。屋根は切妻造で、平瓦と丸瓦を組み合わせた本瓦葺き。正面を南に向け、東と西の側面には庇がつく。農家の屋根に本瓦が載ること自体が、この家のただならぬ家格を示している。

米のとれない島の、上層の農家

主藤家そのものの由緒ははっきりしない。代わりに建物が家格を語る。対馬は島の九割以上を山が占め、古くから稲作には向かない土地だった。そのため島は海の向こうの朝鮮との交易に多くを頼ってきた。茅葺きや板葺きではなく寺院級の瓦で屋根を葺いた民家は、地域の農家のなかでも上層に位置した家のものと考えられている。

建立は19世紀の中頃、江戸時代の末期とみるのが定説である。建築年を記した棟札や墨書は残っておらず、年代は建物の構造や材料から導かれた推定にとどまる。

なぜ重要文化財なのか

内部は記録に「三間取」とある三室の間取りで、その一方に一間の入側がめぐる。入側は外壁の内側を縁側のように通る通路状の空間である。この構成は対馬の農家に一般的だった型である。例外的な造りではなく、この地方で当たり前だった住まいの形をよくとどめている点が、評価につながった。

際立つのは構架、すなわち柱や梁の組み方である。文化庁はこの構架に独特の形式があると記す。九州本土や西日本の大工仕事とは異なる、島ならではの解法である。一般的な間取りと特異な構架。この二つがそろうことで、当地方を代表する農家の遺例として昭和44年3月に指定された。

見どころ

まず屋根を見上げたい。本瓦が切妻の形に重く葺かれ、東西の側面へと庇が下りていく。低く落ち着いた構えである。石屋根や茅葺きの家が多かった島にあって、この瓦は、屋根を葺くだけの力を持った家であったことをうかがわせる。

外まわりをゆっくり一周すると、約14メートル四方に満たない建物の均整がよくわかる。入側に沿って並ぶ柱の間隔をたどると、一間幅の入側を付した間取りが読み取りやすい。常駐の係員がいる資料館ではなく、あくまで指定された一棟の建物なので、訪れる人の多くは外観と集落のなかでの姿を眺めることになる。

豆酘とその周辺

島の南端まで車を走らせる価値は、豆酘という土地そのものにもある。集落には多久頭魂(たくずたま)神社が鎮座し、その境内には赤米を育てる神田がある。豆酘の赤米行事は、頭仲間と呼ばれる組織によって千年以上受け継がれてきた国指定の民俗文化財である。一帯は「日本の里100選」にも選ばれている。

さらに進めば、陸は豆酘崎で尽きる。岩礁の先に灯台が立ち、遊歩道や砲台跡が点在する岬だ。豆酘へ行くには、まず船か空路で対馬の厳原に入り、そこから島の山並みを縫う道を南へたどることになる。

Q&A

Q建物の中に入って見学できますか。
A決まった開館時間のある資料館ではなく指定された文化財建造物であり、内部は通常一般公開されていません。外観は集落のなかから見ることができます。近くで見たい場合は、事前に対馬市の文化財課へ問い合わせるのが確実です。
Qいつ建てられたものですか。
A19世紀の中頃、江戸末期の建立とされます。年代を記した墨書などは残らないため、建築の手法から導かれた推定です。
Q他地域の民家と何が違うのですか。
A本土では珍しい、三室の間取りに入側をめぐらせた対馬独特の平面と、国の記録が「独特」と記す構架の形式です。農家には珍しい本瓦葺きの屋根も、この家の格を示しています。
Qどうやって行けばよいですか。
Aまず船または空路で対馬・厳原方面へ渡り、そこから南へ、島の南端近くの豆酘集落を目指します。この地域へはレンタカーなど車での移動が現実的です。
Q近くに見どころはありますか。
A多久頭魂神社と赤米の神田、時期が合えば豆酘の赤米行事、そして灯台と海沿いの遊歩道がある豆酘崎などがあります。

基本データ

名称主藤家住宅(すどうけじゅうたく)
所在地長崎県対馬市厳原町豆酘2752番地
指定区分重要文化財(建造物)
指定年月日昭和44年(1969年)3月12日
時代江戸末期(19世紀中頃、1830〜1867年頃)
員数1棟
構造桁行13.9メートル、梁間8.1メートル、切妻造、南面、東面・西面庇付、本瓦葺
間取り三間取に一間の入側を付した形式
公開状況指定建造物。内部は通常非公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース(主藤家住宅)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3545
対馬市 有形文化財
https://www.city.tsushima.nagasaki.jp/gyousei/soshiki/kyouiku/bunkazaika/bunkazai/shinainobunkazai/367.html
文化庁 日本遺産ポータルサイト(豆酘の赤米行事)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1393/

最終更新日: 2026.06.04