慶長十二年という基準年代
栗山家住宅は、奈良県五條市五条一丁目にある慶長12年(1607年)建立の町家で、昭和43年(1968年)4月25日に国の重要文化財に指定された。建立年代は推定ではなく、慶長12年銘の棟札が建物とともに伝存し、この棟札1枚が附(つけたり)として指定に含まれている。
文化庁の国指定文化財等データベースが記録する規模は、桁行16.9メートル、梁間13.1メートル。屋根は入母屋造の本瓦葺で、正面に庇を付し、一部を二階とする。員数は1棟、指定番号は01692。
民家建築史において、この建物の位置は特殊である。年代の判明する現存最古の民家という評価は、様式編年による推定ではなく文字資料に立脚しているため、他の遺構を編年するさいの定点として機能してきた。慶長年間の町家が実際にどのような架構と平面を備えていたか、それを様式論を介さずに参照できる遺構は限られる。
架構と平面の読み方
棟札の存在が知られたのは昭和33年(1958年)で、建築史家の浅野清らによる調査によるものである。それ以前、この建物は五條の町並みのなかの大型町家として扱われていたに過ぎない。
文化庁の解説は簡潔で、建立の由緒は明らかでないこと、慶長12年の棟札を有し民家として年代の明らかな最古のものであること、外観・内部構造ともに豪壮であり格式ある町屋の遺例として注目されることを記す。
平面は整型六間取。二列三室の床上部分に対し、土間は全面積のおよそ四割を占める。現状は正面と背面に庇を付し、上手奥の座敷に床・棚・書院を構え、間仕切りを開放的に改める後補を受けている。復原すれば上手三室は一間ごとに柱を立てた閉鎖的な構成となり、土間沿いの三室には突止溝の差鴨居が用いられる。
注目すべきは軸部と小屋組の関係である。桁行方向に牛梁二本を引き通し、その上で二間陸梁をつないで和小屋を組む。左右対称の整った架構形式であり、土間上部では柱を省略して差物で固めた梁組が架かる。この構成は、以後二世紀にわたる近世町家の基本形をすでに備えている。慶長期の遺構としては早熟と言ってよい。
年代の並びも押さえておきたい。新町が松倉重政による二見城の城下町として成立するのは慶長13年(1608年)であり、本住宅の建立はその前年にあたる。所在する五條側は御霊神社前の小広場を中心に中世末までに町場が形成されていた区域で、街道が五筋交差する要衝であった。
見学の実際と周辺
内部は非公開である。所有は金久商事株式会社で、住宅として管理されており、公開施設としての運営はない。拝観時間も拝観料も設定がなく、見学は前面道路からの外観に限られる。裏を返せば、時刻を選ばず無料で見られるということでもある。
建物は新町通りの東の入口、国道168号の新町口交差点に近い位置に建つ。道路を隔てた対面から、反りをもつ本瓦葺の大屋根、漆喰壁の処理、二階部分の割付までを一度に見通せる。撮影は路上からであれば制限されないが、居住者のある建物であるから、敷地内に立ち入る、開口部に向けてレンズを構えるといった行為は避けたい。
JR和歌山線五条駅から南西へ徒歩十数分。
周辺は五條市五條新町伝統的建造物群保存地区で、平成22年(2010年)12月24日に全国88番目の重要伝統的建造物群保存地区として選定された。面積約7.0ヘクタール、新町通りに沿って東西約750メートル。地区内330棟のうち143棟が伝統的建造物に特定されている。西へ歩くにつれ二階壁面の「建ち」が高くなり、江戸期のつし二階から明治以降の総二階へ、大壁造による柱の塗り込めへと移行する様子を、同一の街路上で追うことができる。
散策の拠点としては、明治から大正期の民家を平成16年(2004年)に改修したまちなみ伝承館、江戸期の町家を修復し井戸・かまど・箱階段を残すまちや館があり、いずれも無料である。
名称については混同に注意したい。宝永元年(1704年)建立の中邸は奈良県指定文化財、元禄9年(1696年)の棟札をもつ栗山邸は五條市指定文化財であり、いずれも本項の重要文化財とは別の建物である。観光情報の一部には両栗山家を同一の建物として扱う記述が見られる。
Q&A
- 栗山家住宅の内部は見学できますか。
- 内部は非公開です。個人所有の住宅として使用されており、公開施設としての受付はありません。見学は前面道路からの外観に限られます。
- 栗山家住宅が「日本最古の民家」と呼ばれるのはなぜですか。
- 慶長12年(1607年)銘の棟札により建立年代が文献的に確定できるためです。より古い可能性のある民家遺構は他にもありますが、それらの年代は様式編年による推定です。したがって「年代の判明する現存最古」という限定付きの評価になります。
- 栗山家住宅の拝観料と見学時間を教えてください。
- 拝観料の設定はなく無料です。公道から見るため時間の制限もありません。朝夕の斜光線が入る時間帯は、本瓦葺の反りが読み取りやすくなります。
- 栗山家住宅への最寄り駅とアクセスは。
- JR和歌山線五条駅が最寄りで、南西へ徒歩十数分です。国道168号の新町口交差点付近、新町通りの東の入口にあたります。
- 栗山家住宅の写真撮影は可能ですか。
- 公道からの外観撮影に制限はありません。ただし居住者のある建物ですので、敷地内への立ち入りや開口部への接写、ドローンの使用は控えてください。
基本情報
| 名称 | 栗山家住宅(くりやまけじゅうたく/奈良県五條市五条) |
|---|---|
| 所在地 | 奈良県五條市五条一丁目2番8号 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 指定番号01692 |
| 指定年 | 昭和43年(1968年)4月25日 |
| 員数 | 1棟 附:棟札1枚 |
| 寸法 | 桁行16.9メートル、梁間13.1メートル、正面庇付、一部二階、入母屋造、本瓦葺 |
| 所有者 | 金久商事株式会社 |
| 公開状況 | 内部非公開。外観のみ公道から見学可、無料 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「栗山家住宅(奈良県五條市五条)」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2660
- 五條市「文化財指定される古民家」
- https://www.city.gojo.lg.jp/soshiki/bunka/1/3/2109.html
- 五條市「五條新町伝統的建造物群保存地区の概要」
- https://www.city.gojo.lg.jp/soshiki/bunka/1_1/1/3116.html
- 五條市「五條新町伝統的建造物群保存地区の町並み保存」
- https://www.city.gojo.lg.jp/soshiki/bunka/1_1/2/3122.html
- 五條市観光協会「新町通り」
- https://www.gojo.ne.jp/g-kanko/seeing/08shinmachi.html
最終更新日: 2026.08.24