塔の最下層に開く四つの場面

法隆寺五重塔の初層に立つと、太い心柱を囲んで東西南北の四方に、粘土で築かれた洞窟のような空間が開いている。その奥には、釈迦の生涯や教えにまつわる四つの場面が、数多くの小さな塑像によって表されている。和銅4年(711年)の作で、「塑造塔本四面具」の名で国宝に指定された群像である。

初層内部の四面は塑土で岩山のように造形され、仏教の世界観の中心にそびえる須弥山に見立てられている。その中に、小さな像が群れをなして配され、四つの説話の情景を形づくる。中央を貫く心柱の足元、心礎には仏舎利が納められたと伝わり、最下層の全体が、聖なる中心を包む舎利の空間として構想されている。

像は彫るのではなく、塑(つく)る。木の芯に藁縄を巻き、その上に粘土を盛り上げて形づくる塑造の技法は、木彫や金銅像では得がたい柔らかな身のこなしと表情を可能にした。今も彩色や漆箔の痕跡が残る。等身よりはるかに小さな像でありながら、群像としての数と、一体一体の所作によって強い印象を放つ。

現存する唯一の塔本塑像

「塔本四面具」という呼び名は古い。天平19年(747年)に記された『法隆寺伽藍縁起并流記資財帳』にこの名が見え、「和銅四年」に造られた旨の注記が添えられている。古い時代の作でありながら制作年がほぼ特定できるのは、この一文によるところが大きい。

奈良時代には、塔の初層に塑像の群像を据える例が他の寺にもあった。興福寺の五重塔には浄土の場面が、薬師寺の東西両塔には釈迦の生涯の諸場面が塑像で表されていたと記録に残る。しかしそれらは失われ、薬師寺では断片や心木の一部を残すのみとなった。造られた場所に今も据えられている塔本塑像は日本で唯一の例であり、初期の塔が内部からどのように体験されることを意図していたかを知る、貴重な手がかりとなる。

明治期以降は文化財として保護され、明治35年(1902年)に重要文化財に相当する指定を受けた。戦後の文化財保護法のもとでは、昭和31年(1956年)に国宝に指定されている。指定の対象となる像はおよそ80体にのぼる。

四面を読み解く

初層をゆっくりと一周すると、面ごとに異なる情景が現れる。

東面は問答の場面である。『維摩経』に基づき、病床の維摩居士のもとを文殊菩薩が訪ね、空や不二をめぐる対話が始まる。その教えを聞こうと弟子たちが集まる様子が表されている。西面は釈迦の入滅後へと転じ、火葬された遺骨すなわち仏舎利を分ける分舎利の場面で、金棺と小さな舎利塔が侍者たちの間に置かれる。南面は時を未来へ移し、次に世へ現れる弥勒仏の世界を示す。

人々が幾度も足を止めるのは北面である。釈迦の涅槃、すなわちその死の瞬間を表し、周囲の弟子たちには包み隠さぬ悲嘆が与えられた。手を顔にあてる者、天を仰いで口を開き嘆く者があり、古くから「法隆寺の泣き仏」と呼ばれてきた。横たわる釈迦の静けさと対をなすこの悲しみの表現は、群像全体の情感の中心であり、日本彫刻における人間の感情の表現として最も早い達成の一つに数えられる。

これらを見るには時間がいる。内部は閉ざされ、開かれた扉口から金網越しに、離れた位置で薄暗い堂内を見ることになる。腰を据え、目が慣れるのを待つと、群衆の中から一つひとつの顔が次第に立ち上がってくる。

五重塔のまわり

五重塔は法隆寺の西院伽藍にあり、金堂と並んで建つ。現存する世界最古の木造建築群とされる一画である。平成5年(1993年)に日本で最初の世界文化遺産の一部として登録された境内は、半日かけて歩く価値がある。

拝観券は西院伽藍・大宝蔵院・東院伽藍の共通券で、大宝蔵院では百済観音像や玉虫厨子など、初期の名宝をより間近に見られる。塔外へ流出した塑像の一部の行方が気になる人には、東へ列車で向かう奈良国立博物館がよい。関連する塑像の断片を所蔵し、仏教美術の展観をたびたび開いている。

法隆寺は奈良や大阪から日帰りで訪ねやすい。JR法隆寺駅から徒歩約20分、あるいはバスで法隆寺門前まで行けば、表参道はすぐである。

Q&A

Q塔の中に入って間近で見られますか。
Aいいえ。初層内部は閉ざされており、四方の開いた扉口から金網越しに、離れた位置から拝観します。
Q写真撮影はできますか。
A塔内部の撮影はできません。塔の外観や境内は自由に撮影できます。
Q四つの場面で最も有名なのはどれですか。
A北面の釈迦涅槃の場面です。嘆く弟子たちは「法隆寺の泣き仏」と呼ばれています。
Q塑像はいつ造られたのですか。
A天平19年(747年)の資財帳の注記により、奈良時代の和銅4年(711年)の作とされます。
Q他の塔にも同じような塑像群はありますか。
A現存するものはありません。造られた場所に残る塔本塑像は法隆寺だけです。

基本情報

名称塑造塔本四面具(五重塔安置)/そぞうとうほんしめんぐ
所在地奈良県生駒郡斑鳩町 法隆寺 五重塔
指定区分国宝(彫刻)/明治35年(1902年)重要文化財、昭和31年(1956年)国宝指定
制作年代奈良時代・和銅4年(711年)
構成四面の塑像群、約80体(東=維摩、西=分舎利、南=弥勒、北=涅槃)
技法塑造(木芯に藁縄を巻き粘土を盛る)、彩色・漆箔
所有法隆寺
公開西院伽藍の拝観区域内/開扉口から金網越しに拝観、塔内部は撮影不可
拝観時間8:00〜17:00(2/22〜11/3)、8:00〜16:30(11/4〜2/21)
拝観料西院伽藍・大宝蔵院・東院伽藍共通 大人2,000円(現金のみ)
アクセスJR法隆寺駅から徒歩約20分、またはバスで法隆寺門前下車

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/265
聖徳宗総本山 法隆寺 公式サイト「五重塔」
https://www.horyuji.or.jp/garan/gojyunoto/
WANDER 国宝「塔本四面具(塔本塑像)」
https://wanderkokuho.com/201-00265/

最終更新日: 2026.06.13