元応元年の年紀を刻む来国俊の太刀
この太刀の茎(なかご)には、製作の年月が刻まれている。「元応元年八月日」、すなわち西暦1319年の八月である。年紀の傍らには「来国俊」と三字の銘が切られる。来国俊は鎌倉時代後期の京都で活動した来派(らいは)の刀工であり、現存する年紀作は弘安元年(1278年)から元亨元年(1321年)におよぶ。本作の1319年という年紀は、その作刀のほぼ末期にあたる。
所在は奈良県、所有者は個人とされる。長い年月を個人の手で守り継がれてきた一口である。
重要文化財としての価値
本作は昭和30年(1955年)2月2日に重要文化財へ指定された。指定番号は1750である。来国俊の作刀には国宝・重要文化財に指定された例が複数あり、年紀をもつ遺品が数多く残ることが、その評価を支えている。
その年紀は、長く論じられてきた一つの問題に手がかりを与える。来国俊の作には「国俊」と二字で銘を切るものと、「来国俊」と三字で切るものがある。両者は姿や刃文に違いがあり、かつては別人の刀工とみる説が有力であった。しかし正和年間(1315年ごろ)の作に「七十五歳」と年齢を記した一口が残ること、そして二字銘から三字銘までの年紀が連続することから、現在では一人の長命な刀工とみる見方が定着している。二字銘は前期、三字銘は壮年期以降の作と考えられる。本作は三字銘であり、来国俊が七十代後半に達した晩年の一口にあたる。
晩年の作風を読む
来国俊の前期の作は身幅が広く豪壮で、丁子乱れ(ちょうじみだれ)の華やかな刃文を焼く。後期になると作風は反対の方向へ向かい、姿は細身となり、刃文は直刃(すぐは)が主体となった。抑制が華やぎに取って代わったのである。
1319年銘の本作も、その後期の様式に連なる。地鉄(じがね)は小板目肌(こいためはだ)がよく約(つ)み、地沸(じにえ)が細かにつく。直刃の刃縁には来国俊らしい穏やかな冴えがある。派手な見どころを探すよりも、鍛えの均質さと刃文の落ち着きに目をとめたい一口である。
来国俊の作を見られる場所
本作は個人蔵であり、常時の公開はされていない。来国俊の作刀を実際に見たい場合は、公開施設に収まる優品を訪ねるのがよい。
東京国立博物館は、二字銘の国宝太刀(有馬家伝来、国俊の作中でも豪壮な一口)と、正和五年(1316年)紀の国宝短刀(熱田神宮の所有で、同館に寄託)を収める。いずれも刀剣展示室で随時公開されるが、通年ではなく入れ替え制であるため、来館前に展示一覧を確認するとよい。
名古屋の徳川美術館には、正和四年(1315年)紀の来国俊の重要文化財太刀があり、銘に年号と年齢をあわせ記す点で資料価値が高い。また、かつて熊本の阿蘇神社に伝わった国宝「蛍丸(ほたるまる)」も来国俊の作であったが、昭和20年(1945年)以後の混乱のなかで所在不明となった。2017年には写しが鍛えられ、阿蘇神社へ奉納されている。
Q&A
- これはどのような文化財ですか。
- 鎌倉時代後期の京都の刀工・来国俊が元応元年(1319年)に鍛えた太刀です。奈良県内の個人が所有し、重要文化財に指定されています。
- 博物館で見ることはできますか。
- 現在は個人蔵で、常時の公開はされていません。来国俊の作を見るには、東京国立博物館や名古屋の徳川美術館が収める優品を訪ねるのがよいでしょう。
- 国宝ですか、重要文化財ですか。
- 重要文化財です。昭和30年(1955年)の指定で、国宝の一段下の区分にあたります。来国俊の作には国宝に指定された刀剣も別にあります。
- 茎の年紀にはどのような意味がありますか。
- 来国俊は多くの作に年紀を刻みました。そのため一人の刀工の生涯を年代順にたどることができます。1319年の年紀は、本作が同工の最末期の作の一つであることを示します。
- 「国俊」と「来国俊」の銘は何が違うのですか。
- 二字「国俊」の作は身幅が広く華やかな乱れ刃を焼き、三字「来国俊」の作は細身で直刃調が多いとされます。現在は一人の刀工の前期作と後期作とみる見方が定着しています。本作は後期の三字銘です。
基本データ
| 名称 | 太刀〈銘来国俊元応元年八月日〉 |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財(昭和30年〔1955年〕2月2日指定、指定番号1750) |
| 種別 | 工芸品・刀剣(太刀) |
| 時代・年代 | 鎌倉時代、元応元年(1319年)八月 |
| 作者 | 来国俊(山城国・来派) |
| 員数 | 1口 |
| 所在地 | 奈良県 |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 常時の公開はなし |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/本作
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/6550
- 文化遺産オンライン(文化庁)/太刀 銘 来国俊
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/209986
- e国宝(国立文化財機構)/太刀 銘国俊(二字国俊)
- https://emuseum.nich.go.jp/detail?langId=ja&content_base_id=100476
- 徳川美術館/太刀 銘 来国俊(正和四年紀・重要文化財)
- https://www.tokugawa-art-museum.jp/collections/
- 文化庁/盗難等被害文化財(所在不明の指定文化財)・蛍丸
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/torimodosou/kunishitei/107.html
最終更新日: 2026.06.14