小松屋旅館本館という建物
小松屋旅館本館は、新潟県新潟市西蒲区の岩室温泉にある昭和26年(1951年)建築の木造2階建の旅館建築で、平成28年(2016年)8月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は15-0436、第84回の登録にあたる。現在は「小さなお宿 小松屋」の名で営業を続けており、宿泊すれば建物の内部に入ることができる。
建物は北国街道から少し奥まった位置に、東を向いて建つ。正面には入母屋造の玄関が前へ突き出す。屋根は左右で形式が異なり、東側を入母屋造、西側を切妻造とする。瓦葺で、建築面積は154平方メートル。二階には客室三室が並び、要所に銘木を用いた造作が施されている。昭和45年(1970年)と昭和53年(1978年)に改修を受けた。
岩室温泉は、彌彦神社(やひこじんじゃ)への参詣客を受け入れる宿場として栄えた温泉地である。小松屋の建物群はその通り沿いに位置している。
四棟でひとつの宿
同じ日に登録されたのは本館だけではない。小松屋旅館では四棟がまとめて登録されており、それぞれ建築年が異なる。
- 広間棟:大正3年(1914年)建築、昭和45年改修
- 表座敷棟:大正14年(1925年)建築、昭和45年・53年改修
- 本館:昭和26年(1951年)建築、昭和45年・53年改修
- 奥座敷棟:昭和32年(1957年)建築、昭和45年・53年改修
大正から昭和三十年代まで、およそ四十年をかけて棟が増えていったことになる。旅館の建物は一度に設計されるより、客数や用途の変化に応じて継ぎ足されることが多い。四棟の年代差は、その増築の記録がそのまま残ったものである。本館はこの並びの三番目にあたり、玄関を備えて宿の正面を受け持つ。
四棟に共通するのが昭和45年と53年の改修だ。高度経済成長期の後半に手が入り、その後も使われ続けてきた。
登録基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの
登録有形文化財には三つの登録基準がある。小松屋旅館本館が該当するのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、建物単体の造形よりも、それが置かれた風景の中で果たしている役割が評価されたことを意味する。
この基準の含意は、岩室温泉の通りに立つと理解しやすい。木造二階建の宿が街道沿いに並び、その連なりが温泉街の輪郭をつくっている。一棟が失われれば、残る建物の価値も削られる。登録という緩やかな保護制度が、こうした街並みを構成する建物に多く適用されてきたのはそのためである。
重要文化財の「指定」が現状変更に許可を要する強い規制であるのに対し、登録は届出制を基本とする。営業を続けながら維持するには、この違いが実務上大きい。小松屋が今も宿として稼働していること自体が、制度の想定どおりの姿と言える。
屋根と造作を見る
本館でまず目に入るのは屋根の非対称である。東側は入母屋造、西側は切妻造。ひとつの棟の左右で形式を変えるのは、通りに面した東側に格式を与え、背面側は簡素に納めるという判断による。玄関もまた入母屋造で前へ突き出しており、道路から見たときの視覚的な焦点が東面に集まる構成になっている。
内部で注目したいのが銘木の使い方だ。文化庁の解説は「要所に銘木を用い、凝った造作としている」と記す。旅館の造作に木目や材種の珍しい材を選ぶのは、座敷の格を示すための伝統的な手法である。宿の説明によれば、離れの客室「蹲踞(つくばい)」には黒柿細工が用いられている。
内湯は「霊雁(れいがん)の湯」と呼ばれ、宿の説明では昭和のはじめにつくられたという。大理石の床が特徴で、これは本館の登録範囲とは別の部分にあたる。露天風呂の柱には彌彦神社の杉が使われていると宿は説明している。
泊まって使うための実用情報
小松屋は日帰り見学の施設ではない。宿泊者として建物を利用する形になる。客室は趣の異なる7室と25畳の広間「松風」で、収容は30名、宿泊は1日2組から3組に限られている。チェックインは15時から18時、チェックアウトは10時まで。駐車場は15台分が無料で用意されている。
浴槽はすべて岩室温泉の源泉掛け流しで、加水も加温も循環もしない。内鍵をかけて貸切で使える方式をとる。泉質は含有塩土類硫化水素泉で、岩室温泉には約300年の歴史があり、傷ついた雁が湯で癒えたという伝承から「霊雁の湯」の名が伝わる。湯は黒みを帯びており、宿ではこれを「黒湯」と呼んでいる。
アクセスは、JR越後線岩室駅からタクシーで約5分。新潟駅からはJR越後線の吉田行きで岩室駅へ向かう。上越新幹線を使う場合は燕三条駅から弥彦線で吉田駅または弥彦駅へ出て、タクシーで5分から10分。車では北陸自動車道の巻潟東インターチェンジから国道116号経由で約15分、三条燕インターチェンジからは約30分。新潟空港からは新潟駅までバスかタクシーで約10分を要する。
外観は温泉街の通りから見ることができる。館内での撮影については、少人数で運営している宿という性格上、他の宿泊客への配慮が求められる。予約や問い合わせは宿の公式サイトから行うのが確実である。
Q&A
- 小松屋旅館本館は見学できますか。宿泊しなくても中に入れますか。
- 小松屋は現役の旅館で、内部の見学のみを目的とした受け入れは行っていません。建物の中を見るには宿泊するのが基本となります。外観は岩室温泉の通りから見ることができます。日帰り入浴については公式サイトに案内がないため、希望される場合は事前に宿へお問い合わせください。
- 小松屋旅館本館はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか。
- 本館の建築は昭和26年(1951年)で、昭和45年(1970年)と昭和53年(1978年)に改修されています。登録有形文化財(建造物)への登録は平成28年(2016年)8月1日、第84回登録、登録番号は15-0436です。
- 小松屋旅館で登録有形文化財になっているのは本館だけですか。
- 本館のほかに広間棟(1914年)、表座敷棟(1925年)、奥座敷棟(1957年)の三棟が同時に登録されており、あわせて四棟が登録有形文化財です。それぞれ建築年が異なり、宿が段階的に増築されてきた経緯が読み取れます。
- 小松屋旅館本館のある岩室温泉へは、どうやって行けばよいですか。
- JR越後線岩室駅からタクシーで約5分です。新潟駅からは越後線の吉田行きに乗車します。上越新幹線利用の場合は燕三条駅から弥彦線で吉田駅または弥彦駅へ出てタクシーで5分から10分。車の場合は北陸自動車道の巻潟東インターチェンジから国道116号経由で約15分、三条燕インターチェンジからは約30分です。駐車場は15台分が無料です。
- 小松屋旅館の温泉はどのような湯ですか。貸切で入れますか。
- 館内すべての浴槽が岩室温泉の源泉掛け流しで、加水・加温・循環を行っていません。泉質は含有塩土類硫化水素泉、黒みを帯びた湯であることから「黒湯」と呼ばれています。露天風呂と内湯は内側から鍵をかけて貸切で利用でき、源泉掛け流しの風呂が付いた客室も用意されています。
基本情報
| 名称 | 小松屋旅館本館(こまつやりょかんほんかん)/営業名称:小さなお宿 小松屋 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県新潟市西蒲区岩室温泉字居掛681 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 指定年 | 平成28年(2016年)8月1日登録(告示同日、第84回、登録番号15-0436) |
| 員数 | 1棟(同時登録:広間棟・表座敷棟・奥座敷棟を含め計4棟) |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積154平方メートル |
| 所有者 | 有限会社小松屋(国指定文化財等データベースの写真提供者表記による) |
| 公開状況 | 現役の旅館。内部の利用は宿泊者に限られる。外観は通りから見学可能 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):小松屋旅館本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011094
- 国指定文化財等データベース(文化庁):小松屋旅館広間棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011095
- 文化遺産オンライン(文化庁):小松屋旅館本館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/241481
- 小さなお宿 小松屋 公式サイト
- https://www.iwamuro-komatsuya.com/
- 文化庁:登録有形文化財登録基準
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei_kijun.html
- 新潟市:市内の国登録文化財一覧
- https://www.city.niigata.lg.jp/kanko/bunka/rekishi/bunkazai/ichiran/touroku.html
最終更新日: 2026.08.13