益甚酒店:村上の旧町人町、大町通りに建つ酒屋の町家

益甚酒店は、新潟県村上市大町にある酒屋の建物群で、明治25年(1892年)の大火の直後に建てられた主屋を中心に、店舗・主屋及び酒蔵・土蔵の3件が平成15年(2003年)1月31日に国の登録有形文化財に登録された。読みは「ますじんさけてん」で、店の看板や観光案内では「益甚」と短く呼ばれることが多い。

建物が並ぶのは、旧村上城下の町人地で中心となっていた通りである。文化庁の解説によると、店舗はこの通りに西を向けて建ち、その奥に主屋、さらに東に酒造場が続く。表から裏へ、商いと住まいと酒造りの場が一列に連なる屋敷構えである。

益甚酒店はかつて造り酒屋だった。いまは村上の地酒を扱う専門店として営業しており、店内には酒造りの時代に使われた道具も並ぶ。

益甚酒店の歩み:大火後の再建から地酒の店へ

益甚酒店の建物でもっとも古いのは主屋で、棟札から明治25年(1892年)の大火の直後に建てられたことが分かっている。土蔵も同じ頃の建物とされる。文化庁の解説は、明治42年(1909年)に当主の益田甚太郎が主屋と酒造の器械一式を土蔵とともに買い受けたと記している。

店の成り立ちについては、店主が地元のウェブマガジンの取材に答えている。それによれば、塩町の益田甚兵衛酒店から分家した益田甚次郎が、「益甚」の屋号で茶の販売を始めたのが創業で、大町に移ってから酒造りを始めた。文化庁の解説に見える甚太郎と、創業者とされる甚次郎との続き柄は、公開された資料からは確かめられない。

表の店舗は昭和9年(1934年)に建て替えられた。酒造りは昭和20年(1945年)まで続き、企業整備令による村上の酒蔵の合併で幕を閉じたと店主は語っている。合併で生まれた会社は、現在の大洋酒造につながる。

戦後、益甚酒店は卸売を中心に商いを続けたが、のちに店頭での販売に軸足を移した。店主によると、店舗はいったん現代風に改装したのち、町家の姿に戻している。

益甚酒店の3件の登録と建物の配置

益甚酒店の3件は同じ日に登録され、登録番号は店舗が15-0139、主屋及び酒蔵が15-0140、土蔵が15-0141と続く。登録基準は、店舗が「造形の規範となっているもの」、主屋及び酒蔵と土蔵が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

配置を通りの側から順にたどると、まず通りに面して2階建の店舗が建つ。店舗の1階奥には平屋建の12畳間と通り土間が付き、その東に主屋が続く。主屋のさらに東が酒造場で、その北に麹室がある。土蔵は酒蔵の南東に、東西に棟を通して建つ。

建てられた順に並べると、主屋と土蔵が明治25年(1892年)頃、店舗が昭和9年(1934年)である。通りから見えるのは昭和の店構えだが、その奥には明治の大火後の建物が残っていることになる。各棟の構造と見どころは、それぞれのページで扱う。

城下町村上の町並みと益甚酒店

益甚酒店のある大町は、旧村上城下の町人町にあたる。村上市は歴史的な町並みを支える店を「歴史的風致形成認定店舗」として認定しており、令和8年(2026年)1月現在の一覧に、益甚は地酒販売の店として載っている。

益甚酒店は、春の「町屋の人形さま巡り」や「春の庭 百景めぐり」、秋の「町屋の屏風まつり」といった町家の催しにも加わってきた。村上市観光協会の紹介ページには、これらの催しの期間に人形や屏風を飾った店内の写真が載る。人形さま巡りは、益甚酒店のショーウインドウに飾られた人形が発想のきっかけになったと、店主は振り返っている。

益甚酒店の見学とアクセス

益甚酒店は営業中の酒店なので、営業時間内であれば店舗の中に入ることができる。村上市観光協会によると、営業時間は午前10時から午後5時までで、正午から午後1時までは昼休みとなる。定休日は水曜日で、ほかに不定休がある。入店に料金はかからない。

店内には、酒を搾るのに使った酒槽(さかぶね)や、「貧乏徳利」と呼ばれる通い徳利などが展示されている。撮影の可否は資料で確かめられなかったので、店の方に尋ねてからにしたい。主屋・酒蔵・土蔵の内部公開は案内されていない。

益甚酒店への道のりは、JR羽越本線の村上駅から徒歩でおよそ20分、車ならおよそ5分である。日本海東北自動車道の村上瀬波温泉インターチェンジからも車で5分ほど。大型バス2台分の駐車場があり、利用には予約が要る。

益甚酒店の名称と表記

登録名称は「益甚酒店店舗」「益甚酒店主屋及び酒蔵」「益甚酒店土蔵」で、文化庁のふりがなはそれぞれ「ますじんさけてんてんぽ」「ますじんさけてんしゅおくおよびさかぐら」「ますじんさけてんどぞう」である。英語では Masujin Sake Shop と表記する。

登録上の所在地は大町194で、店の住所としては大町1-19が使われている。塩町にある益田甚兵衛酒店は、益甚酒店の分家元とされる別の店である。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「益甚酒店店舗」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003078
文化庁 国指定文化財等データベース「益甚酒店主屋及び酒蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003079
文化庁 国指定文化財等データベース「益甚酒店土蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003080
村上市「歴史的風致形成認定店舗一覧(令和8年1月現在)」(PDF)
https://www.city.murakami.lg.jp/uploaded/attachment/73602.pdf
村上市観光協会「益甚」
https://www.sake3.com/spot/263
Things「村上の地酒専門店『益甚酒店』で酒づくりの歴史を知る。」
https://things-niigata.jp/other/masujinsaketen/

最終更新日: 2026.10.21

基本情報

名称益甚酒店
所在地新潟県村上市大町194
指定登録有形文化財 3件
座標38.22413, 139.47887