五所神社の御田植神事 ― 延宝二年の棟札にさかのぼる予祝の神事

毎年2月6日の午後、佐渡島南部の下川茂集落にある五所神社の境内で、一年ぶんの稲作が半日のうちに演じられる。本物の田も水もない。苗を取り、田を打ち、ならし、植えるという所作のすべてを、神前への奉納として執り行い、その年の豊作を祈る。これが五所神社の御田植神事である。

神事は七つの儀式で構成される。苗取式、朝飯式、田打式、昼飯式、大足式、田植式、夕飯式。働く所作の儀式の合間に三度の食事の儀式が挟まり、田に出た一日の流れがそのまま順序になっている。農作業と休息が交互に進む。

演じ手はその年ごとに選ばれるのではない。「宮方(みやかた)」と呼ばれる氏子の七軒が、神官とともに神事を担う家筋として代々受け継いできた。社地は島の南、赤泊地区。羽茂川沿いの道をたどった先にある。

指定の経緯と、この神事の価値

新潟県は昭和45年(1970年)4月17日、この御田植神事を民俗芸能として県の無形民俗文化財に指定した。その6年後、昭和51年(1976年)12月25日には、国が「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択している。これは指定とは別枠の、記録保存を要する民俗文化財としての国の位置づけにあたる。保護にあたるのは五所神社御田植神事保存会である。

いつ始まったかを記す記録はない。年代を示す最も確かな手がかりは物そのもので、社に残る最古の棟札に「延宝二甲寅年(1674)宮方七人」と銘記されている。現在も神事を担う宮方七軒は、その名と数のかたちで17世紀後半までたどることができる。

この神事の値打ちは、伝承の厳格さにある。役は家ごとに固定されている。田をならす大足式は古宮家の世襲で、当主は宮方筆頭の座を継ぐ。田打式・田植式の席次も定まっており、古東家を筆頭に青田家、中山家、松之畑家、半田家、源助家と続き、太鼓で各所作の合図を出す役は源助家が受け持つ。各家は自家の役を長男のみに伝え、古いしきたりとして他の家人には教えなかった。これほど厳密に守られてきた神事は、一つの村が稲作の一年をどう思い描き、どう演じたのかを、ぶれの少ないかたちで今に残す。

見どころ

神事の始まりは音でわかる。源助家が持つ一張りの太鼓が、所作の間合いを刻む。苗取りと田植えの場面では、小苗打(こなえうち)と呼ばれる10人ほどの男の子が太鼓に応え、椿の棒で木の板を打ち鳴らす。若い苗を脅かす鳥や害虫を追う、いわゆる鳥追いである。この音もまた祈りの一部になっている。

儀式は装束をまとい、神前で型どおりに、急がずに進む。注目したいのは手の動きだ。苗を取り、土を起こし、苗を列に植える所作は、ゆっくりと繰り返され、労働の動きが祭礼の所作に変わっていく。七つの儀式が終わると、神前に供えられていた切餅が、氏子総代によって参詣者や参加した子どもたちに分け与えられる。一切れを受け取ることは、その年に願われた福を分けてもらうことでもある。

訪れる前に知っておきたい点が一つある。この神事は長く男だけのもので、当日の午後からは女性の境内への立ち入りが禁じられていた。この決まりは2018年に撤廃され、現在はより開かれた神事として続けられている。性別を問わず参詣できる。

場の力も一日に加わる。社は古い杉に囲まれ、羽茂川にかかる赤い太鼓橋を渡った先にあり、その周りには田園が広がる。

神社の周辺

境内には、地元が神木とあおぐ大杉が立つ。樹高はおよそ30メートル、胸高幹囲は5.21メートル、樹齢は800年以上と推定される。佐渡市はこの大杉を市指定の記念物としている。川茂の地は古くから佐渡有数の杉の産地で、気候と土に恵まれて育つ良材は「川茂杉」と呼ばれた。この大杉は現存する川茂杉としては最大級で、この地のもとの植生を残す天然杉の遺存種として価値が高い。

社のある赤泊地区は佐渡の南海岸に位置する。近くの赤泊郷土資料館では、地域の歴史や佐渡の祭りに関する展示を見ることができ、この一日だけにとどまらず島の祭礼を知る手がかりになる。佐渡へは新潟本土からフェリーで渡る。主要な港から南海岸まではそれなりに距離があるため、下川茂へは車か手配した交通で向かうのが現実的だ。神事は2月初旬に行われるので、冬の寒さと積雪を見込んだ服装で出かけたい。

Q&A

Q御田植神事はいつ、どこで見られますか。
A毎年2月6日、午後3時ごろから、佐渡市赤泊地区下川茂の五所神社境内で行われます。以前は1月6日に行われていました。日時は変わることがあるため、出かける前に現地へご確認ください。
Q女性も参詣できますか。
Aできます。かつては男性のみの神事で、当日は女性の境内立ち入りが禁じられていましたが、2018年にこの決まりは撤廃されました。現在は性別を問わず参詣できます。
Qどのくらい古い神事ですか。
A起源ははっきりしません。社に残る最古の棟札に1674年にあたる年号と宮方七人の記載があり、少なくとも17世紀後半から行われていたとみられます。
Q七つの儀式とは何ですか。
A苗取式・朝飯式・田打式・昼飯式・大足式・田植式・夕飯式です。働く所作の四つは苗取りから田の準備、田植えまでの段階を演じ、三つの食事の儀式が田仕事の一日の区切りを表します。
Q誰が執り行うのですか。
A神官と、宮方と呼ばれる氏子七軒の当主が、家ごとに定まった役を世襲で担います。小苗打と呼ばれる10人ほどの男の子が、苗取りと田植えの場面で板を打ち鳴らし、鳥や害虫を追う役を務めます。

基本情報

名称五所神社の御田植神事(ごしょじんじゃのおたうえしんじ)
所在地新潟県佐渡市下川茂(五所神社境内)
指定(県)新潟県指定無形民俗文化財(民俗芸能)/昭和45年(1970年)4月17日指定
選択(国)記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財/昭和51年(1976年)12月25日選択
管理者五所神社
保護団体五所神社御田植神事保存会
開催毎年2月6日 午後3時ごろから(以前は1月6日)
アクセス佐渡島南部・赤泊地区。佐渡へのフェリー渡航後、車または地域の交通で下川茂へ

参考文献

佐渡市公式ホームページ「新潟県指定 無形民俗文化財:五所神社の御田植神事」
https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/5160.html
佐渡市公式ホームページ「佐渡市指定 記念物:五所神社の大杉」
https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/5246.html
文化遺産オンライン(文化庁)「五所神社の御田植神事」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/159538
佐渡芸能アーカイブ「五所神社の御田植神事」
https://sado-geinou.com/geinou/otaue/

最終更新日: 2026.06.03