齋藤家住宅離れ ― 庭に向かって開いた26平方メートル
新飯田の齋藤家で登録されている建物のうち最も小さいのが、この離れである。そして、実用以外のことにだけ金をかけた建物でもある。建築面積26平方メートル。寄棟造、鉄板葺、平屋建。座敷は一室。すべてが南、庭の方角を向いている。
文化庁は年代を明治中期とし、西暦では1883年から1897年の幅を示す。昭和42年(1967年)頃の改修が記録されている。所在は中ノ口川東岸、現在の新潟市南区。川の自然堤防上に連なる旧家のひとつの屋敷内にある。
離れとは何かを知れば、この建物は自分で説明を始める。寝る場所でも食べる場所でもない。働く母屋から切り離され、意識して足を運び、客を通し、茶を点て、家であることを一時間だけやめたいときに使う部屋である。玄関は北側に切妻造で設けられている。裏から入り、正面に庭が開くという順序になる。
東と南の面には縁側が巡り、霧除庇が架かる。板を濡らさず、しかし光は落とさない浅い庇だ。雪がまとまって降り、残りの季節はよく雨が降る土地では、この一手が、使える縁側と眺めるだけの縁側とを分ける。
座敷に何が入っているか
座敷には書院造の設えが一式収まっている。郊外の寝室ほどの広さに、である。
北面には書院。低い窓を伴う造付けの机で、もとは中世寺院の僧の書見台に始まり、江戸期には格式ある座敷の指標となった形式だ。西面には床を構え、その基部に地袋を設ける。そして床には丸炉を切る。茶の湯の湯を沸かすための設えである。
文化庁が特筆しているのは用材だ。床の上部を渡す落掛をはじめ、部材の選び方に凝っている。日本の座敷において落掛は、一材が常時人目にさらされる数少ない位置のひとつで、そこに何を使うかで家は好みを表明する。この点への言及が、そのまま登録基準の根拠になっている。三つの基準のうち第一、「造形の規範となっているもの」で登録されている。
同じ敷地の土蔵と比べてみたい。あちらは同日に登録番号15-0581で登録され、基準は第三の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」だった。蔵は水害に備えて重く造られ、垂木は太く柱は密で、屋敷構えを形成することで価値を得る。二十歩離れた離れは、庭に向かって開いて造られ、造りの良さで価値を得る。一つの家が、同じ平野に対してまったく異なる二つの応答をしている。
両者の登録はいずれも令和5年(2023年)8月7日、第105回登録。この登録制度は平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられたもので、重要文化財を生む指定制度より軽い枠組みである。所有者は許可ではなく届出で足り、狙いは建物を凍結することではなく、建ったまま使い続けさせることにある。
実務的な注意
本物件は私有で、公開されていない。国のデータベースに所有者名の記載はなく、新潟市の一覧では「個人」とされる。登録有形文化財に公開義務はない。しかも離れが向く庭は敷地の内側にあるため、この建物が設計された方角からの眺めは、公道に立つ者には得られない。
この種の座敷に座ってみたい向きには、行き先がある。同じ南区味方の旧笹川家住宅は国の重要文化財で、公開されており、中ノ口川流域の家がどこまでの規模に達したかを見せる。中央区西大畑町の旧齋藤家別邸は大正7年(1918年)の国指定名勝で、座敷が回遊式庭園に直接開く。同じ発想を二十倍の規模で展開したものと言っていい。ただし名称には注意が要る。新潟には「斎藤家」「齋藤家」と表記される家に関わる著名な建物が複数あり、同一の家系ではない。新飯田の齋藤家は、西大畑の別邸とは無関係である。
中央区の白山公園内にある燕喜館は無料で公開され、座敷で抹茶が供される。この小さな離れが提供しようとしていた時間に、旅行者が最も近づける場所だろう。
Q&A
- 齋藤家住宅離れは見学できますか。
- 内部は見学できません。私有物件で公開されておらず、また敷地内の庭に南面しているため、設計上の正面は公道から見ることができません。
- 離れは何に使う建物ですか。
- 日常の母屋から切り離された座敷で、客の接遇や茶の湯に用いられるのが一般的です。本件では床に丸炉を切り、書院と床を構えることから、そうした使い方が想定されます。
- 「造形の規範となっているもの」として登録された理由は。
- 文化庁は、落掛など部材の用材選択に凝っている点と、庭園に向けた開放的な造りを挙げています。希少性や古さではなく、造形の質を評価する基準です。
- 建築年代と改修はいつですか。
- 国の記録では明治中期、西暦1883年から1897年の幅とされ、昭和42年(1967年)頃の改修が記載されています。建築年を一年に絞った記載はありません。
- 主屋も登録されていますか。
- されていません。この屋敷で登録されているのは二棟のみで、この離れ(15-0580)と土蔵(15-0581)です。いずれも令和5年8月7日の登録です。
基本情報
| 名称 | 齋藤家住宅離れ(さいとうけじゅうたくはなれ) |
|---|---|
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和5年(2023年)8月7日(告示:同日)/第105回登録 |
| 登録番号 | 15-0580 |
| 登録基準 | 造形の規範となっているもの |
| 時代・年代 | 明治/明治中期(1883-1897年)、昭和42年(1967年)頃改修 |
| 員数 | 1棟 |
| 構造及び形式等 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積26平方メートル |
| 種別 | 住宅/建築物 |
| 所在地 | 新潟県新潟市南区新飯田字古町1850-1 |
| 所有者 | 国のデータベースに所有者名の記載なし(新潟市一覧では「個人」) |
| 関連登録 | 齋藤家住宅土蔵(登録番号15-0581、同日登録) |
| 公開状況 | 非公開(私有物件) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):齋藤家住宅離れ
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014585
- 国指定文化財等データベース(文化庁):齋藤家住宅土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014586
最終更新日: 2026.07.15