佐渡・久知河内の宝物庫に伝わる平安の阿弥陀

佐渡を訪れる人の多くが最初に足を下ろすのは、島の東側にある両津港だろう。そこから車で15分ほど内陸へ入ると、田畑に囲まれた久知河内の集落に出る。真言宗豊山派の古刹、陽雲山長安寺は、その静かな一画にある。寺の宝物庫におさめられているのが、檜を寄せて造り、漆を塗って金箔を置いた木造阿弥陀如来坐像である。

像高は約87センチ。眉間には水晶の白毫が嵌め込まれ、暗く沈んだ金の面のなかで小さく光をたたえている。両手は膝の上で組まれ、指で輪をつくる阿弥陀定印。吹寄九重蓮華坐の上に結跏趺坐するその姿は、平安時代後期、いまから九百年ほど前の作と推定されている。国の重要文化財として守られてきた仏である。

なぜこの像が貴重なのか

平安後期の仏像彫刻は、十一世紀の名匠・定朝が大成し、その工房の系譜が受け継いだ穏やかな様式に落ち着いていく。長安寺の阿弥陀は、その流れのなかにある。激しさではなく、よく整った静かな容貌。深くうねる衣文ではなく、浅くおだやかに刻まれた襞。この静けさこそが、来迎の光に包まれて極楽往生を願った時代の美意識を映している。

技法は、平安後期を象徴する寄木造である。一本の木から彫り出すのではなく、複数の材を組み合わせて像の内部をくり抜きながら造る。大きな像が乾燥によって割れるのを防ぎ、阿弥陀像への需要が高まった時代の量産にも応えた手法で、これ自体が制作年代を物語る手がかりになっている。

指定の経緯にも触れておきたい。この像が最初に指定を受けたのは明治39年(1906)のこと。当時は明治30年の古社寺保存法のもとで「国宝」と呼ばれていた。昭和25年(1950)に文化財保護法が施行されると旧来の国宝は再編され、この阿弥陀をふくむ多くの作品が重要文化財へと位置づけ直された。1906年という年は、国がこの像を見守ってきた歳月の長さを示している。

見どころ

まず目を引くのは、額の水晶だろう。黒ずんだ金の面に据えられると、見る角度によって淡く揺れる光が宿る。悟りという抽象的な観念を、物として像のなかに据えてみせた工人の工夫である。

次に表面を読みたい。金箔は九百年のあいだに不均一に剥げ、ところどころ檜の木肌がのぞく。その褪色がかえって時間の厚みを感じさせる。胸から膝にかけての衣文を目で追えば、線は抑制が効いて控えめだ。一、二世紀のちの鎌倉彫刻が刻むことになる力強い襞とは、まるで気質が違う。台座の吹寄せの蓮弁も、しばし足を止めて眺めたい。

像は宝物庫におさめられているため、いつでも拝観できるとは限らない。訪ねる前に寺へ連絡し、公開の有無を確かめておくと確実である。

寺ともう一つの宝物

長安寺の創建は、伝承では天長8年(831)にさかのぼる。当初は天長寺と号し、仁安3年(1168)に新興されて現在の寺号となった。室町時代には久知郷の領主・本間氏の祈願寺として栄えている。いまは佐渡四国八十八ヶ所霊場の第68番札所。白山神社の赤い鳥居と仁王門が、杉木立の参道に立つ。

阿弥陀像が同居する宝物庫には、さらに数奇な来歴をもつもう一つの国指定重要文化財がある。十三世紀ごろに鋳られた朝鮮鐘である。若狭(現在の福井県)の海底から引き揚げられ、のちに長安寺へ寄進されたと伝わる。日本に47口しか残らない朝鮮鐘の一つで、新潟県内では唯一の現存例だ。総高は約107.5センチ。冠部の精緻な龍頭と、胴を巡る唐草模様に目がとまる。なお阿弥陀像そのものは、寺伝によれば文明11年(1479)頃に寄進されたとされ、この島の山あいに来るまでに、すでに数百年を別の地で過ごしてきた仏ということになる。

佐渡をめぐる

佐渡は日本海最大の島である。古代には京から延びる北陸道の終点にあたり、順徳上皇や日蓮、世阿弥らが流された地でもあった。そうした辺境の記憶が、いまの島の魅力の一部になっている。

島最大の見どころは西海岸にある。手工業による採掘が、ヨーロッパの機械化のあともなお続いた点が評価され、令和6年(2024)7月に世界文化遺産へ登録された佐渡島の金山だ。金山一帯は両津港から車で約1時間、長安寺とはちょうど反対方向にあたるため、一泊二日ほどの行程なら無理なく組み合わせられる。野生復帰が進められてきた朱鷺の島でもあり、淡紅色の翼を観察できる施設もある。地酒の蔵元や近海の海の幸を加えれば、寺の拝観は島旅の自然な一場面におさまるはずだ。

Q&A

Q阿弥陀像はいつごろ、どこで造られたのですか。
A平安時代後期、おおよそ十一〜十二世紀の作と推定されています。作者は不明です。寺伝では文明11年(1479)頃に長安寺へ寄進されたと伝わり、佐渡へ来る前にすでに数百年を経ていたことになります。
Q長安寺へはどう行けばよいですか。
A新潟からフェリーまたはジェットフォイルで佐渡の両津港へ渡り、そこから車で約15分、久知河内の集落へ向かいます。駐車場は5台分ほどです。
Q訪ねればすぐに拝観できますか。
A像は宝物庫におさめられているため、連絡なしでは拝観できない場合があります。事前に寺へ問い合わせて公開状況を確認することをおすすめします。
Q寺にはほかに見るべきものがありますか。
Aはい。同じ宝物庫に、国指定重要文化財の朝鮮鐘があります。日本に47口しか残らない貴重な鐘で、新潟県内では唯一の現存例です。
Q阿弥陀定印とはどのような印相ですか。
A深い瞑想に入った阿弥陀如来に特有の手の組み方です。両手を膝の上で上向きに重ね、親指と指先を合わせて輪をつくります。説法でも来迎でもなく、禅定に入った姿を表します。

基本情報

名称木造阿弥陀如来坐像(もくぞうあみだにょらいざぞう)
所在地新潟県佐渡市久知河内152 長安寺
所有者長安寺(真言宗豊山派・山号 陽雲山)
指定区分国指定重要文化財(彫刻)/重文指定 昭和25年(1950)8月29日〔旧国宝指定 明治39年(1906)4月14日〕
員数1躯
時代平安時代後期
品質・技法檜材寄木造、漆箔
像高約87cm
特徴水晶の白毫、阿弥陀定印、吹寄九重蓮華坐に結跏趺坐
アクセス両津港から車で約15分/駐車場5台
拝観宝物庫に安置。拝観は事前に寺へ要確認

References

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/2893
国指定 重要文化財:木造阿弥陀如来坐像(佐渡市公式ホームページ)
https://www.city.sado.niigata.jp/site/bunkazai/4984.html
長安寺(にいがた観光ナビ・新潟県観光協会)
https://niigata-kankou.or.jp/spot/8991
佐渡島(さど)の金山(新潟県)
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/sado-goldmine/

最終更新日: 2026.06.20