大分市に現存する最古の民家

後藤家住宅(ごとうけじゅうたく)は、大分県大分市大字荷尾杵にある江戸時代の茅葺民家で、昭和50年(1975年)6月23日に国の重要文化財に指定された。桁行14.0メートル、梁間7.7メートル、寄棟造、茅葺。指定名称は「後藤家住宅(大分県大分郡野津原町)」で、旧町名を含む。野津原町は平成17年(2005年)に大分市へ編入された。

後藤家は庄屋を勤めた家柄である。年貢の取りまとめ、村内の争いの裁定、藩役人との折衝を担う立場で、この建物はその母屋にあたる。大分市は市内最古の民家と位置づけており、建築から二百五十年を超える。

平面は直屋(すぐや。直家とも記す)。上から見た輪郭が単純な長方形をなす形式で、片側に厩などの張り出しを設ける曲屋と対をなす。大分県の民家は直屋を基本とし、後藤家住宅はその代表例として扱われてきた。

建物は西を向く。正面から入ると、竈を据えた土間、板の間、囲炉裏を切った広間、座敷と続く。広間の背後には「ないしょ」と呼ぶ小部屋が二室、座敷の背後には納戸が置かれる。

指定の理由と、年代をめぐる幅

指定解説は簡潔である。平面と構造形式に当地方の特色があり、年代の古い好例である、と記す。二つの評価軸が並んでいる。

このうち年代のほうには幅がある。文化庁は江戸後期、西暦では1751年から1829年の間とする。大分市は十八世紀中頃、大分市観光協会は十八世紀後半、大分県の記録は江戸中期とし、数字はそろわない。棟札や墨書といった年紀を示す資料は確認されておらず、いずれも架構から読み取った推定である。特定の年を単独で引くことは避けたほうがよい。

構造の評価はこれに比べて動かない。土間上部は二重梁を組む。架構には長大な差物を多用し、差物の中間に立つ柱とは相欠きに納める。大分県の記録は、骨組みに金釘を用いず切込みによる結合の手法をとること、座敷回りを除いて柱や指鴨居が手斧(ちょうな)仕上げであることを挙げ、古風な方式が数多く残っていると評する。手斧仕上げの面は平滑ではない。浅い削り跡が連なり、その稜に光が当たる。鉋で構造材を仕上げるようになる以前の質感である。

指定の後、昭和52年(1977年)4月下旬から解体・復元工事が始まり、翌53年に完成した。現在見る内部の明快さはこの工事に負う。令和5年(2023年)7月末まで、さらに修理が行われている。

蔀戸・網代天井・茅の三百駄

目を留めたい箇所を三つ挙げる。

まず広間の表側に吊られた蔀戸。上半分を内側へ引き上げて天井に留め、下半分は残す形式の建具で、平安・鎌倉期の貴族住宅に用いられた古い形をひく。後世の農家では珍しくなった形式であり、これが残ること自体が建物の古さを示している。座敷の表側は蔀戸ではなく格子窓とする。使い分けが読み取れる。

次に座敷の網代天井。薄く削いだ板や竹を斜めに組んで編む天井で、住宅のなかで細工が装飾に振れる唯一の場所といってよい。この一室が客を迎える座であることを、天井が示している。

三つめは屋根そのもの。茅葺は九州の蒸す夏を涼しく、冬を暖かく保つ一方、維持に最も手間を要する部位でもある。後藤家住宅の葺き替えには茅がおよそ三百駄必要だったと伝わる。一駄は牛一頭に茅六束を積む単位であり、この規模の作業はかつて集落の共同で担われた。

見学にあたって。一般開放されており入館料はかからないが、あくまで個人の住宅である。大分市も見学の際の配慮を求めている。開放時間は定められていないため、出向く前に大分市野津原支所(097-588-1111)へ確認するのが確実で、過去には修理のため見学できない期間もあった。外観の撮影は差し支えないが、屋内については断りを入れたい。

荷尾杵は旧野津原町の山あいにあり、車での訪問が前提となる。JR大分駅から約60分、大分インターチェンジから約35分。大分県の記録は、谷を隔てた鎧ヶ岳の稜線を前庭のように望む位置と描いている。道の駅のつはる、ななせダム、大分県県民の森が近く、この一軒だけを目指すよりも、山手を一日かけて回る行程に組み込むほうが無理がない。

Q&A

Q後藤家住宅は見学できますか。料金はかかりますか。
A一般開放されており無料ですが、個人の住宅であるため開放時間は定められていません。訪問前に大分市野津原支所(097-588-1111)へお問い合わせください。修理のため見学できない期間もありました。
Q後藤家住宅はいつ建てられたのですか。
A資料により幅があります。文化庁は江戸後期(1751〜1829年)、大分市は十八世紀中頃、大分市観光協会は十八世紀後半とします。年紀を示す棟札等が確認されていないため、いずれも構造からの推定です。
Q後藤家住宅の「直屋」とはどのような形式ですか。
A平面が単純な長方形をなす民家の形式で、L字形に張り出す曲屋と対をなします。大分県の民家は直屋を基本とし、後藤家住宅はその代表例とされています。
Q後藤家住宅へのアクセスを教えてください。
A車が前提です。JR大分駅から約60分、大分インターチェンジから約35分。所在地は大分市大字荷尾杵1161番地で、旧野津原町の山あいに位置します。
Q後藤家住宅で特に注目すべき部分はどこですか。
A広間表側の蔀戸です。上半分を引き上げる古い形式の建具で、農家に残る例は多くありません。座敷の網代天井、手斧仕上げの柱や指鴨居もあわせてご覧ください。

基本情報

名称後藤家住宅(ごとうけじゅうたく)/指定名称「後藤家住宅(大分県大分郡野津原町)」
所在地大分県大分市大字荷尾杵1161番地
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 01972
指定年昭和50年(1975年)6月23日
員数1棟
寸法桁行14.0メートル、梁間7.7メートル/寄棟造、茅葺
所有者個人(国のデータベースでは非公表)
公開状況一般開放・無料。個人住宅のため開放時間は不定。問い合わせは大分市野津原支所(097-588-1111)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「後藤家住宅(大分県大分郡野津原町)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3610
文化遺産オンライン「後藤家住宅(大分県大分郡野津原町)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124617
大分市「後藤家住宅」
https://www.city.oita.oita.jp/o204/bunkasports/rekishi/gotouke.html
おおいた市観光ナビ「後藤家住宅」
https://www.oishiimati-oita.jp/spot/2831
大分県「復元された後藤家住宅(国指定重要文化財)」
https://www.pref.oita.jp/site/archive/200348.html

最終更新日: 2026.08.20