鷹巣山——英彦山の溶岩が刻んだ三つのビュート地形

テーブル状の山頂と垂直に切り立った岩壁——「ビュート」と呼ばれる地形が、国内で天然記念物に指定されている例は多くない。鷹巣山(たかのすやま)は、その数少ない一つである。福岡県と大分県の県境にまたがる英彦山の東側に、一ノ岳・二ノ岳・三ノ岳と西から順に三つの岩峰が並ぶ。いずれも山頂部は平坦で、その周囲を垂直の岩壁が取り囲む。1941年(昭和16年)8月1日、「風化及び侵蝕に関する現象」を指定基準として国の天然記念物に指定された。

三峰はかつて英彦山と一体の溶岩台地をなしていた。長い時間をかけて周囲の岩盤が削り取られ、硬い溶岩のキャップだけが取り残された結果が、現在の鷹巣山である。文化庁の指定告示は「英彦山ノ一部ガ侵蝕ノ爲本體ヨリ分離シテ生ジタル熔岩『ビユート』」と簡潔に記している。

三峰の成り立ち

鷹巣山を構成する岩盤は、地質学者が「筑紫溶岩」と呼ぶ一連の溶岩層である。およそ100万年前、英彦山火山の活動によって噴出した溶岩が、周囲一帯に厚いキャップを形成した。火山活動が止んだのち、雨水と河川が下層の柔らかい岩盤を削り取り、硬い溶岩層は浸食に抗って取り残された。これがビュート地形の出来上がる過程である。

三つの峰のうち、最も西に位置する一ノ岳は、ビュートとして約60メートルの高さを保つ。山頂の標高は979.3メートルで、三角点もここに設置されている。文化庁の指定告示が「第一山最モ大ニシテ」と記しているのは、この一ノ岳のことだ。中央の二ノ岳はこれに次ぐ規模で、最も東の三ノ岳は前二者に比べてやや小ぶりとなる。

露頭となった岩壁を間近で見ると、流動していた溶岩が冷却・固化するときに生じた節理の構造が浮かび上がる。同じ筑紫溶岩は、英彦山中の鬼杉周辺や材木岩と呼ばれる柱状節理の岩壁にも顔を出しており、鷹巣山だけの特異現象ではなく、英彦山一帯の地質史の一こまとして理解されている。

指定の意義

戦前の1941年に天然記念物として指定された理由は、ビュート地形の「理想的形状」を呈する稀少例という点に集約される。日本列島は新しい火山活動と活発な侵食作用の重なる地殻にあり、ビュートが形成されてもさらに浸食が進んで尖峰になったり、新しい火山噴出物に埋もれたりすることが多い。古典的なビュートの姿で残るケースは少なく、しかも三峰が連なる形で保存されている例は他に類を見ない。

同じ「風化及び侵蝕に関する現象」のカテゴリーに属する国指定天然記念物には、兵庫の觜崎ノ屏風岩、宮崎の五ヶ瀬川峡谷(高千穂峡谷)などがあるが、鷹巣山はそのなかでも三峰がワンセットとなった構成において独自性を持つ。地質学・地理学の教育素材としての価値も高く、現在も英彦山の自然観察コースの一部に組み込まれている。

三つの山頂——それぞれの表情

一ノ岳・二ノ岳・三ノ岳には、それぞれ異なる魅力がある。

一ノ岳(979.3メートル)には三角点が設置され、鷹巣山全体の標高基準となる。山頂自体は樹木に囲まれて見晴らしは限定的だが、登路にはこの山域で最もダイナミックなロープ場のひとつが現れる。文化庁告示が「最モ大」と評するのは、ビュート部分の規模を指す表現であり、絶対的な標高ではない。

二ノ岳はテーブルマウンテン状の典型例で、山頂部はほぼ平坦な岩のプラットフォームとなっている。岩場の取り付き点を見つけるのに少しばかりの観察眼を要する。一ノ岳と二ノ岳の鞍部にはシャクナゲの群落があり、初夏には淡紅色の花が登山者を迎える。

三ノ岳は三峰のうち最も小さいが、登路としてはここが核心部となる。二ノ岳から三ノ岳へ向かう途中には、コース全体で最も露出度の高い岩壁登りが控える。山頂を越えると、東側に犬ヶ岳の山並み、晴れた日には南方に九重連山まで望むことができる。

登山の実際

鷹巣山は車から眺める景勝地ではなく、自分の足で踏みしめる山である。一般的な登山口は、大分県中津市山国町側の薬師林道入口。そこから薬師峠まで約10分、峠から急登を経て一ノ岳に取り付く。三峰すべてを縦走して下山するまで、コースタイムは概ね3〜4時間を見込みたい。

距離は短いが内容は技術的である。固定ロープを使う場面が複数あり、岩壁の段差では三点支持を要する箇所もある。冬期や梅雨時の濡れた岩は滑りやすく、地元のガイド情報も「初心者の単独入山は避けるべき」と明示する。岩がもろい箇所もあるため、岩を掴む際には荷重をかける前の確認が欠かせない。

福岡県添田町側からは、英彦山北岳の登山口にあたる豊前坊から、稜線を東進して鷹巣山に取り付くルートも利用される。多くの登山者は鷹巣山と英彦山本体を組み合わせて一日で歩く。前半に鷹巣三峰を、後半に英彦山表参道と奉幣殿を回るといった具合である。

周辺の見どころ

鷹巣山が属する英彦山は、出羽三山(山形)・大峯山(奈良)と並ぶ日本三大修験道の霊場として知られる。最盛期には3000人もの山伏が約800の坊舎に住まい、九州一円から信仰を集めたといわれる。表参道に並ぶ石畳、英彦山神宮の奉幣殿(国指定重要文化財)、青銅製の銅鳥居など、修験の歴史をしのばせる遺構が一帯に点在する。

豊前坊の登山口近くからは、望雲台と呼ばれる展望地に立ち寄ることができる。犬ヶ岳方面の山並みを一望できる岩棚で、鷹巣山と組み合わせて訪れる人も多い。さらに南へ進めば、樹齢約1200年と伝わる国指定天然記念物「英彦山の鬼杉」が屹立しており、これも修験道の参詣ルートに含まれてきた。

麓には英彦山スロープカーが運行されており、足元に不安のある来訪者でも奉幣殿付近まで上ることができる。添田町には「英彦山修験道館」、中津市山国町には自然と歴史を紹介する文化施設があり、登山の前後に立ち寄って予備知識を得るのに適している。

Q&A

Q「ビュート」とはどのような地形ですか?
A硬い岩盤の上層と柔らかい下層からなる地塊で、周囲の柔らかい部分が侵食されて取り除かれ、硬い上層だけが残った結果として生じる、平坦な山頂と急峻な側面を持つ孤立丘のことです。鷹巣山の三峰はいずれも、英彦山の溶岩台地の一部が侵食によって本体から切り離されてできた典型的なビュートで、文化庁の指定告示も「ビュートとして理想的形状を呈す」と記しています。
Q気軽に登れる山ですか?
Aいいえ、鷹巣山は一般登山道としては難度の高い山域です。固定ロープを使う岩場、露出度の高い崖、ルートファインディングを要する箇所が複数あります。冬期や雨後は岩が極めて滑りやすくなるため、地元では入山を控えるよう呼びかけており、岩稜歩きに不慣れな方の単独入山も推奨されません。
Q三つの峰のうちどれが一番高いのですか?
A文化庁の指定告示によれば、最も西に位置する一ノ岳が「最モ大」とされ、海抜979.3メートルに三角点が置かれています。一部の登山情報には三ノ岳をやや高く記すものもありますが、国指定の根拠資料に記録されている数値は一ノ岳の979.3メートルです。
Q英彦山と合わせて訪れることはできますか?
A可能です。豊前坊から鷹巣山登山口へ続く稜線を歩けば、英彦山北岳との縦走が成立します。半日で鷹巣三峰を、後半で英彦山表参道と奉幣殿、上宮を回るといった一日コースが多くの登山者に親しまれています。
Q適した季節はいつですか?
A晩春から初夏にかけてはシャクナゲが咲き、秋は紅葉が斜面を彩ります。いずれも気温が下がり岩が乾きやすい時期で、コンディションは安定しやすい傾向にあります。夏は雷雨のあと岩が滑ることがあり、冬は岩段に氷が張るため、いずれも難度が一段上がります。

基本情報

名称鷹巣山(たかのすやま)
指定区分国指定天然記念物
指定基準(九)風化及び侵蝕に関する現象
指定年月日1941年(昭和16年)8月1日
所在地福岡県田川郡添田町、大分県中津市(旧下毛郡山国町)
主峰一ノ岳(海抜979.3メートル、三角点)
構成西から一ノ岳・二ノ岳・三ノ岳の三峰
地質英彦山溶岩台地(筑紫溶岩)の侵食残丘
登山口薬師峠(中津市山国町側)、豊前坊(添田町側)
登山難度上級者向け。固定ロープ・急崖あり

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)——鷹巣山
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/3086
文化遺産オンライン——鷹巣山
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192342
添田町公式ホームページ——鷹巣山(たかのすやま)
https://www.town.soeda.fukuoka.jp/site/siteibunkazai/1248.html
オオイタおそと時間——鷹ノ巣山
https://oita-osoto.jp/spot/2486/
山と溪谷オンライン——鷹ノ巣山(たかのすやま)
https://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=19050

最終更新日: 2026.05.18