七ツ森古墳群:九州の高原に眠る古墳時代前期の墳墓群

大分県竹田市の西部、菅生台地の丘陵上に位置する七ツ森古墳群は、4世紀の古墳時代前期に築造された貴重な古墳群です。1959年(昭和34年)5月13日に国の史跡に指定されたこの遺跡は、大野川上流域における最古級の畿内型前方後円墳として、地方における古代文化の広がりを知る上で非常に重要な存在です。

「七ツ森」の名が示すように、かつては7基の古墳が存在していたと考えられていますが、現在残っているのは円墳2基(A号墳・D号墳)と前方後円墳2基(B号墳・C号墳)の計4基です。毎年秋になると、古墳の周囲を約20万本の彼岸花(ヒガンバナ)が真紅に染め上げ、古代のロマンと自然の美しさが見事に融合した幻想的な風景を生み出します。

古墳時代前期の九州を語る重要遺跡

七ツ森古墳群は、豊肥地区(現在の大分県・熊本県にまたがる地域)における最古の畿内型古墳と推定されており、考古学上極めて重要な遺跡です。柄鏡式の前方後円墳がこの地域に存在することは、4世紀に畿内(現在の奈良・大阪周辺)を中心としたヤマト王権の文化的影響が、遠く九州の内陸部にまで及んでいたことを示す貴重な証拠となっています。

1924年(大正13年)に実施された最初の発掘調査では、2基の前方後円墳から6面の銅鏡、勾玉、碧玉製釧(くしろ)、鹿角装刀子(ろっかくそう とうす)などの副葬品が出土しました。特に注目すべきは碧玉製釧で、破砕されて遺骸の周辺に散布された状態で発見されました。このような葬送儀礼は九州では出土例が少なく、畿内との強い文化的つながりを示唆するものです。

出土した6面の銅鏡は現在所在不明となっていますが、三角縁神獣鏡が含まれていた可能性が高いとされています。これが確認されれば、宇佐市の赤塚古墳などと並び、大分県における古墳時代研究の重要な資料となります。

4基の古墳それぞれの特徴

現存する4基の古墳には、それぞれ固有の考古学的特徴があります。

A号墳(西端の円墳)

古墳群の最も西に位置するA号墳は、基底径約20メートル、高さ約4メートルの円墳です。内部からは小型の舟形石棺が発見されており、石枕が非常に小さいことから、被葬者は生後間もない幼児であったと考えられています。支配者層の幼子がこのような丁重な埋葬を受けていた事実は、当時の社会構造を理解する上で重要な手がかりとなっています。

B号墳(最大の前方後円墳)

B号墳は全長51メートルを誇る古墳群最大の前方後円墳です。後円部の径は28メートル、高さ6メートル、前方部の幅は8メートル、高さ3メートルで、前方部が細長い柄鏡式(えかがみしき)の形態を示しています。後円部の中央からは箱形組合式石棺1基が発見され、内部には伸展葬された成人男性の遺骸が納められていました。

C号墳(第二の前方後円墳)

C号墳もB号墳と同様の柄鏡式前方後円墳で、前方部を西に向けています。1954年(昭和29年)の調査では、後円部頂上に箱形組合式石棺があることが確認され、管玉・小玉等の玉類や石釧、鹿角装刀子などが検出されました。B号墳とともに、1924年の発掘時に豊富な副葬品を産出した重要な古墳です。

D号墳(東端の円墳)

古墳群の東端に位置するD号墳は円墳で、他の3基とともに、古墳時代前期にこの地を治めた有力な豪族の墓域を構成しています。

国の史跡に指定された理由

七ツ森古墳群が1959年に国の史跡に指定された背景には、複数の重要な学術的価値があります。

第一に、前方後円墳は大野川上流域における最古級の畿内型古墳であり、ヤマト王権の文化が九州内陸部へ伝播した過程を理解する上で欠かせない存在です。第二に、墳丘がよく旧来の規模を保っており、築造当時の姿を今に伝えています。第三に、碧玉製釧や銅鏡などの出土品が畿内地方の葬送習俗との直接的なつながりを証明しており、古代日本の政治的・文化的ネットワークの研究に不可欠な資料となっています。さらに、円墳に見られる古式の石棺は、この地方独自の葬送文化を知る上でも価値が高いとされています。

約20万本の彼岸花が織りなす絶景

七ツ森古墳群は、古墳そのものの歴史的価値に加え、毎年9月に一面を彩る彼岸花の名所としても広く知られています。約600坪(約2,000平方メートル)の敷地に、約20万本もの真紅の彼岸花が咲き誇る光景は圧巻の一言です。

この見事な花の風景には、地域の方々の献身的な努力が隠されています。昭和29年(1954年)頃から荒廃していた古墳の敷地を地元住民が整備し始めたことがきっかけで、野生の彼岸花が徐々に広がっていきました。群生している場所の多くは自然に増えた野生の彼岸花であり、人の手と自然の力が調和して生まれた景観です。

毎年9月中旬には「七ッ森彼岸花祭り」が開催され、彼岸花の見頃は例年9月20日前後です。また、8月中旬にはヒガンバナ科のキツネノカミソリ(オレンジ色の花)が見頃を迎え、こちらも美しい風景を楽しめます。

大林宣彦監督の映画「22才の別れ」(2007年)では、回想シーンにこの彼岸花の風景が使用され、全国的にも知名度が高まりました。

周辺の見どころ

七ツ森古墳群は国道57号線沿いというアクセスの良さも魅力で、竹田市内の他の観光スポットと組み合わせた一日観光が楽しめます。

古墳群から国道57号線を約2キロ先に進むと「道の駅すごう」があり、地元産の新鮮野菜や、創業50年以上の歴史を持つ「丸福」の唐揚げ・とり天が人気です。菅生台地は高原野菜やスイートコーンの名産地としても知られています。

車で約15分の竹田市中心部には、日本百名城のひとつ「岡城跡」(国指定史跡)がそびえます。滝廉太郎が名曲「荒城の月」の着想を得た場所として有名で、標高325メートルの高台から望むくじゅう連山や阿蘇山の絶景は訪れる人の心を打ちます。春の桜まつりや秋の紅葉も見事です。

竹田の城下町は、白壁の武家屋敷や石畳の小路が残る風情ある町並みです。「瀧廉太郎記念館」や世界的建築家・隈研吾氏が設計した「歴史文化館 由学館」なども見どころです。また、竹田市には日本有数の炭酸泉として知られる長湯温泉もあり、文化探訪の一日を温泉で締めくくるのもおすすめです。

Q&A

Q七ツ森古墳群の入場料はかかりますか?
A入場無料です。年間を通じて自由に見学できます。彼岸花の時期には地元の方々による新鮮野菜の販売テントが出ることがありますが、入場料は不要です。
Q訪問に最適な時期はいつですか?
A最も人気のある時期は、彼岸花が満開となる9月中旬~下旬(例年9月20日前後が見頃)です。ただし、古墳そのものは通年で見学可能です。8月中旬にはオレンジ色のキツネノカミソリも咲き、季節ごとに異なる風情を楽しめます。
Q古墳に登ったり中に入ったりできますか?
A国指定史跡のため、古墳に登ったり内部に入ったりすることはできません。古墳の周囲を歩いて間近から見学することは可能です。
Qアクセス方法を教えてください。
A国道57号線沿いにあり、車でのアクセスが便利です。JR豊肥本線の豊後竹田駅から車で約10~15分、熊本方面に向かって進みます。約1~2km先に道の駅すごうがあり、目印になります。敷地内に駐車スペースがあります。
Q出土品はどこで見られますか?
A残念ながら、大正時代の発掘で出土した銅鏡6面は現在所在不明です。1954年の調査で出土した玉類等の一部は、大分県立埋蔵文化財センターや竹田市の関連施設で展示されることがあります。企画展等の情報は事前にご確認ください。

基本情報

名称 七ツ森古墳群(ななつもりこふんぐん)
指定 国指定史跡(1959年〈昭和34年〉5月13日指定)
時代 古墳時代前期(4世紀)
構成 前方後円墳2基、円墳2基(もとは7基あったとされる)
最大墳丘 B号墳:全長51m、後円部径28m、高さ6m
所在地 〒878-0013 大分県竹田市菅生戸上370-2(国道57号線沿い)
管理団体 竹田市
入場料 無料
アクセス JR豊肥本線 豊後竹田駅から車で約10~15分
お問い合わせ 竹田市商工観光課 TEL: 0974-63-4807

参考文献

七ツ森古墳群 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/206763
七ツ森古墳群 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E3%83%84%E6%A3%AE%E5%8F%A4%E5%A2%B3%E7%BE%A4
七ツ森古墳群 | おおいた文化財ずかん
https://oita-digitalzukan.jp/cultural_property/%E4%B8%83%E3%83%84%E6%A3%AE%E5%8F%A4%E5%A2%B3%E7%BE%A4/
国指定史跡 七ツ森古墳群 | たけ旅(竹田市観光ツーリズム協会)
https://taketa.guide/spots/detail/c5a7188b-bfc6-4f41-9aec-05dbbf04cedd
七ッ森古墳群(国指定史跡)| 竹田市公式サイト
https://www.city.taketa.oita.jp/bunka_rekishi_kanko/bunkazai/siteibunkazai/9213.html
七ツ森古墳の彼岸花 | 大分県観光情報公式サイト
https://www.visit-oita.jp/spots/detail/6039
七ツ森古墳群 — 全国こども考古学教室
https://kids-kouko.com/historical_site/kyushu_okinawa/pref_oita/822/

最終更新日: 2026.03.03