東は洋館、西は和風の住まい

定金家住宅主屋は、岡山県浅口市金光町大谷にある大正6年(1917年)頃の木造住宅で、平成18年(2006年)3月27日に国の登録有形文化財に登録された。

東を正面として建つ。道路から見えるのは洋館である。木造2階建、正面中央の玄関を境に左右対称、壁と柱を塗り分けているため木部の線が濃く浮かび上がる。ところが西半分に回り込むと、瓦葺の和風住宅になっている。一棟のなかに二つの建築言語が、接続の言い訳をせずに同居している。

洋館部分は歯科医院だった。定金家はここで診療を行い、玄関を挟んだ左右の部屋を待合と診察にあて、背後の和風部分で暮らした。建築面積は90平方メートル。

門前町のスティックスタイル

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の解説は、その根拠を具体的に挙げている。

外観はスティックスタイル風とされる。19世紀後半のアメリカで流行した様式で、壁面に縦横の板を打ち付けて背後の軸組を表現する。ハーフティンバーと見誤られやすいが、部材が細く、しかも構造的な役割を負っていない点が違う。この住宅では柱や窓枠にフルーティング(縦溝)が施されており、古典建築の円柱に使われる手法が木造住宅の細部に転用されている。

視線を上へ引く要素が二つある。縦長窓の上に載る櫛形ペディメント。そして妻飾のハンマービームトラス。後者は中世イングランドの小屋組を模したもので、当然ながら荷重は負っていない。90平方メートルの住宅に、意味としてだけ置かれた引用である。

設計者については、岡山県の技師・江川三郎八の作とする資料が複数ある。高梁川流域のデジタルアーカイブも、江川設計の建造物としてこの住宅を挙げている。ただし国のデータベースに設計者の記載はないため、地域の研究に基づく見解として受け止めるのが正確だろう。

見学の作法と周辺の建物群

この住宅は個人所有で、内部は公開されていない。地域の文化財案内も見学は外観のみと明記している。建物が面しているのは住宅地の生活道路であり、そこには今も人が住んでいる。道路から眺めるにとどめ、敷地には立ち入らないこと。

立地を知ると建物の性格が見えてくる。大谷は金光教の本部が置かれた土地で、幕末に始まったこの教団の門前町として発展した。西日本各地から参拝者が集まり、人の流れが金銭を呼び、金銭が新しい建築様式を試みる余地を生んだ。浅口市の国登録有形文化財は現在21件を数える。市の規模を考えれば異例の多さで、その相当数が定金家住宅から歩ける範囲にある。

金光教徒社の東棟・中央棟・西棟、金光教教学研究所の客殿と洋館、姫井家住宅主屋および長屋門、金光学園中学高等学校記念講堂。いずれも近代和洋の折衷を試みた建物で、まとめて歩けば大谷という土地が明治から昭和初期にかけて何を志向していたかが輪郭を結ぶ。

アクセスはJR山陽本線金光駅から。駅から大谷の集落へ歩けば、これらの建物の大半を通り過ぎることになる。道路からの撮影に問題はないが、私邸の庭にレンズを向けるのは避けたい。入場券を売る窓口も案内所もない場所である。得られるのは、観光のために整えられていない建物を静かに40分ほど眺める時間だ。

Q&A

Q定金家住宅主屋の内部は見学できますか。
Aできません。個人所有の住宅で、見学は道路からの外観のみとされています。拝観の受付や見学者向けの設備はありません。居住者の生活があるため、敷地内への立ち入りはご遠慮ください。
Q定金家住宅主屋はいつ建てられ、何に使われていましたか。
A国のデータベースは大正6年(1917年)頃としています。歯科医院と住居を兼ねた建物で、東半分の洋館が診療部分、西半分の和風住宅が生活の場でした。
Q定金家住宅主屋の建築様式は何ですか。
A文化庁の解説はスティックスタイル風としています。壁面に打った板で軸組を表現し、柱や窓枠に縦溝を刻み、縦長窓の上に櫛形ペディメントを置き、妻飾にはハンマービームトラスを模した装飾を用いています。
Q定金家住宅主屋の設計者は誰ですか。
A岡山県の技師であった江川三郎八の設計とする資料が複数あります。ただし国指定文化財等データベースに設計者の記載はなく、地域の研究による見解として扱うのが適当です。
Q定金家住宅主屋の周辺にはほかに見るべき建物がありますか。
A大谷地区には金光教徒社3棟、金光教教学研究所3棟、姫井家住宅主屋および長屋門、金光学園中学高等学校記念講堂など、国登録有形文化財が集中しています。JR金光駅から歩いてまとめて見ることができます。

基本情報

名称定金家住宅主屋
所在地岡山県浅口市金光町大谷229-14
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号33-0112 基準:造形の規範となっているもの
指定年平成18年(2006年)3月27日登録/同年4月12日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積90平方メートル
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況外観のみ見学可。内部は非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 定金家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005504
文化遺産オンライン 定金家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/170812
浅口市ホームページ 浅口市内の国登録有形文化財一覧
https://www.city.asakuchi.lg.jp/page/2031.html
高梁川流域キッズ 定金家住宅主屋
https://kids.takahashiryuiki.com/building/

最終更新日: 2026.08.06