本丸に残った、ただ一棟
岡山城月見櫓は、岡山県岡山市北区丸の内の岡山城本丸中の段北西隅に建つ江戸時代前期の隅櫓で、昭和8年(1933年)1月23日に国の重要文化財に指定された。
最盛期の岡山城には三十五棟ほどの櫓が並んでいたと、岡山市教育委員会文化財課は記す。本丸に残ったのは、この一棟である。
失われ方は二段階だった。明治の廃城処分で御殿と門と櫓の大半が解体され、昭和20年(1945年)6月29日夜の岡山空襲で天守が石垣を残して焼け落ちた。現在の天守は昭和41年(1966年)の鉄筋コンクリート再建で、令和4年(2022年)11月に「令和の大改修」を終えている。黒い下見板張りの天守に対し、月見櫓は総白壁の漆喰造り。並べて見たときの色の落差は、そのまま建てられた時期の違いを示している。
建てたのは池田忠雄である。元和元年(1615年)から寛永9年(1632年)まで岡山城主を務めた人物で、中の段の拡幅工事に合わせてこの櫓を上げた。国指定文化財等データベースは年代を忠雄の在城期間そのままの幅で記載するが、岡山市は建築時期を1620年代と絞り込んでいる。
外は最新の軍備、内は御殿の設え
この建物の性格は、立つ位置を変えると裏返る。城外の北西から見上げれば二階建て、城内の南東から見れば三階建てに映る。地盤が水平ではなく、外側が石垣によって一段高く持ち上げられているためだ。
外向きの面は、徹底して戦うための造りである。一階の床下には穴蔵式の地階が隠れ、外からはその存在すら判りにくい。一階の床板は引き上げ式の戸板になっていて、有事にはこれを開いて地階との行き来ができる。城外側の石塁頂部には、ほぼ一間おきに銃眼が穿たれる。一階の西面と北面には格子の入った出格子窓が張り出し、それぞれに石落とし(俯射装置)が組み込まれている。二階では、西面の千鳥破風の裏が小部屋となり、そこから外を監視し、銃砲を撃つ仕掛けが用意されていた。
ところが城内側に回ると、語彙が入れ替わる。
二階の東面と南面には手摺付きの縁側がめぐり、雨戸を立てて閉じることも、広く開け放つこともできる。その内側には明かり障子。柱には釘隠しの装飾が施され、床には畳が敷かれていた形跡が残る。御殿建築に準じた設えである。櫓の名は飾りではない。城主はここで戸を開け放ち、旭川の上に昇る月を眺めたのだろう。
岡山市は、この表裏の落差を時代相の反映と読む。大坂の陣で豊臣家が滅び、戦乱の危機が急速に遠のいた元和偃武の時期。軍事技術が極度に発達しきったところで、それを使う必要が消えた。両方の事実が一棟のなかに同居している。
石垣の隅角を見る、そして十一月を待つ
木造部だけを見て帰るのは惜しい。
櫓台の石垣は、瀬戸内海に浮かぶ犬島(岡山市東区犬島)産とみられる花崗岩の割石を打ち込み接ぎで積んだものである。とりわけ隅角部の処理に目が留まる。加工度の高い長方形の石材を用意し、その長辺を一段ごとに左右へ振り分けて重ねる算木積みで、緊張した曲線を描いて立ち上がっていく。月見櫓の南と東に続く塀の石垣頂部には、半円形の刳りを入れた切石の銃眼が組み込まれており、徳川期大坂城などと共通する手法が確認できる。
外観の見学に費用はかからない。月見櫓は烏城公園の中にあり、本丸中の段まで無料で立ち入って写真を撮ることができる。入場料が要るのは天守だけで、15歳以上500円、中学生以下は無料。開館は9時から17時30分(最終入場17時)、年末の12月29日から31日は休館となる。
内部は別扱いになる。岡山市は毎年、文化庁が提唱する文化財保護強調週間(11月1日から7日)に合わせて月見櫓の内部を一般公開している。予約不要、入場無料、写真撮影も可能。令和7年(2025年)は11月1日から3日まで、各日9時30分から16時30分に公開され、混雑緩和のため少人数ずつ案内する方式がとられた。3日間で延べ2000人ほどが訪れたという。日程は毎年秋に岡山市と岡山城の公式サイトで告知される。気象条件によっては中止されることもある。
アクセスはJR岡山駅から。東山行きの路面電車で約5分、「城下」電停で下車して徒歩10分ほどで本丸に着く。廊下門を抜けて中の段に上がると、天守の北西側に白い姿が見えてくる。
Q&A
- 岡山城月見櫓の内部は見学できますか。公開日はいつですか。
- 年に一度、文化財保護強調週間に合わせた11月初旬に内部が一般公開されます。予約不要、入場無料で、写真撮影もできます。それ以外の時期は外観のみの見学となり、烏城公園内から自由に眺めることができます。
- 岡山城月見櫓へのアクセス方法を教えてください。
- JR岡山駅から東山行きの路面電車に乗り、約5分の「城下」電停で下車して徒歩10分ほどです。所在地は岡山市北区丸の内で、本丸中の段の北西隅、天守の北西側に建っています。
- 岡山城月見櫓は当時のままの建物ですか。再建ではないのですか。
- 現存建築です。明治の廃城処分と昭和20年(1945年)6月29日の岡山空襲をくぐり抜け、本丸で唯一残った建造物です。隣接する天守は空襲で焼失し、昭和41年(1966年)に鉄筋コンクリートで再建されました。
- 岡山城月見櫓という名前はどこから来ているのですか。
- 二階の城内側に手摺付きの縁側と雨戸、明かり障子が設けられ、畳が敷かれていた形跡が残ります。御殿建築に準じた設えで、四季の眺望や小宴に向いた造りになっており、月見もその一つと考えられています。
- 岡山城月見櫓を見るのに入場料は必要ですか。
- 外観の見学は無料です。烏城公園と本丸中の段は自由に立ち入ることができ、撮影も可能です。入場料が必要なのは天守内部のみで、15歳以上500円、中学生以下は無料となっています。
- 岡山城月見櫓が二階建てにも三階建てにも見えるのはなぜですか。
- 敷地の地盤が水平でないためです。城外の北西側は石垣によって一段高く持ち上げられており、地階が隠れて二階建てに見えます。城内の南東側からは三つの層がそのまま見えます。
基本情報
| 名称 | 岡山城月見櫓(おかやまじょうつきみやぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県岡山市北区丸の内 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/近世以前・城郭 |
| 指定年 | 昭和8年(1933年)1月23日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 二重二階隅櫓、一部地階、本瓦葺。地階・一階は桁行(東西)五間・梁間(南北)四間で約9.79メートル×約7.94メートル、二階は方形で一辺約5.03メートル、棟高約13.8メートル |
| 所有者 | 岡山市 |
| 公開状況 | 外観は烏城公園内から通年無料で見学可。内部は年1回、11月初旬に一般公開(無料・予約不要・撮影可) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)岡山城月見櫓
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2998
- 岡山市 重要文化財(建造物)岡山城月見櫓
- https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000004948.html
- 岡山城公式ウェブサイト 国指定重要文化財 岡山城月見櫓
- https://okayama-castle.jp/honmaruguide/29.html
- 岡山市 岡山城月見櫓の特別公開
- https://www.city.okayama.jp/kankou/0000044729.html
- 文化遺産オンライン 岡山城跡
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/202586
- 岡山城公式ウェブサイト 利用案内
- https://okayama-castle.jp/guide/
最終更新日: 2026.08.06