はじめに
岡山県北部の山間に佇む奥津温泉。その温泉街の中心に、ひときわ風格ある木造建築が旅人を迎えています。奥津荘本館(おくつそうほんかん)は、昭和2年(1927年)に創業した老舗旅館の主要建築物であり、平成30年(2018年)11月に国の登録有形文化財に登録されました。唐破風の堂々とした玄関、深い軒、一階全面を覆う格子戸が織りなす立体的な外観は、奥津温泉の歴史的景観の核をなしています。足元から湧き出る源泉かけ流しの名湯「鍵湯」とともに、日本の木造旅館建築の美と伝統を今に伝える貴重な存在です。
歴史的背景
奥津温泉の歴史は遥か昔に遡ります。江戸時代、津山藩の初代藩主・森忠政がこの温泉のあまりの素晴らしさに感激し、村人に使わせまいと鍵をかけたことから「鍵湯」の名が生まれました。権力者の独占欲から始まった逸話は、四百年の時を経て、名湯のブランドとして語り継がれています。
奥津荘は昭和2年(1927年)、この鍵湯の湧出地の真上に建てられました。創業以来、第29代内閣総理大臣・犬養毅や、世界的版画家・棟方志功など、多くの著名人が訪れています。特に棟方志功は昭和20年代に度々滞在し、館内に多くの作品を残しました。平成16年(2004年)には昭和2年の基礎を残しながら全館リニューアルが行われ、平成30年(2018年)11月2日に本館が正式に国の登録有形文化財に登録されました。
文化財指定の理由
奥津荘本館が登録有形文化財に登録された理由は、温泉街の歴史的景観の核をなす優れた建築的特徴にあります。本館は木造総二階建て、入母屋造桟瓦葺で、棟を矩折れ(かねおれ)に配した特徴的な構成を持ちます。正面北端には唐破風の玄関を設け、その上に大屋根の妻面を重ねる堂々とした意匠が見る者を圧倒します。一階全面に並んだ格子や、出桁造(だしげたづくり)による深い軒など、立体感のある外観が奥津温泉の街並みに歴史的な風格を与えており、温泉街全体の景観形成に不可欠な存在として高く評価されました。
建築の見どころと魅力
奥津荘本館に足を踏み入れると、日本建築の繊細な美意識に包まれます。格天井、窓格子、温もりある木の質感が館内随所に見られ、玄関には棟方志功の版画作品が飾られ、芸術的な雰囲気を醸し出しています。
館内には趣の異なる4つの浴場があります。最大の見どころは、吉井川の自然の川底をそのまま利用した「鍵湯」です。約42.6℃の源泉が足元から直接湧き出す「足元湧出泉」は、日本の温泉のわずか0.001%にしか見られない極めて稀なものです。「立湯」は水深約120センチの深い浴槽に立って入る独特の入浴スタイルを楽しめます。さらに、ステンドグラスが美しい「泉の湯」と川のせせらぎが心地よい「川の湯」の2つの貸切風呂も無料で利用できます。
泉質はアルカリ性単純泉(ラジウム含有)で、美肌効果に優れ、神経痛・筋肉痛・慢性消化器病などに効能があるとされています。源泉が浴槽内に直接湧出するため、加温・加水・循環は一切不要。外気に触れることなく生まれたての湯に浸かるという、この上ない贅沢が味わえます。
客室はわずか8室。純和風から和モダンまで、それぞれ異なる趣を持つ客室からは吉井川の渓流を望むことができます。料理は岡山県産・奥津産の食材を中心に、千屋牛の源泉しゃぶしゃぶや郷土料理のそずり鍋など、この土地ならではの味覚を堪能できます。
来訪者情報
宿泊は12歳以上の方を対象としており、公式サイトや各種予約サイトから予約が可能です。日帰り入浴は10時45分から14時30分(最終受付14時)まで利用でき、料金は大人1,100円、小人(3歳以上)500円です。中国自動車道・院庄インターチェンジから国道179号線経由で約25分。JR津山駅からは中鉄バスで約60分。大阪・なんばからは高速バスで約2時間50分、奥津温泉口下車徒歩約5分です。宿泊者用の無料駐車場(10台)があり、到着時にスタッフが車を移動してくれます。
周辺の見どころ
奥津エリアは豊かな自然に恵まれています。吉井川沿いの奥津渓は、特に秋の紅葉シーズンに見事な景観を見せ、散策路を歩きながら色鮮やかなモミジやケヤキを楽しむことができます。近くにある「道の駅 奥津温泉」では、地元の農産物や工芸品、季節の特産品が手に入ります。奥津温泉は「美作三湯」の一つに数えられ、湯郷温泉や湯原温泉と合わせた温泉巡りも人気です。城下町・津山までは車で約40分。桜の名所として知られる津山城跡(鶴山公園)や、江戸時代の町並みが残る城東地区など、見どころが豊富です。
Q&A
- 「鍵湯」の何が特別なのですか?
- 鍵湯は日本でも極めて稀な「足元湧出泉」です。約42.6℃の源泉が自然の川底から直接浴槽内に湧き出すため、加温・加水・循環が一切不要。外気に触れていない、生まれたてのピュアな温泉にそのまま浸かることができます。
- 宿泊せずに日帰り入浴はできますか?
- はい、日帰り入浴は10時45分から14時30分(最終受付14時)まで利用可能です。料金は大人1,100円、小人(3歳以上)500円です。休館日やメンテナンス日は不定期のため、事前にお電話(0868-52-0021)でご確認ください。
- 本館が文化財に登録された理由は?
- 昭和2年築の木造建築が持つ唐破風の玄関、格子戸の並ぶ外観、出桁造の深い軒などの優れた意匠が、奥津温泉街の歴史的景観の核をなしていると評価され、平成30年に国の登録有形文化財に登録されました。
- アクセス方法を教えてください。
- お車の場合、中国自動車道・院庄ICから国道179号線経由で約25分です。公共交通機関の場合、JR津山駅から中鉄バスで約60分。大阪・なんばからは高速バスで約2時間50分、奥津温泉口下車徒歩約5分です。
- 子供は宿泊できますか?
- 宿泊は12歳以上の方に限定されています。静かでゆったりとした滞在を楽しんでいただくための方針です。
基本情報
| 名称 | 奥津荘本館(おくつそうほんかん) |
|---|---|
| 所在地 | 〒708-0503 岡山県苫田郡鏡野町奥津字湯ノ前49 |
| 所有者 | 有限会社奥津荘 |
| 建築年 | 昭和2年(1927年) |
| 構造 | 木造総二階建、入母屋造桟瓦葺 |
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物)、平成30年(2018年)11月2日登録 |
| 泉質 | アルカリ性単純泉(ラジウム含有)、足元湧出、約42.6℃ |
| 客室数 | 8室 |
| アクセス | 中国自動車道 院庄ICより約25分/JR津山駅より中鉄バスで約60分 |
| 電話番号 | 0868-52-0021 |
| 公式サイト | https://okutsuso.com/ |
参考文献
- 奥津荘本館 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/443166
- 奥津温泉 奥津荘 公式サイト
- https://okutsuso.com/
- 登録有形文化財の宿 名泉鍵湯 奥津荘 - 一休.com
- https://www.ikyu.com/00000993/
- 湯は、地球からの贈り物である。 - 湯道百選
- https://yu-do100.jp/publicbath/71a/
- 名泉鍵湯 奥津荘 - Discover Japan
- https://discoverjapan-web.com/article/15888
- 登録有形文化財の宿 名泉鍵湯 奥津荘 - Relux
- https://rlx.jp/25409/
- 名泉鍵湯奥津荘 - やど日本
- https://www.ryokan.or.jp/inn/66031
- 奥津荘 - 有形文化財の宿 あこがれホテル
- https://akogare.jp/hotels/recYsMNifPL8A0DKZ
最終更新日: 2026.04.08