東平安名崎——宮古島の東端、琉球石灰岩がつくる風衝の岬
宮古島の東南端から海に向かって突き出した、長さおよそ2キロメートル、幅120〜250メートルほどの細長い岬である。標高約20メートルの平坦な台地が、切り立った琉球石灰岩の海食崖に囲まれて緑色の細片のように海へ伸びていく。文化庁は2007年(平成19年)2月6日付でこの岬を国の名勝に指定した。指定基準は「八.砂丘、砂嘴、海浜、島嶼」。指定の理由は単なる風景の美しさではなく、琉球石灰岩のカルスト地形、それを取り巻く珊瑚礁、そして年中吹き続ける強風が育てた固有の植物群落という三つの要素が一体となって、宮古島の風土を凝縮した景勝地を成していることにある。
宮古島の方言で東を「あがり」と読むことから、地元では「あがりへんなざき」と呼ぶ人もいる。宮古空港から県道を東へ車でおよそ30〜35分、駐車場から先端の灯台までは舗装された遊歩道が続く。道は平坦だが、風はほぼ常に吹いている。
岬の形と地形
東平安名崎の特徴のひとつは、岬全体の幅が比較的安定していることである。基部から中央部までは約120〜180メートル、中央部から先端部にかけて約200〜250メートルへとわずかに広がる。台地の上面は海側へ緩やかに傾き、海食崖の各所に小さな凹地が刻まれている。崖の下を覗くと、琉球石灰岩特有のごつごつした表情が露出しており、塩を含んだ風と波が長い時間をかけて削り出した造形だと分かる。
岬を取り巻く海は珊瑚礁の海である。北東岸には幅約380メートルの発達した珊瑚礁が広がり、そこからさらに東方には幅約120メートルの水路を隔てて、東西約2キロメートル、南北約1キロメートルの楕円状の離礁が横たわっている。礁原の上には岬の崖から崩落したと見られる琉球石灰岩の岩塊が散在し、なかでも先端部の周辺に立つ最大径6〜8メートルにおよぶ巨岩は「津波石」と呼ばれている。1771年(明和8年)の八重山地震津波(明和の大津波)によって打ち上げられたとする伝承があるが、指定文では具体的な津波の年代までは特定されていない。離礁上に点在する別の巨岩群は、地元で「パナリ」と呼ばれる。
名勝指定の根拠——地形と植生の重なり
指定文が記すこの岬の価値は、地形と植物相が分かちがたく結びついた点にある。崖と礁、そして散らばる岩塊が一体の海岸地形として読めること。そしてその上に、年中吹きやまぬ風が育てた固有の植物相が広がっていること。高木は風で育たないため、地を這うように低く伸びる木本と、痩せた石灰岩土壌で生き抜く草本が、亜熱帯の風衝地に特有の組み合わせをつくっている。
植物地理学の観点から見て、東平安名崎は北限の地でもある。テンジクナスビ、ミヤコジマソウ、ミヤコジマツルマメといった草本類は、自然分布の北限をこの岬で示しており、本州・四国・九州方面へ広がらない琉球弧の植物相を知るうえで重要な参照点となっている。一方、テンノウメ(バラ科)は北東岸の急崖の縁を覆うように群落をなし、その分布規模は他に類例がないと指定文に明記されている。ミズガンピ、イソマツなどの木本、グンバイヒルガオ、ハマウド、ハマボッス、コウライシバなどの草本も、それぞれの居場所を見つけている。
歩いて見えてくるもの
現地に立つとまず気づくのは、視界の広さよりも風の強さである。低く枝を絡めた潅木が斜面に張りつき、遊歩道が崖縁に近づくと、左に東シナ海、右に太平洋が同時に視野に入ってくる。日本国内で二つの海を陸上から同時に見渡せる場所は数少なく、この点は東平安名崎が代表的観光地として知られる理由の一端でもある。
季節によって表情は大きく変わる。4月下旬から5月上旬にかけて、岬全体にテッポウユリ(鉄砲百合)が一斉に開き、白い帯が緑の上に重なる。夏には濃い海色と空の輝度が増し、秋から冬は北からの強風が支配する。星空観察の名所としても挙げられることが多く、岬の周辺に人工灯がほとんどないため、晴れた夜には肉眼で天の川を識別できる。駐車場から灯台までの遊歩道には街灯がないので、夜間に訪れる場合は懐中電灯を持参するのが現実的である。
先端に立つのが平安名埼灯台である。1967年(昭和42年)3月27日に初点灯したこの灯台は、日本国内で参観できる(登れる)灯台16基のうちの1基にあたる。塔高は24.5メートル、内部の螺旋階段は97段。最上部の回廊からは、岬が西へ細く伸びていく姿を含めて約360度の海原を一望できる。入場には大人300円程度の参観料が必要で、開放時間は季節によって変動するため、訪問前に最新の運用状況を確認するとよい。
マムヤの伝承
東平安名崎には、宮古島で広く知られる悲恋の伝承が結びついている。岬の北西約6キロメートルに位置する野城(のぐすく)の按司(あじ)は、すでに妻子のある身でありながら、平安名(ピャウナ)の集落で機を織る娘マムヤと恋に落ちた。叶わぬ恋を悟ったマムヤは岬の岩陰に身を潜めて機を織り続け、自分を探し求める按司を振り切って、ついに崖から海へ身を投じたという。
マムヤを謳った古謡や民謡は、現在も宮古島に歌い継がれている。岬の北東岸の崖地には、彼女が身を隠して機を織ったと言われる小洞穴と、彼女の墓と伝えられる岩陰墓が残されており、地形そのものが物語の舞台として記憶を担っている。事実関係は確かめようがないが、地元の人々にとってこの海岸線は、単に景勝地である以前に、ひとつの物語の地である。
周辺の見どころ
宮古島の東側は、与那覇前浜や砂山ビーチが並ぶ西側・北側のリゾート地帯とは異なる、素朴な顔つきの地域である。岬の内陸はサトウキビ畑と低い石灰岩の丘陵、そして旧城辺町の集落が広がる。岬から車で数分戻った吉野海岸は宮古島でも有数のシュノーケリングポイントとして知られ、透明度の高い海ではウミガメに出会う機会も多い。岬の北西、崖の真下に位置する保良(ほら)漁港からは、灯台が立つ石灰岩の崖を海面の高さから見上げることができる。
元旦には日の出を見るために多くの人が訪れる。宮古島の最東端という地理的条件から、本島内ではもっとも早く朝日が昇る場所のひとつとして親しまれている。
Q&A
- 岬の滞在時間はどれくらいを見ておけばよいですか?
- 駐車場から灯台まで往復し、灯台に登る時間を含めて1時間〜1時間半が目安です。写真撮影や植物観察を目的とする場合は、もう少し時間に余裕を持たせることをおすすめします。
- 平安名埼灯台には登れますか?
- 登れます。全国に16基ある参観灯台のひとつで、97段の螺旋階段を上ると塔頂の回廊に出ます。大人300円程度の参観寄付金が必要です。開放時間は季節により異なるため、訪問日が決まったら宮古島観光協会の最新情報を確認してください。
- テッポウユリはいつ咲きますか?
- 概ね4月下旬から5月上旬にかけてが見頃ですが、その年の気温と降水によって前後します。岬全体が白い花で覆われる様子は、この季節限定の景観です。
- 強風や台風のときも訪問できますか?
- 岬全体が海風に直接さらされる地形のため、台風時や大時化のときは訪問を控えるのが安全です。冬の北風も強烈で、遊歩道が崖縁を通る区間もあります。風の強い日は帽子や荷物に気を配り、お子様連れの場合は手を放さないようにしてください。
- レンタカーを使わずに行けますか?
- 宮古島の東端まで運行する路線バスは限定的です。レンタカー以外では、平良市街地や宮古空港からのタクシー利用が現実的です。観光タクシーの半日コースに東平安名崎を含めるプランもあります。
基本データ
| 名称 | 東平安名崎(ひがしへんなざき) |
|---|---|
| 所在地 | 沖縄県宮古島市城辺 |
| 指定区分 | 名勝(国指定) |
| 指定年月日 | 2007年(平成19年)2月6日 |
| 指定基準 | 八.砂丘、砂嘴、海浜、島嶼 |
| 規模 | 岬の長さ約2km。幅は基部〜中央部で約120〜180m、中央部〜先端部で約200〜250m。台地の標高約20m |
| 主な植生 | テンノウメ群落(規模国内随一)、ミズガンピ、イソマツ、グンバイヒルガオ、ハマウド、ミヤコジマソウ、ハマボッス、コウライシバなど |
| アクセス | 宮古空港から車で約30〜35分 |
| 施設 | 無料駐車場、遊歩道、公衆トイレ、平安名埼灯台(参観有料) |
| その他 | 日本百景、日本の都市公園100選に選定。先端の平安名埼灯台は日本の灯台50選 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース「東平安名崎」(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/00003524
- 宮古島観光協会公式サイト「東平安名崎(ひがしへんなざき)灯台」
- https://miyako-guide.net/spots/spots-529/
- Meets More MIYAKOJIMA(宮古島観光協会)「東平安名崎(ひがしへんなざき)灯台」
- https://miyako-island.net/beach_and_spot/beach_spot_035/
- ANAジャパントラベルプランナー「東平安名崎」
- https://www.ana.co.jp/ja/jp/japan-travel-planner/okinawa/0000019.html
最終更新日: 2026.05.18