喜友名泉(ちゅんなーがー)― 琉球の石造技術が息づく国指定重要文化財の湧水

沖縄県宜野湾市の喜友名地区にひっそりと佇む「喜友名泉(ちゅんなーがー)」。かつて集落の人々の暮らしを支えた二つの石造湧泉は、1992年に国の重要文化財に指定され、琉球王国時代から受け継がれてきた優れた石造技術と、沖縄の水文化の記憶を今に伝えています。海やリゾートだけではない、沖縄の奥深い歴史と文化に触れることのできる貴重なスポットです。

喜友名泉とは

喜友名泉は、喜友名集落の共同井戸として長く利用されてきた二つの石造湧泉「ウフガー」と「カーグヮー」、そしてそれらを囲む水路・石垣・進入路(120.7メートル)からなる遺構です。集落のある高台から約25メートルの高低差がある急な坂道を100メートルほど下ったところに位置しています。

沖縄の方言で井戸や湧水のことを「カー」(または「ガー」)と呼びます。琉球王国時代、集落は水源を中心に形成されており、「村ガー」と呼ばれる共同井戸は人々の暮らしの要でした。沖縄には大きな河川がなく、琉球石灰岩の地質を通じて地下水が湧き出すことで、各地に湧水が生まれました。喜友名泉はそうした沖縄の水文化を代表する存在です。

なぜ重要文化財に指定されたのか

喜友名泉が1992年(平成4年)8月10日に国の重要文化財(建造物)に指定された理由は、大きく二つあります。

第一に、その卓越した石造技術です。主要部の石垣は19世紀前期頃の築造とされ、巨石を用いた石積みの技法には、琉球の伝統的な石造技術の粋が凝縮されています。大きな石材を精緻に組み合わせた構造は、数百年にわたる亜熱帯の気候にも耐え、今なお堂々たる姿を保っています。

第二に、沖縄県を代表する石造井泉としての文化的価値です。湧泉そのものだけでなく、周囲の水路、石垣、集落から井泉に至る坂道までを含む一体的な水利施設として、琉球の集落がどのように水資源を管理し、日々の生活を営んでいたかを物語る貴重な文化遺産です。

見どころ・魅力

ウフガー(男性用の泉)

ウフガーは主に男性や家畜が使用した大きな泉です。田畑での農作業を終えた男性が体を洗い、牛や馬の水浴びにも使われていました。広々とした造りは、その用途を反映しています。また、ウフガーの水には深い精神的な意味もありました。正月に汲む「ワカミジ(若水)」や、生まれた子を清める「ウブミジ(産水)」もここから汲まれ、集落の人々の一生に寄り添う神聖な水源でした。

カーグヮー(女性用の泉)

カーグヮーは女性と子どもが利用した泉です。飲料水を汲みやすいように樋口(ひぐち)が設けられており、日常の飲み水のほか、野菜洗いや洗濯、水浴びにも使われました。水を受ける仕組みが丁寧に工夫されており、毎日水を汲む女性たちへの配慮が感じられます。

進入路(石畳の坂道)

集落から泉まで続く120.7メートルの坂道も、重要文化財の構成要素のひとつです。25メートルもの高低差がある急勾配の曲がりくねった道を、かつて女性たちは毎日何度も重い水甕を抱えて往復しました。この坂道を実際に歩くことで、水の確保がいかに大変な日課であったかを体感することができます。

圧巻の石積み

喜友名泉最大の見どころは、やはりその石造技術です。琉球石灰岩の巨石を精密に組み上げた石垣は、琉球王国時代の高度な石工技術を今に伝えています。城(グスク)の石垣にも通じる堅牢で美しい石積みは、建築や歴史に関心のある方にとって特に興味深いものでしょう。

歴史的背景 ― 集落の命の水から文化財へ

喜友名集落は、高台の平坦地に位置し、琉球王国時代に碁盤の目のように区画整理された古い集落の面影を今も残しています。水道が整備される昭和40年代まで、喜友名泉は集落の人々にとって欠かすことのできない水源でした。

第二次世界大戦後、喜友名地区の一部は米軍基地キャンプ瑞慶覧に接収され、湧泉のほとんどが基地内に入ったため、長い間一般の立ち入りが制限されていました。2015年(平成27年)3月、喜友名泉を含む西普天間住宅地区が返還され、その後、跡地は「西ふてんまウェルネスタウン」として、琉球大学病院の移転や都市公園の整備を含む大規模な再開発が進んでいます。喜友名泉はこの再開発の中でも大切に保全されている文化財です。

沖縄の湧水文化に触れる

沖縄県内には1,000か所を超える湧水が確認されており、喜友名泉はその中でも特に歴史的・芸術的価値の高い存在です。沖縄では湧水は単なる水源ではなく、信仰の対象でもあります。各地の泉では今も「カーウガミ(泉拝み)」と呼ばれる祈りの儀式が行われており、泉は神聖な場所として地域の人々に守り継がれています。

喜友名泉を訪れることは、ビーチやリゾートとは異なる沖縄の一面 ― 何世紀にもわたって琉球の人々の暮らしと信仰を支えてきた水の文化 ― に触れる貴重な体験となるでしょう。

周辺情報

喜友名地区と宜野湾市には、合わせて訪れたい文化スポットが点在しています。

  • 喜友名の石獅子群(市指定有形民俗文化財) ― 喜友名集落を取り囲むように配置された7体の石獅子(シーサー)。集落に災いが入らないよう「返し(ケーシ)=魔よけ」として外につながる道に面して置かれており、一つの集落にこれほど多くの石獅子が残るのは県内でも珍しい存在です。
  • 普天間宮 ― 宜野湾市を代表する神社で、本殿の下には琉球石灰岩の鍾乳洞があります。国道330号沿いに位置し、アクセスも便利です。
  • 森の川(県指定名勝) ― 宜野湾市真志喜にある湧水で、沖縄の羽衣伝説ゆかりの地として知られています。
  • 嘉数高台公園 ― 沖縄戦の激戦地跡に整備された公園。展望台からは宜野湾市街や普天間飛行場を一望でき、慶良間諸島まで見渡せます。
  • トロピカルビーチ ― 沖縄コンベンションセンターに隣接する人気のビーチ。海沿いの散策にもおすすめです。

見学について

喜友名泉は文化財保護の観点から、見学には事前の連絡が必要です。希望日の1週間前までに、宜野湾市教育委員会文化課(098-893-4430)または喜友名区自治会(098-892-3649)までお問い合わせください。受付時間は月曜日から金曜日の午前9時から午後5時です。

泉までの坂道は急勾配で足元が不安定な箇所もあるため、歩きやすい靴をお勧めします。屋外の遺構のため、夏季は日差し対策と水分補給の準備をお忘れなく。宜野湾市文化財ガイド「察度の会」のボランティアガイドによる案内を受けられる場合もありますので、予約時にお尋ねください。

Q&A

Q見学には予約が必要ですか?
Aはい。見学を希望される方は、希望日の1週間前までに宜野湾市教育委員会文化課(098-893-4430)または喜友名区自治会(098-892-3649)にご連絡ください。受付は月〜金の午前9時〜午後5時です。
Qアクセス方法を教えてください。
Aお車の場合は、沖縄自動車道の北中城ICから一般道で約20分です。路線バスをご利用の場合は、喜友名バス停(77番・21番・23番・88番・223番・288番・31番)で下車し、徒歩約5分です。
Q入場料はかかりますか?
A入場料は無料です。ただし、事前予約が必要ですのでご注意ください。
Qウフガーとカーグヮーの違いは何ですか?
Aウフガーは主に男性や家畜が水浴びや洗い物に使った大きな泉で、若水(ワカミジ)や産水(ウブミジ)を汲む儀式的な水源でもありました。カーグヮーは女性と子どもが飲料水を汲んだり洗濯をしたりするための泉で、水を汲みやすい樋口が設けられています。
Q車椅子やベビーカーでの見学は可能ですか?
A泉までの坂道は約100メートルの距離に25メートルの高低差がある急勾配で、石畳や不整地が続くため、車椅子やベビーカーでの見学は困難です。歩きやすい滑りにくい靴でお越しください。

基本情報

名称 喜友名泉(ちゅんなーがー)
文化財指定 国指定重要文化財(建造物)
指定日 1992年(平成4年)8月10日
築造年代 江戸後期(1751〜1829年頃)
構成 石造井泉(ウフガー・カーグヮー)、周囲水路、石垣、進入路(120.7m)からなる1郭
所在地 沖縄県宜野湾市字喜友名西原1607番地
所有 宜野湾市、国立大学法人琉球大学
アクセス 沖縄自動車道 北中城ICから車で約20分 / 喜友名バス停から徒歩約5分
入場料 無料(要事前予約)
予約・お問い合わせ 宜野湾市教育委員会文化課 098-893-4430 / 喜友名区自治会 098-892-3649(月〜金 9:00〜17:00)

参考文献

喜友名泉(ちゅんなーがー)(国指定重要文化財)― 宜野湾市公式サイト
https://www.city.ginowan.lg.jp/sightseeing/tourist_attractions/7129.html
喜友名泉 ― 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/202579
喜友名泉(国指定重要文化財) ― おきなわ物語(沖縄観光コンベンションビューロー)
https://www.okinawastory.jp/spot/30000027
沖縄本島の井泉散策|今も残る暮らしの風景 ― おきなわ物語
https://www.okinawastory.jp/news/tourism/4642
集落に残る石獅子と湧泉|宜野湾市喜友名|シマ散策 ― 沖縄タイムス
https://fun.okinawatimes.co.jp/columns/enjoy/detail/12890
西普天間住宅地区トップページ ― 宜野湾市公式サイト
https://www.city.ginowan.lg.jp/soshiki/kichi/kichiatochisuishin/1_1/15112.html

最終更新日: 2026.03.22